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親友(仮)のお節介(2)

 月平さんは最初こそ緊張していたが、お酒が進むにつれて口数が増えてきた。


「今日はすっごく楽しかったです~! Renさんは本当にイケメンで、冷静な進行が完璧で~……ぐっちさんの天然発言に加えて、安心感のある流れも最高で~……セイさんの叫びとノリもとっても面白くて~……でも、羊さんのツッコミがないと成立しない感じが、めっちゃ好きですぅ~!」


 酔うと語尾が伸びるんだな。笑い上戸らしく、ずっとクスクスしている。赤くほてった頬にふにゃっとした目。ちょっと理性がぐらつくくらい、本当に可愛らしかった。


 しかし、悪いことに——


 俺の一目惚れ情報は、四宮によってGG4メンバー、他関係者に完全に共有されていた。


「羊くんって、面食いだったんだね~」とにこやかに笑いながら言う井口さんの奥さん。


「ひつじおにいちゃん! 女はね、押しの強い男に弱いのよ。猛プッシュよ! A連打よ! 私もそれで落ちたもん! 実体験!」


 そんなアドバイスをしてくれたのは、井口さんの娘、みのりちゃん。小学ニ年生。

 ジュース片手に力強く語る姿が妙に堂々としていて、ちょっとツッコめなかった。


「えーっと、誰にA連打されたんだい? パパに教えてくれるかな?」

 

(井口さん、目が笑ってないっす……)



 一方、テーブルの向こう側では、齊藤さんと月平さんが話していた。柔らかな笑顔でうなずく彼女と、穏やかに相槌を打つ齊藤さん。

 そこの空間だけ時間の流れが違うようだった。2人が隣り合う姿は絵になっていて、胸の奥が痛む。


(……齊藤さん、マジかっけーもんなぁ。俺が女でも惚れるわ……)



「菜緒さんって、何されてるんですか?」

 齊藤さんが尋ねると、


「看護師してます~。整形外科なので、骨折とか、怪我の人が多いですね~」

 と、相変わらず語尾が伸びた月平さんが答える。


「ああ、それで羊くんと知り合ったんだね」


「……そうですね~。若い男の人がお見舞いに来ることって珍しいので、看護師の間でも話題になってました~。“イケメンが来てるよ~”って」


(……何それ。そんな話、聞いてない。)


 自分のこと、少しでも意識してくれていたのかな——胸の奥が浮き上がる。少し酔ってるせいか、うまく表情を保ててる気がしない。



 でも結局、その夜は彼女とろくに話せないまま、打ち上げはお開きとなった。


 帰り際、「送りますよ」と言ったけれど、「タクシーで帰るので大丈夫です~」とやんわり断られてしまった。



 多分、気を遣ってくれたんだと思う。でも——


 たとえ2人になれたとしても、何を言えばいいかわからなかった。


 「自分のこと、黙っててすみません」?

 違う。すみません、じゃない。もっと……何か、言わなきゃいけなかった気がする。



 俺自身は実況者という仕事に自信を持っている。この道を歩んでいることに後悔はない。でもそれが、世間的には不安定で危うく見えるという現実も知っている。


 看護師という立派な職業に就いている彼女の隣に、自分が立てるのか。そもそも俺は彼女に男として、認めてもらえるのか。


 その答えが、まだわからなかった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
羊くんと奈緒さん、二人の心理描写が美しく丁寧に綴られていて、二人の恋路を見守るほど、こちらの心もほんわかしたり時に切なくなったりと、気がつけば西宮様の紡ぐ物語から溢れる優しい世界観にどんどん引き込まれ…
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