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二度目の面会



それから半年ほど経った時、辺境伯が再びアリアを訪ねてくるとメイドから伝えられた。


(そういえば伯爵も、私と結婚しなければ公爵の地位はないのだったわね。ご苦労な事だわ)

アリアの感想はそれくらいだった。


約束の日になると辺境伯がアリアの住処である北の塔までやって来て、やっぱり出迎えもない中でアリアの部屋の前まで来た。

コンコンと控えめな扉をたたく音の後に、低い呼びかけの声が聞こえた。


「第二王女殿下」

「何をしに来たの」

「恐れ多いのですが、少しお話をする機会をいただければと」

「必要ないわ」

「しかし」

「私が必要ないと言っているの。もう帰りなさい」


アリアがピシャリと言い放つと、辺境伯は黙ったようだった。

扉の向こうはしんと静かになる。

しかし、誰も扉の前から動く気配がない。

扉に近づいて耳をそばだてると、王宮からの使者らしき声が、「今日こそは絶対に面会して結婚式の準備を勧めなくてはならん。殿下が出てくるまで待つ」と苛々した声で話しているのが聞こえた。

我慢比べという事か。呆れた。


アリアはしばらく扉を開けずに部屋でじっとしていたが、扉の向こうの人の気配がどうにも煩わしい。


「いいわ。そこまでするのなら開けてあげる」


先に我慢が出来なくなったのはアリアの方だった。

がちゃり、と扉を開ける。


「……?殿下?」

「っ……」


少し勢いよく開け過ぎた扉の外には、思ったよりも近くに辺境伯がいた。

身長が高い筈のアリアの背丈よりも、スッと高い辺境伯と目があう。


「第二王女殿下」


辺境伯が小さく呟いてゆっくり瞬きをしたのを見て、アリアはひゅっと息をのんだ。


眩暈がした。

別に、辺境伯が全然不細工ゴリラで無かったことに驚いたわけではない。いや、少なからず驚きはしたが、何より先に、目に飛び込んできた辺境伯の意思の光があまりに綺麗だったので、驚いたのだ。


(目を疑うわね……こんなに綺麗な意思の色は初めて見るわ)


何年も時間をかけて作られた宝石のような深い琥珀色なのに、限りなく透き通って見える。

アリアの真っ黒な意思や、王家の人間のどす黒い意思とは相いれない程綺麗だ。


唖然としたアリアが何も言葉を発せずに辺境伯をじっと見つめて立っていると、悪女に頭が高いと圧力をかけられているのだと勘違いした辺境伯が「失礼しました」と膝を折って頭を下げた。

騎士の習性で常に礼儀正しく在ってしまうのか、それとも目つきの悪いアリアに見つめられて睨まれているとでも思ったのか。

呆れたように思いつつ、アリアは辺境伯に頭を上げるように言った。


「畏まることは無いわ。それで、貴方が今日ここへ来た理由は、結婚式の話をするためだったかしら」

「はい」


辺境伯は表に感情を出すことがあまりないのか、真面目な顔で返事をした。


「いいわ。話してあげる。移動は面倒だから立ち話でいいかしら」

「構いません」

「ではさっさと済ませましょう。簡潔に言うわ。結婚はしても結婚式はしないでいいわ」

「え?」

「そして、貴方はもう私に会う必要は無い」

「……え?」

「聞こえなかった?結婚後、貴方はこの悪女にもう会う必要はないと言っているの」

「それは、どういうことですか」

「貴方は自由という事よ。貴方は私の機嫌を取る必要も無ければ、モノやお金を送る必要もない。貴方は何処に住んでもいいし、何をしてもいいわ。貴方はモテるでしょうし、側室を何人囲おうがかまわない。私は何も言わないし、貴方に接触することは無い。以上よ」


アリアは特に返事も聞かず、フイとそっぽを向いた。

そしてそのまま後ろ手に扉を閉め始めたが、一瞬その手を止めた。


「ああ、最後にひとつ」

「はい?」

「余計なお世話でしょうけど、エリーネがいくら魅力的でも彼女に嵌るのはお勧めしないわ」

「え?」

「諦めた方が身の為よ。男からしたら、彼女は諦めがたいでしょうけど」

「何の話を……?」

「まあいいわ。悪女の戯言よ」


扉を締め切る前の一瞬だけ、アリアは辺境伯の琥珀色の瞳を見た。

スッと切れ長の美しい瞳と目が合う。

いきなり呼び留められて、いきなり訳の分からないことを言われたかと思えば、またすぐに鼻先で扉を閉められた辺境伯だが、怒ったような気配はなかった。



これが、アリアが最初に辺境伯と話した時のこと。

その時はまさか、半年後にこの辺境伯が処刑されることになるとは夢にも思っていなかった。




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