表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/32

親友(仮)のお節介(1)

「んで、どーいうことかなぁ?」


 公開実況の幕が下りた直後。周りの空気は達成感に満ちている。

 しかし俺が控室のソファでペットボトルの水を一口飲んだ瞬間、四宮の訝しげな顔が間近に迫ってきた。


「……近い。……なにが。」


「俺のカン、舐めんなよ? どんだけ一緒に実況やってると思ってんの。ラストの人狼、完全に上の空だったじゃん。あれ、集中してる顔じゃなくて“フリーズしてる”顔、だからね。で?  何があったの、羊くん?」


 井口さんの所には奥さんとお子さんが来ている。

 齊藤さんは会場スタッフと談笑中だ。

 逃げ場はない。

 観念して、俺は一息吐いて静かに言葉を継いだ。


「……俺のセクションに、知ってる人がいて。たぶん、目があったんだ。……この前、……ちょっと、話した人で」


「ふぅん?」


 四宮の目がぎらっと光る。


「“ちょっと”で、あの動揺はないっしょ? んで?」


「いや、だから……思ってもなかったっていうか……まさか来ているとは思わなくて。しかも隣に……男がいて…」


「……おっと。なんか話が見えてきたぞ。ってことはさ、もしかして、その“知ってる人”って……お名前は?」


「……月平さん――」


「はっ! よし、追おう!」


「は???」


「羊くんの担当セクションの観客は混雑対策で出口Cしか使わないって裏方さんが言ってた。行くよ、Cゲート!」


 そう言うや否や、四宮は俺の腕を引っ張って立ち上がらせる。こいつ、やたら行動が早い。


 四宮の素早い判断と行動力に背中を押された。反論する間もなく、俺たちは控室を飛び出した。



 関係者用通路を抜け、Cゲートへ急ぐ。初めは急ぎ足だったのに、気がついたら走り出していた。


 出口のちょっと手前で、月平さんを見つけた。

 知らない男に話しかけられている。距離がやたら近い。彼女が困ったように少し後退り、男が彼女の肩に触れようとしたのを見た瞬間——


「月平さん!」


 無意識に声が出ていた。



 振り返った彼女の顔が、一瞬で緩む。驚きと安堵の入り混じった、なんとも形容しがたい表情。



「今日はありがとうございましたー! 月平ちゃん、探したよー」


 四宮が人懐っこい笑顔で彼女の腕を自然に取り、こちらに引き寄せた。


(……俺だってまだ触れたことないのに)


 妙に場違いな感情が湧き上がるのを、苦笑いでごまかした。



「さっ、行こっか。こっち、関係者通路」


 相手の男は何も言えず、立ち尽くしていたが、俺と四宮はそのままスタッフ用の通路へと彼女を誘導した。


***


「初めまして! 羊くんの大・親友の、セイでっす!」

 

 四宮がいつものテンションで明るく自己紹介する。


「……いつから大親友だよ。何時何分何秒にそうなったんだ」


「もうぅ~、照れなくてもいいのにぃ?」


 彼女はまだ混乱しているようだった。俺と四宮の顔を交互に見て、少しして状況を理解したのか

「あの、ありがとうございます。助かりました。」と言ってぺこりと頭を下げた。


 目は合わない。

 でも、明らかにホッとした空気が伝わってくる。



「女の子が困ってたら助けるのが紳士ってもんでしょ~。それに俺、菜緒ちゃんには会ってみたかったんだよね! なんたって羊くんのひとめb——」


 ダンっ!!


「いったぁ! 羊くん、足! 踏んでる! 踏んでる!!」


「……あぁ、わりぃ。気づかなかったわ」


 口調は淡々と答えたが、内心は真っ赤だった。

 お前、今“一目惚れ”って言おうとしたよな。何、本人の前でバラそうとしてんだ。

 あと、「菜緒ちゃん」って。俺だってまだ名前呼びしたことないのに!!



 ふと、彼女が一人でいることに気づいた。


「あれ? 一緒に来てた人、いませんでしたっけ?」


「……あぁ、弟のことですか? あの子は当直の時間が近くて、先に出ましたけど」


「……弟?」


 思わず言葉を漏らしてしまった。その言葉になんとなく、胸が少しだけ軽くなった。


 沈黙が広がる。そこに、明るく切り出してきたのは四宮だった。


「でさ! 菜緒ちゃん、この後用事ある?」


「いえ、特には……」


「じゃあさ、よかったら打ち上げ、来ようよ! ぐっちさんの奥さんや娘さんもいるし、内輪だけの飲み会だから! 気軽に!」


「えっ、でも……」


「いいのいいの! 来ちゃいなよ! ね、羊くん!」


「……ああ」


 そうして気がつけば俺たちは、彼女と共に打ち上げ会場の居酒屋の個室にいた。

読んでいただき、ありがとうございました。

もしよろしければ、評価、感想いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ