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三匹

 それから二週間が経って、ついにテストが始まった。予習しておいた問題は解けたが、それ以外はわからず勘で解いた。普段は時間に間に合わず最後は記入すらできないが、何とか全て書き込めた。テストが終わり息を吐いていると、一葉が話しかけてきた。

「ちゃんと解けた?」

「どうだろう。勘で解いた問題もたくさんあるよ」

「え? 勘で? 九十点とれるかな?」

「あたしも不安だよ。もう神頼みしかないね。どうか九十点とれますように」

 手を合わせ、ぎゅっと目をつぶった。

 八十九点でもだめなのだ。必ず九十点が必要。そうしないと楽しい休日を大嫌いな人と過ごすハメになる。一葉や女の子たちと買い物したりカラオケに行ったり遊びたいのに。ナルシスト男に大の苦手な数学を勉強させられるなどごめんだ。

 答案用紙は、四日後に戻ってきた。マラソンで全力疾走した直後のように、心臓が速くなる。そして、赤い文字で書かれた数字に目が丸くなった。九十二点だった。

「九十二点? や、やったあっ」

 勢いよく叫ぶ。あまりにも声が大きく、クラスメイト達は驚いていた。一葉も近寄ってきて、にっこりと微笑んだ。

「すごいじゃん。九十二点なんて。やればできるんだね」

「こんなに嬉しいことってないよ。一葉も手伝ってくれてありがとう。言葉にできないくらい感謝してるよ」

 一葉の手を握り、ぴょんぴょんとジャンプした。

 休み時間に職員室に行って、金森に答案用紙を見せた。

「九十二点だよ。どうだっ」

 ドヤ顔で言うと、金森は少し面白くなさそうに答えた。

「今回は九十二点だから、見逃してやる」

「ふっふっふ。あたしだって本気を出せばこれくらい解けるんですよ」

「いつも本気を出せよ。テストだけじゃなくて」

 褒めるどころか逆に馬鹿にする口調で、むっとした。しかしこれで休日は一葉たちと楽しく遊べる。そのまま職員室から出ようとしたが、ふと疑問が胸に浮かんだ。

「そういえば、金森先生って気に入った人としか会話しないんですよね? どうしてあたしと話すんですか?」

 意外だったのか、金森も目を丸くした。

「別に。特に意味はない」

「それなら、あたしに話しかけるのやめてください」

 どんどん声が低くなっていく。金森は聞こえないフリをしているのか、目を逸らして黙った。

 教室のドアを開ける。すぐに一葉とクラスメイト達がやってきた。

「今、みんなでカラオケ行こうよって話してたんだよ。土日に勉強しなくてよくなったんだもんね」

「えっ。行きたい。金森に嫌がらせされて、ストレス溜まってたの。夕方まで熱唱だっ」

 ぎゅっと拳を作り、メラメラと体が燃えた。

 土曜日、二時間カラオケで歌ったり踊ったりした。ストレス発散し、明るい気持ちでアパートへ帰った。またいつも通りの生活に戻った。学校での嫌味はあっても、休日は大好きな友人たちと過ごせるようになったのだから、とても幸せだ。

「樹里は、高校生になってやりたいことはある?」

 突然、一葉に質問された。

「やりたいこと? 特にないなあ」

「恋愛は? 今までママとパパに禁止って決められてたんでしょ?」

「まあ、恋はしてみたいよ。でも全然モテないし、かっこいい男の子もいないし」

「告白されても、好きなタイプじゃなかったら断る?」

「それは、はっきりと答えられない。一葉は? どうする?」

「あたしは外見じゃなくて性格の方が大事だと思ってる。優しそうだったら、イケメンじゃなくても付き合うよ」

「そっか。確かに金森は美形だけど性格は歪んでるもんね」

「本当は、いい人なのかもしれないよ」

「え?」

「樹里が知らないってだけで、実は愛情が溢れてるのかもしれないよ」

「いや。ないでしょ。まさか一葉まで騙されてるの?」

「騙されてるというか……。誰も見てないところで、立派なことしてるんじゃないかなあ」

 一葉が何を伝えたいのかがわからなかった。ナルシストで自分が大好きな男でしかないのに、なぜいい人と褒めるのだろう。嫌がらせをされていないから、気づかないのかもしれない。




「……恋か……。あたしにも彼氏できるのかな?」

 そっと独り言を漏らす。王子様みたいな彼氏と、夢のような日々。女の子の憧れ。親に禁止されなくなったから、メールアドレス交換もデートもしたい。ただ、いつ好きな人がやってくるのかはさすがに不明なので、チャンスがなかったら独りぼっちのままだ。

「へえ……。もしかして、樹里のこと好きだったりして」

「やめてよ。あんなナルシスト野郎に好かれるなんて、絶対に嫌だ」

「けど、イケメンだし大金持ちだよ。女の子たちにモテモテだし」

「あたしはかっこいいって思えない。おかしな妄想はやめて」

 一葉とのやり取りが蘇る。間違っても、あのナルシスト野郎にだけは近づきたくない。早く二年生になって、お別れするのを願っているのだ。

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