誰が、そこにいるのか(1)(Side;菜緒)
翌週、待ち合わせ場所である駅前で、齊藤さんがこちらに向かってくるのを見た瞬間、思わず数歩後ずさった。
遠くからでも分かるオーラ。何もしていないのに、なぜか光って見える。……これが、人気実況配信者の存在感なのだろうか。
そして何より、女性たちの反応がすごかった。
道ゆく人が振り返り、視線を送る。時には小さく声をあげる人も、写真を撮ろうとスマホを構える人までいる。
「ごめんね、待たせた?」
目の前に現れた齊藤さんは、そんな周りのことなんて気にならない様子で。この前と同じ柔らかい笑顔でそう言ってくれたけれど、こちらの心拍数は落ち着かないままだった。
「い、いえっ…こちらこそ……」
——周りの視線が痛い。
(なんか…隣にいるのが私ですみません、って気持ちになってくる……)
それ以上、あれこれ考える暇もなく、彼の案内でおすすめのカフェに入った。
こぢんまりしていながらも落ち着いた雰囲気のある店内。しかしカフェの店員さんの表情が齊藤さんを見て「はっ!」となった後、「ぽわーん」となったのを、私は見逃さなかった。どこまでも罪作りなお方である。
「ここのケーキ、美味しいんだよ。たまにGG4の差し入れにも持って行くんだ。季節限定のおすすめモンブラン、今日までみたいだね」
そう言われて、おすすめのケーキとコーヒーを頼む。運ばれてきたモンブランは確かに絶品で、口の中でふわっと甘さが広がった。
「それで、GG4のことどう思うか、いろいろ聞かせてくれる?」
そんなふうに始まったカフェでの会話は、思った以上になごやかで心地よかった。
緊張していたのが嘘のように、私はGG4への思いをぽつりぽつりと語り出した。
4人の掛け合いが、いつも私たちファンを楽しませてくれること。
Renさんがリードし、セイさんがムードを一気に引き上げ、そこにぐっちさんの発言でカオスになりながらも、羊さんがトークでばしっと締めて、更に面白さが加速するGG4というグループ。
話は各メンバーのことまで広がり、気がついたら話題は羊さんのことになっていた。彼の実況の合間に見せる何気ない一言がどれだけ素晴らしいか、話し方や言葉の選び方にどれだけ心を掴まれるのか、息つく暇もなく私はその魅力を語っていた。
少し話しすぎたかもしれない、と思ったころ、齊藤さんがコーヒーカップを持ち上げながら、ふっと笑った。
「やっぱり、羊くんのこと、好きなんだね」
ドキリとした。思わず視線を逸らす。声が上擦ってしまう。
「え、あっ……その、好き……っていうか、尊敬、というか…」
「ふふ、いいよ。ファンってそういうものでしょ」
齊藤さんはそう言いながら、GG4の収録裏話や、彼らの結成秘話などをぽろっと教えてくれた。
裏側を知っている人から聞く話は、どれも新鮮で面白くて、私はついつい聞き入ってしまった。
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