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第三十二話 差し金




 おれがリオネルを気にしていると、痺れを切らしたのかまた誰かが叫んだ。



「だから裏取引でもしてんだろ!」


 それは空しく宙に消えた。誰もそれに応えず、男はバツが悪そうだった。


「裏取引か。そういう言葉は、自分で思いついたものじゃない。流言するのにちょうどいい起爆剤だ」


 低い声で、赤い髪の巨人が皆に聞こえるように言った。

確かに、言われたことは理が通る。このおっさんは筋肉馬鹿って感じではないのかもしれない。


「なあ、リオネルの家族が殺されたことと、関税が上がったことのどこが裏取引になるんだ?」


 おれはわざと、さっきの男に聞いてみた。


「だから!大公は家族を差し出したんだ!」

「なんで」

「なんでって……」


 男は言葉に詰まった。それをみんなが見ている。



「そんな事、なさるはずがないだろう! 取り消せ!!」


 また熱くなっているマハーシャラが吠えた。

さっき目を合わせたのはそういう意味じゃないんだよ、まぜっかえすな。



「待てってマハーシャラ、ステイ。そういう感情論じゃなくてさ。いやおれも、リオネルがそんな奴だとは思ってないけど。みんな考えてくれよ。なんでリオネルが自分の家族を殺させて、それが裏取引に繋がるんだ?」


 こういうのは洋司先輩が得意だろうな。ホスト同士や客同士のいざこざ。

調停する時は論理的に、ポイントをしっかり押さえて話してくれていた。

歌舞伎町にいる男たちは、良くも悪くも自己中心的で見栄っ張りだ。だから喧嘩の種はどこにでも落ちていた。

 洋司先輩の話し方をイメージしながら、もう一度周りの人々を見渡し、大きな息を吸った。



「例えばリオネルに裏取引を持ちかける、強引に持ち掛けるならどうする? リオネルを脅したければ近くの人を殺して、次は家族を殺すぞ、ってメッセージにしないと意味がないだろ?」


 脅迫は人質がいなければ意味がない。リオネルは自分よりも、家族を害されることを嫌がるだろう。おれだって、短い付き合いだがそれはわかる。

このふてぶてしい中年は、ふてぶてしいけど駄目じゃない。

 おれは馬車の中で、リオネルが話してくれたことを思い出す。

その時浮かんだ曲は、“the Rose”。

ギターに似た楽器で、ゆっくりと弾いた。

死者へ手向ける歌が、リオネルの心にどうか寄り添ってくれるように、あの時祈ったんだ。



「でも」

「じゃあお前にはどんな推測があるんだよ」

「だから、大公は自分の命を守るために、関税を上げて、それから」

「それから?」

「それから、えっと」

「他の奴は? どう思う?」


 おれは癖で、手をあげながら聞いた。日本だと、発言するには挙手するように、だったからな。


「イディアン様は口封じに殺されたんだ! 元々関税を上げるつもりだったんだ!」

「なんで?」


 マコトはすかさず聞き返した。

 やはり出てきた男は若い。自分の理屈を答えられないでいる。

年寄りは割と慎重に考えてるのか。やはり街全体ではなくて、若くて元気のある奴ら、声の大きい奴らが街の雰囲気を作っていたことになる。

学校でもあるよな。一部の奴らがでかい顔して、マジョリティを獲得してますって感じのやつ。あれって本当は違うってことだ。


「と、富が欲しいからだ!」


 別の男が続ける。

おれはわざと溜息をついてから答えた。


「これ以上? 王様の弟さんが? そんなに欲しいものあるのか?」


「馬鹿げたことを! いい加減にしろ! 神子様のおっしゃる通りだ!」

「大公さまは、イディアン様もお子様もそれは大切になさっていたじゃないか!」

「そうだ! 富がほしい? もうじゅうぶんこの国は潤ってる! 今更搾り取って何にするんだ」

 

 数人の男たちが出てきてそう言った。良識派の反撃だ。みんな言いたくても言えなかったことを吐き出していく。

そりゃあ実際税金が上がってたら、フラストレーションが溜まっていくはずだ。



「それに六年前の事件の風聞で、保養地の利用が減ってるんだぞ? 所領の収入源が減るなら、なんで殺しなんかするんだ。理屈に合わないじゃないか」



 ざわついていた民衆は、その言葉で静かになった。

そうか、ここディアメはなんか偉い人がよく利用するんだったな。

確かに、王族っていう国でもトップの人が暗殺されました、犯人は捕まってませんと言われたら、そんな危ない場所には行く気がなくなる。


 さて、この辺でいいかな。


「マハーシャラに感謝しろよリオネル。ていうことで、元帥さん? も、マハーシャラにはお手柔らかに」




 騎士マハーシャラはきっかけを作って、街に溜まった膿を日の下に晒した。信賞必罰なら、今回は功もあるんだからイーブンってことで、罰しないでほしいと思う。

マコトの働きは彼の期待に応えたのだろうか。マコトが赤髪の大男を見上げると、また白い歯を見せて豪快に笑った。







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