表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
―転生の果てⅥ―  作者: MOON RAKER 503


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/19

第11話 転生したら 積み上がった未開封の箱だった

この物語を手に取ってくださり、ありがとうございます。

ほんのひとときでも、あなたの心に何かが残れば幸いです。

どうぞ、ゆっくりと物語の世界へ。


転生の果てシリーズは、転生の果てⅥで終了になります。

ここまで読んで頂いたこと感謝します。

ありがとうございます。


――部屋の隅。


「 」は、床に置かれている。


段ボール箱。


茶色い、四角。


ガムテープで、封がされている。


中身は――


通販で買った、本。


届いたのは、二週間前。


「後で開けよう」


そう思って、置いた。


だが――


まだ、開けていない。


「 」の上に――


また、箱が置かれる。


新しい、荷物。


今度は、服。


「これも、後で」


積まれる。


二つの、箱。


さらに、一週間後。


また、届く。


家電製品。


「忙しいから、後で開けよう」


三つ目の、箱。


「 」の上に、積まれる。


高さが、出てくる。


部屋の隅に――


段ボールの山。


誰にも開けられず。


誰にも触れられず。


時間だけが、過ぎていく。


埃が、積もり始める。


箱の角に、白い粉。


一ヶ月。


二ヶ月。


また、荷物が届く。


「とりあえず、あそこに」


四つ目。


五つ目。


六つ目。


山が、高くなる。


部屋の隅を、占領していく。


「 」は、一番下に在る。


全ての重さを、支えている。


段ボールが――


わずかに、潰れ始める。


だが、まだ耐えている。


ある日。


友人が、訪ねてくる。


「久しぶり」


「ああ、久しぶり」


部屋に、入る。


視線が――


隅の山に、向く。


「……何、あれ」


「あ、荷物」


「開けてないの?」


「うん、まあ……忙しくて」


「いつ届いたの?」


「一番下のは……二ヶ月くらい前かな」


「マジで?」


驚いた声。


「開けなよ」


「うん、そのうち」


「そのうちって、いつ?」


「……時間できたら」


「今、時間あるじゃん」


「いや、でも……」


言い訳。


本当は――


開けるのが、面倒になっている。


積み上がった箱を見ると――


気が重くなる。


「全部開けるの、大変だし」


「一つずつ開けていけばいいじゃん」


「まあ、そうなんだけど」


「じゃあ、手伝うよ」


「いや、いいよ」


「なんで?」


「……また今度」


友人が、首を傾げる。


「変なの」


だが、それ以上は言わない。


話題が、変わる。


友人が、帰る。


残された部屋。


隅の山が――


じっと、在る。


開けられるのを、待っている。


だが――


開けられない。


先延ばし。


「明日やろう」


「週末にやろう」


「来月、時間できたら」


理由を、つけ続ける。


そして――


また、荷物が届く。


七つ目。


八つ目。


山が――


崩れそうなほど、高くなる。


「 」は、一番下で。


全ての重さに、耐えている。


段ボールが、かなり潰れてきた。


中の本が――


圧迫されている。


ページが、曲がっているかもしれない。


だが――


確認できない。


開けていないから。


ある日の夜。


仕事から、帰る。


疲れている。


部屋に入る。


視線が――


自然と、隅の山に向く。


「……また増えてる」


今日も、荷物が届いていた。


九つ目。


置き場所が――


もう、ない。


仕方なく、山の横に置く。


二列目。


新しい山が、始まる。


「……ヤバいな」


呟く。


だが――


今日も、開けない。


疲れているから。


明日、やろう。


そう、思う。


だが――


明日も、開けない。


また、忙しい一日。


帰ってきたら、疲れている。


開ける気力が、ない。


「週末に、まとめてやろう」


そう、決める。


だが――


週末も、開けない。


寝坊して、昼過ぎに起きる。


昼食を食べて、ゴロゴロする。


夕方になる。


「もう、今日はいいや」


明日、やろう。


だが、明日は月曜日。


仕事がある。


また、疲れて帰ってくる。


開けられない。


繰り返し。


先延ばしの、連鎖。


山は――


どんどん高くなる。


十個。


十一個。


十二個。


部屋の隅が――


段ボールで、埋まっている。


圧迫感。


視界に入るたび――


憂鬱になる。


「開けなきゃ……」


思う。


だが――


「今じゃなくていいか」


先延ばす。


そして――


ある夜。


地震が、あった。


小さな揺れ。


震度3ほど。


だが――


その揺れで。


山が――


崩れた。


ガタガタガタ……


ドサッ。


段ボールが、倒れる。


積み上がっていた箱が――


バラバラになって、床に散らばる。


「うわっ」


驚いて、見る。


部屋中に――


段ボール箱。


十二個の箱が、散乱している。


「……最悪」


呟く。


片付けなければ。


だが――


どこから、手をつければいいのか。


一番下にあった「 」も――


他の箱と一緒に、転がっている。


角が、潰れている。


ガムテープが、剥がれかけている。


「……開けるしかないか」


諦めて、一つ手に取る。


ガムテープを、剥がす。


開ける。


中には――


本。


二ヶ月前に買った、本。


表紙が――


曲がっている。


ページも、湿気を吸って波打っている。


「……」


次の箱を、開ける。


服。


だが――


シワだらけ。


長期間、圧縮されていた。


もう、着られるか分からない。


次。


家電製品。


箱を開ける。


説明書が、入っている。


保証期間を、確認する。


「……切れてる」


購入から、三ヶ月。


保証期間内だったのに。


開けなかったから――


確認できなかった。


動作チェックも、していない。


不良品だったら――


もう、保証が効かない。


次々と、開けていく。


全ての箱。


だが――


どれも、状態が悪い。


放置されていた、結果。


時間が――


全てを劣化させていた。


「……何やってたんだろう、俺」


呟く。


床に座り込む。


周囲には、開けられた箱。


中身が、散乱している。


買った時は――


必要だと思った。


欲しいと思った。


だが――


開けないまま、放置した。


結果――


全てが、無駄になった。


本は、曲がった。


服は、シワだらけ。


家電は、保証切れ。


何のために、買ったのか。


何のために、お金を使ったのか。


「……バカだな」


自分を、責める。


だが――


遅い。


もう、戻らない。


片付けを、始める。


箱を、畳む。


中身を、整理する。


だが――


気持ちは、重い。


先延ばしにした、ツケ。


蓄積された、後悔。


全てが、今。


降りかかってきている。


翌日。


ゴミの日。


畳んだ段ボールを、出す。


大量の、箱。


「 」も、その中に。


一番下で、重さに耐えていた箱。


潰れた、姿のまま。


ゴミ集積所に、置かれる。


回収される。


「 」は、理解している。


開けられない時間が、重さに変わっていったことを。


何もしないという選択が、確実に結果を作ることを。


部屋に、戻る。


隅が――


空になっている。


圧迫感が、消えた。


だが――


空虚感が、残る。


無駄にした、時間。


無駄にした、お金。


無駄にした、物。


全て――


先延ばしの、結果。


「もう、こんなことしない」


呟く。


だが――


数日後。


また、荷物が届く。


「……」


見つめる。


すぐに、開けるべきか。


それとも――


「忙しいし、後で開けよう」


また、隅に置く。


繰り返し。


学ばない、人間。


「 」は、ゴミ処理場で。


他の段ボールと、一緒に。


圧縮されている。


潰れた、姿のまま。


だが――


残したものは、消えない。


先延ばしの、記憶。


蓄積の、恐怖。


それらは――


新しい箱の上に、また積もっていく。


(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ