殺人マッチング
次のニュースです。G県T市で、巡回中だった警察官、熊代健太郎巡査24歳がナイフによって複数回にわたって刺され、その後、病院に運ばれましたが死亡が確認されました。現場にいた、K県に在住の桐嶋純容疑者を殺人未遂の疑いで現行犯逮捕されました。警察の取り調べに対して「私がやりました」と容疑を認めており、被害者とは面識はなかったと述べ……
「あっ!先輩またラーメン食べてる。太りますよ」
後輩の渚が豚を見るように、呆れた目でこちらを見てくる。
「いいんだよ今日は。朝からずっと取材で歩きっぱなしだっただから……ほら見てみろよ俺の努力の結晶を」
1万歩歩いたことを示すスマホ画面をおもむろに見せる。
「ほへぇーすごいですね…出不精の先輩にしては動いてますね…」
その画面に納得したのか、俺と同じメニューを頼む。
「すいません大将!チャーシューラーメンネギ多めで」
「渚お前も人のこと言えないほど、毎回ラーメン食べてるだろう」
「いいんですよ、先輩と違って私はまだ若いから」
お前と俺そんなに年齢変わらないだろうと思いながら、女性に年齢のことを言うのはやぶさかだと考え、自分のラーメンに集中しようとする。
……では、現場にいる蒼井さん。現場の状況についてに教えてください。……はい、事件が発生したG県T市に来ています。夜2時ごろに起きたこの事件ですが…
「それにしても先輩、この事件って不思議ですよねー」
渚の意味ありげな言葉に、箸が止まる。
「何がだ?警察官が殺害されたことがか?」
「そうですよ!警察官がそう簡単に殺されることはないでしょう。先輩と違って鍛えているだから」
「俺と比べるじゃねぇよ!不意打ちとかされたんじゃないの。警察官だって人間なんだから」
「それが、正面からそのまま殺されたんですよ。それに、この人柔道で全国大会優勝したことあるって社会部の同期が言ってましたよ」
「そう言われると確かに気になる点はあるな」
「そうでしょう。そう思うと思って同期が持ってた、この事件現場近くの防犯カメラの映像持ってきましたよ!」
「俺たちは文化部だろう。関係ないのに見てもしょうがないだろう」
「いいんです。さっさと会社戻って映像見ますよ!」
いつの間にかチャーシューラーメンを完飲していたのか、元気な後輩の後をついていく。
会社に着くと、渚はおもむろにタブレットを見せてくる。
「それじゃあ先輩、防犯カメラの映像を見てみましょう」
「……わかったよ」
確かに、映像には容疑者が警察官を殺害するまでの過程がはっきり映っていた。
「先輩、やっぱりなんか変に思いません。ナイフ持った人が近づいてきたのに、この警察官、容疑者から離れたり、警告したりしてないんですよ」
彼女は何か期待しているような目で見ているように感じた。
「そうだなぁ……たまたまじゃないか。夜で暗くて容疑者が持っていたナイフが見えなかったかもしれないし」
「……そうですね……先輩もそう言ってますし、たまたまですかね」
そう言うと渚は、落胆した表情を一瞬見せたが、切り替えるように彼女は次の仕事の準備を始めていた。
夜になり会社には俺一人しか残っていなかった。
俺はおもむろにタブレットに手を出し、昼過ぎに見た防犯カメラの映像を改めて見る。
渚は、この事件に違和感を感じて、俺にその違和感を見つけ出してくれるかもしれないかと期待していたのかもしれない。
……だけど、俺はこの映像を見た時に直感的に、この事件は掘り下げない方が良いと思った。
映像の途中に気になった所を見つけてストップさせる。画面上には、犯人と相対する警察官が写っている。警察官の顔をズームする。そこには、警察官が白い歯を出し、少し笑っているように見える。
知り合いだったのか?いや、ニュースではそんなことは言っていなかった。
この警察官、何かが起きることを知っていたのかもしれない。
だけど、なぜ笑う?殺されたかったのか?
殺されたかったのかもしれない。
殺されたかったのなら殺してくれる相手を見つけないといけない。
どうやって?
もうこれ以上深掘りしても出てこないだろう。後は、警察が真相探してくれるだろう。
殺したい人と殺されたい人、そんな2人を繋げる方法なんてあるのだろうか。
「もしもし、熊代なんですが、明日の夜の2時ごろにお願いしてもいいですか……殺人マッチング」