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―転生の果てⅥ―  作者: MOON RAKER 503


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第12話 転生したら 書き間違えた伝票だった

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


転生の果てシリーズは、転生の果てⅥで終了になります。

ここまで読んで頂いたこと感謝します。

ありがとうございます。


――午後二時、事務所。


「 」は、机の上で書かれている。


ボールペンの先が、紙に触れる。


文字が、刻まれていく。


配送伝票。


宛先、住所、品名、数量。


カーボン紙を挟んで、複写される。


一枚目――原本。

二枚目――控え。

三枚目――倉庫用。


全てに、同じ文字が写る。


「えーと……」


確認しながら、書いていく。


宛先:「株式会社 山田商事」


住所:「東京都港区――」


品名:「事務用品一式」


数量――


ここで、手が止まる。


注文書を、確認する。


「50個、か」


ペンを、動かす。


「5」


「0」


だが――


書き終わって、見返すと。


「50」ではなく――


「500」


になっていた。


「0」を、ひとつ多く書いてしまった。


「……あ」


気づく。


だが――


カーボン紙で複写されている。


三枚とも、「500」。


「……まあ、いいか」


呟く。


「どうせ、倉庫で確認するだろうし」


そのまま、放置する。


修正液を使うのも、面倒。


書き直すのも、面倒。


「大丈夫だろ」


軽い判断。


「 」は、完成する。


三枚に分けられる。


一枚目――配送担当へ。


二枚目――ファイリング。


三枚目――倉庫へ。


それぞれ、送られる。


倉庫に、三枚目が届く。


作業員が、受け取る。


「……500個?」


首を傾げる。


「多いな」


だが、伝票に書いてある。


「まあ、注文が増えたのかな」


そう判断する。


棚を、確認する。


事務用品一式――


在庫を、数える。


「……500個もないな」


足りない。


「発注しないと」


急いで、発注処理。


本社に、連絡。


「事務用品、500個必要です」


「500? そんなに注文入ってたっけ?」


「伝票に、そう書いてあります」


「そうか……分かった。手配する」


発注が、通る。


仕入れ先に、連絡。


「事務用品一式、500個お願いします」


「500ですか。かなり多いですね」


「はい、急ぎでお願いします」


「分かりました」


手配される。


大量の、在庫。


翌日。


配送担当が、伝票を見る。


「山田商事、500個か」


トラックに、積み込む準備。


だが――


「500個って、トラック一台じゃ無理だな」


計算する。


「二台、必要だ」


もう一台、手配する。


コストが、増える。


だが、伝票に書いてある以上――


従うしかない。


二台のトラックで、出発。


山田商事に、到着。


「配送です」


「はい」


荷物を、降ろし始める。


次々と、運ばれる段ボール。


受付の担当者が――


数を、確認する。


十個。


二十個。


三十個。


「……あの、何個ですか?」


「500個です」


「500!?」


驚いた声。


「うちが注文したのは、50個ですよ」


「え?」


配送担当が、伝票を確認する。


「でも、ここに500って……」


「いや、絶対50個です。注文書、見せます」


注文書が、出される。


確認する。


「数量:50個」


はっきりと、書いてある。


「……あ」


配送担当が、気づく。


「書き間違いだ……」


「はぁ?」


受付担当が、困惑する。


「どうするんですか、これ」


「すみません、すぐに確認します」


電話を、かける。


本社に。


「伝票の数量、間違ってました」


「何?」


「500じゃなくて、50です」


「マジか……」


沈黙。


「どうしましょう」


「……とりあえず、50個だけ降ろして」


「残りは?」


「持ち帰って」


「分かりました」


作業が、やり直される。


50個だけ、降ろす。


残り450個は――


トラックに、戻す。


時間が、かかる。


二時間。


ようやく、終わる。


山田商事の担当者が――


不機嫌そうな顔。


「今後、気をつけてください」


「申し訳ございません」


頭を下げる。


トラックが、戻る。


倉庫に、450個。


不要な、在庫。


「どうするんだ、これ」


倉庫担当が、頭を抱える。


「返品できるのか?」


本社に、確認。


「仕入れ先に、連絡してみます」


電話。


「すみません、発注ミスで……」


「返品ですか」


仕入れ先の声が、冷たい。


「受け付けられません」


「え?」


「もう、納品済みです。返品は、規約違反です」


「そこを何とか……」


「無理です」


電話が、切れる。


「……ダメだった」


報告。


「じゃあ、どうするんだ」


「在庫として、持つしかない」


「置き場所、ないぞ」


「……何とかします」


倉庫の隅に、積まれる。


450個の、余剰在庫。


経理部に、請求が来る。


事務用品一式、500個分。


金額を、確認する。


「……高いな」


予算を、大幅に超えている。


「なんで、こんなに発注したんだ」


担当者に、確認。


「伝票に、500って書いてあったので」


「誰が書いたんだ?」


「◯◯さんです」


「呼んで」


事務所に、呼ばれる。


「 」を書いた、担当者。


「これ、君が書いた伝票だよな」


「はい」


「数量、500になってるけど」


「え……?」


伝票を、見る。


「あ……」


思い出す。


「0」を、ひとつ多く書いた。


「すみません、書き間違いです」


「書き間違い?」


上司の声が、冷たい。


「それで、どれだけ損失が出たか分かってる?」


「……」


「余分な配送コスト、トラック二台分」


「在庫の保管コスト」


「そして、山田商事からの信頼低下」


「申し訳ございません……」


頭を下げる。


だが――


上司の表情は、厳しい。


「今後、気をつけるように」


「はい」


「それと――」


「次、こういうミスがあったら、ただじゃ済まないからな」


「……はい」


解放される。


デスクに、戻る。


座る。


周囲の視線が――


刺さる。


「あの人、ミスしたらしい」


「損失、結構出たって」


噂が、広まっている。


「 」は、ファイルに綴じられている。


二枚目の控え。


「500」


その数字が、はっきりと残っている。


修正不可。


記録として、永遠に。


数日後。


別の業務で、伝票を書く。


だが――


手が、震える。


「また、間違えたら……」


恐怖。


何度も、確認する。


数字を、書く。


見直す。


もう一度、見直す。


時間が、かかる。


「遅いな」


上司が、声をかける。


「すみません、確認してまして……」


「早くしろ」


「はい」


焦る。


だが――


焦ると、また間違えそうで。


慎重になる。


結果――


さらに遅くなる。


効率が、落ちる。


「最近、仕事遅いぞ」


また、言われる。


「すみません……」


謝ることしか、できない。


信頼が――


下がっている。


一度のミスが、全てを変えた。


「また間違えるんじゃないか」


そう思われている。


事実、本人も思っている。


「また、ミスするかもしれない」


恐怖が、付きまとう。


伝票を書くたび。


数字を書くたび。


「間違えてないか?」


何度も、確認する。


だが――


確認すればするほど、不安になる。


「本当に合ってるのか?」


自信が、持てない。


ある日。


また、伝票を書く。


数量を、記入する。


「30個」


確認する。


注文書と、照らし合わせる。


「30個」


合っている。


だが――


不安。


もう一度、確認する。


「30個」


やはり、合っている。


だが――


「本当に?」


三度目の、確認。


「30個」


「……」


四度目。


「30個」


「いい加減にしろ」


上司が、声をかける。


「何度、確認してるんだ」


「すみません……」


「一度確認すれば、十分だろ」


「はい」


だが――


不安は、消えない。


「 」が残した、傷跡。


一文字の誤記が、生んだ連鎖。


損失。


信頼低下。


恐怖。


全てが――


修正できない形で、残っている。


「 」は、ファイルの中で。


他の伝票と、一緒に。


保管されている。


「500」


その数字と共に。


誰も悪者ではない。


ただ――


一瞬の油断が、全てを変えた。


「0」ひとつの、違い。


それが――


最も重い、結果になった。


(了)

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