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魔法使いと剣士の卵 ーうすら笑いと仏頂面のカイとディートの物語ー  作者: 花時雨
第三章 魔物

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第二十四話 釈放

 牢で夜を過ごした翌朝、カイはあてがわれた朝食を食べた後はすることが何もない。再び寝台に転がり、二度寝でもしようと毛布を(かぶ)ってうとうとしていたところで、地下牢中に自分の名前が響くのを聞いて目がはっきりと醒めた。


「カイ、起きているか? たいへんだ!」


 階段を走り降りながらカイの名を呼んだのは、ディートだった。

 カイが頭を振り、まだぼやける目を擦るうちにも、カイが入れられている牢獄の錠に鍵を突っ込んで開けようとしている。


「ディート、いったいどうしたんだ?」

「どうもこうもない! お前の無実がわかった」

「何だって?」

「バイスだったんだ」

「『バイス』?」

「今、話す。いいから早く出てこい!」


 ディートは獄の扉を開け放って激しく手招きをする。カイが慌てて扉をくぐり出るのを待つのももどかしそうに、友の肩をつかんで話し始めた。


「いいか、よく聞いてくれ。昨日も言ったが、親父、いや、保安官は例の牧場付近の森の捜索を行うことにした。町の他の地区の保安官や助手の手も借りてだ。彼らはもう集まって、割り当てられた担当区域に向かった。ところが、バイスが来ないんだ」

「来ない? 朝からここに出てこないということか?」

「ああ、そうだ。予定時間だった朝一番の教会の鐘が鳴っても来ない。おかしいから、俺が呼びに行かされた。そうしたら、下宿にもいないんだ。扉を叩いても、出てこないどころか、返事もない。急いで戻って保安官に報告した。そして二人で家主の所に行って、親鍵を借りて部屋の中に入った。だが、留守だった」

「留守? 一人で捜索に直接に出かけたのか?」

「いや、近所の人たちの話では、昨日の夜に出て行ってから帰ってきた気配がない。部屋の中を調べたら、こんなものが何枚も出てきた」


 ディートフリートはそう言ってポケットから紙切れを出した。それは、汚い乱暴な文字の書き損じだった。


「これは、ハンスが俺に渡した呼び出し状じゃないか」

「ああ、その書き損じだ。誰が書いたのか筆跡でわからないように、左手で書いたんだろうと親父、じゃなかった、保安官が言っていた。慣れないからうまく書けずに何回か書き損じた、それが机に残されていたんだ。たぶん、ほとぼりが冷めてから処分するつもりだったんだろう。保安官と一緒にハンスの所に行って、『バイスに頼まれてこれをカイに渡したか?』と尋ねたら、ハンスは嬉しそうに何度もうなずいた。間違いない」

「つまり、バイスの奴が俺をおびき出して、罪を着せたということか?」

「たぶんそうだろう。なぜそんなことをしたのか、詳しいことはまだわからない。だが、お前が何も嘘を言っていなかったことは証明された。だから、保安官はお前を釈放することにしたんだ」

「よかった……」


 カイはほっと肩を落とした。だがディートは、その肩をつかんだままの手で力強く揺り動かした。


「安心するのはまだ早い。事件はまだ終わっていない。バイスを見つけ出して本当のことを喋らせるまではな。どういうつもりかはわからないが、バイスはお前に罪を着せようとした。いいか、バイスを捕まえるまでは安心できないんだ」

「そうか。そうだな、ディート。わかった」

「俺はバイスの捜索に行く。カイ、お前は家に帰って大人しくしているんだ。これ以上、変な疑いをかけられないようにな」


 ディートフリートはそう言って出て行こうとした。だが、カイはそれを引き留めた。


「ディート、待ってくれ!」

「何だ?」


 カイは怪訝(けげん)そうに振り返るディートに走り寄ると、その右腕をしっかりとつかんだ。


「俺も行く。俺も、お前と一緒に探す」

「だめだ。お前は関係ない」

「は? あいつのせいで、一晩牢に閉じ込められたんだ。関係ないわけがないだろ。自分の潔白を自分で明かして、何が悪いんだ?」


 カイの強い言葉に、ディートは唇を引き絞って少し考えたが、すぐに受け入れた。


「わかった。親父に頼んでみる」

「ああ、頼む。もっとも、断られても勝手に行くけどな。どうせ、探すのは牧場の近くの森だろう? 一人で行って、一人で探すさ」

「そこに俺がいてもただの偶然にすぎない、というわけか?」

「なるほど、そういうこともあり得るな」


 カイが澄まし顔で言うと、ディートは真剣だった顔を崩してニヤッと笑った。


「いいだろう。保安官助手見習助手にしてやるよ。報酬は出せないけどな」

「あいつを見つけてお前の手柄になれば、それが俺にとっても十分な報酬さ」


 そうカイが返して右の拳を突き出すと、ディートもそれに拳を合わせた。


「頼むぜ、見習助手」

「任せてくれよ、見習様」



 二人は保安官の所に急いだ。保安官は、カイがディートに同行することについて何も言わなかった。たぶん、言っても無駄であることがわかっていたのだろう、事件が起きた牧場付近の地図を机に広げて二人に見せた。牧場から町の外の森に向かって平行に何本かの線が描かれている。そうやって区切られた場所の一つを指差して二人に言った。


「この区画を任せる。本来はバイスがディートフリートと一緒に担当するはずだった場所だ。もし何かを発見したら、すぐに引き返してきて私に報告すること。勝手な判断は避けること。他の者たちはすでに捜索に出発している。私は牧場にいて、牧場主や牧童が余計なことをしないように監視している」


 そこまで言うと、保安官はカイに向いた。


「カイレム、ディートフリートから決して離れるな。お前の疑いは完全に晴れたわけではない。単独行動してその間に何かがあったら、また疑われることになる」


 そして、二人の顔を交互に見た。


「いいな、絶対に離れず二人で行動すること。互いを信じあい、助けあえ」


 カイとディートは互いの顔を見あわせて、強く、深くうなずき合い、拳をぶつけ合った。

 保安官はその様子を見ながら、顔は崩さず、心の中だけで笑いをこぼした。


「(最後のは言わずもがな、要らざるお節介だったようだな)」と。


次話に続きます。引き続きお読みいただけますように。

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