プロローグ
男子キャラのみ、モノローグ(セリフ)で書いています。
二人のキャラのモノローグが書かれているページもあります。読みづらかったら、すみません。
鉛色の空を見上げながら、俺は小さくため息を吐いた。また同じ日の始まりか。白く濁った朝が来て、灰色雲の昼が過ぎ、黒く滲んだ夜がやってくる。いつもその繰り返し。何も変わらない。このままずっと、こんな日々を送っていくのか。俺は目を閉じた。どうしてこんな毎日を送らなくてはいけないのか。
「もう……。こんなの嫌だ……」
小さく呟いた。生きていたって何も起きないなら意味がない。幸せだと感じられないのなら、死んでしまいたい。それに俺が死んでも、誰も悲しんだり涙を流したりしないだろう。そう。俺には家族がいない。住む家も、名前すらないのだ。現在は小さな公園で暮らしている。食べるものや飲むものは、こっそりと近くの店に入り、他人の目を盗んで万引きして飢えを凌いでいる。雨や風で服が汚れても、それは仕方がないので我慢をし、天気のいい日に公園の水飲み場で洗う。完全にホームレス生活だ。なぜ親がいないのか。この理由は、育てるのが面倒くさくなって捨てたのだろうと俺は予想している。産んだが、世話をするのは他人任せ。飼えなくなったペットをダンボールに入れて置いて行ってしまう飼い主みたいだ。家族に愛してもらえないのが、どれほど悲しいのか。きっと誰にもわからないだろう。だから俺は心を閉ざした。固く凍った扉で、胸の中が見えないように隠した。そしてこの扉は二度と開かないと決めた。もし教えたって「可哀想」と何となく言うだけ。同情してくれる奴なんかいない。
「死にたい……。こんなところで、こんな辛い目に遭って……。誰か俺のこと殺してくれないかな」
もう一度呟く。公園にやってくる人間はほとんどいないため、いくら死にたいと考えても無駄だ。天国でも地獄でもいいから、早く殺してくれ。ホームレス生活を続けるのが空しくて堪らない。
「じゃ、俺が殺してやろうか?」
突然、後ろから声が聞こえた。
「え?」
「死にたいんだろ? なら、俺が殺してやるよ」
声のした方を見ると、一人の男が立っていた。背中から太陽が当たり、逆光で顔がわからない。
「だ、誰だ? あんた……」
「死神だよ。お前の願いを叶えるためにやって来たんだ」
驚いて、俺は後ずさった。まさか死神なんて存在が本当にいたのかと、衝撃を受けた。
「死神って……」
「本当に死にたいのか? 殺してほしいと本気で言ってるのか? 死んだら最後なんだぞ。それでもいいのか?」
まるで怒ったような口調だった。安易に死にたいと言ったからだろう。俺も声を強くした。
「死にたいよ。本気で思ってるよ。だって、こんな毎日がずっと続くんだったら、死んだ方がマシだろ」
また死神は怒りの言葉を返してくると考えていた。しかし先ほどとは全く違う、穏やかな口調に変わっていた。
「そうか。俺が、お前をこの日々から連れ出してやるよ」
「え? 連れ出す?」
「俺の家に来い。これからは俺が、お前の面倒を見てやる」
俺は意味がわからなかった。動揺して、頭の中が真っ白になってしまった。
「ほら。来るんだ」
死神は痛いほど、俺の手首を掴んだ。放せと言おうとしたが、口がなぜか開かなかった。まだ九歳の俺は死神の力に敵わず、そばに引き寄せられた。
「もう死にたいなんて言わせない。お前に、生きているのは素晴らしいってことを、しっかり教えてやらないとな」
また死神は話した。そして、優しく頭を撫でてくれた。これまで、俺をこんなふうに想ってくれたり見つめてくれた人はいなかったため、ぽろぽろと涙が溢れた。
「生きるのって、素晴らしいのか?」
「素晴らしいぞ。とてつもなく幸せなんだ」
「幸せ……。俺にも、幸せになれる日が来るのか?」
「当たり前だろ。幸せになるために産まれるんだから」
ごしごしと涙を手で拭った。
「なら生きたい……。まだ九歳で死ぬなんて嫌だ……。幸せになりたい……」
呟くと、死神は大きく頷いた。そして二人で並んで歩き始めた。