また、会えるなんて(1)
叔父の手術は無事に終わった。
俺はその後も足の悪い叔母に代わって、何度か着替えを届けたり、見舞いに足を運んでいた。2人には感謝してもらえたし、会社勤めより身動きが取りやすいってのは、実況者の強みみたいなもんだ。
もちろん——目的は、もう一つあった。
病棟にいる彼女。
月平菜緒という名の、穏やかな笑顔を持つ看護師。
いつも病棟を忙しそうに駆け回っていて、患者に優しく声をかけたり、時には叱ったり。真面目で、でも表情豊かな人だな、と思った。
たまに会話をすることもできた。
「こんにちは。鈴木さんのご家族の方ですね」
「あ、はい。甥です」
「だいぶお元気そうですね。術後の経過もいいですし、リハビリも順調みたいですよ」
……会話という会話でもない。
でも、たったそれだけのやり取りで、心臓がふわっと持ち上がる。
ナース服で仕事中の彼女は、あの電車での彼女とは少し違う雰囲気だった。けれど、それでも笑顔は変わらなかった。見かけるだけで、視線が奪われる。
——中学生かよ。
帰り道、そう自分にツッコミを入れる。
挨拶しただけで浮かれて、次の一言を言えなかったことに脳内大反省会が繰り広げられる。
しかも。
別の日に訪れた際、見てしまったのは、ナースステーションの奥で、彼女が若いイケメン医師と笑いながら話している光景。
自分の知らない、砕けたような笑い方。気軽な口調。
別に、何でもない会話だとわかってる。仕事仲間と会話することなんて、当たり前だ。なのに、どうしてこんなにモヤモヤするんだろう。
GG4のメンバーには収録のとき、何気ない雑談の流れで「一目惚れのその後」を聞かれた。誤魔化したって逃げきれる奴らじゃない。正直に話すと、3人は偶然の再会に一斉に驚きつつも、嬉しそうに笑った。
「なんだよ羊くん、青春してんじゃん」
「いやー、これはもう、名前と顔覚えてもらえるまで通うしかないでしょ。そんでもって連絡先を交換して、デートに誘って……」
「意外と王道のラブコメ展開……っぽいな。俺は好きだぞ、そういうの」
「…うっせぇわ……」
気恥ずかしさで耳まで赤くなりながらも、あいつらの言葉に少しだけ前向きになれた。
それでも、叔父はニ週間ほどで退院した。
彼女との繋がりは、患者の家族と医療従事者という点のみ。それ以上でもそれ以下でもない。
今ならきっと、一時的な気持ちの浮つきで終えられる。そしてこの出来事が、GG4のメンバーとの酒の肴になって、しばらくからかわれるところまでがワンセット。
さすがにもう会える機会はないだろうと、諦めかけていた。
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