表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/143

第七話 噴火

第七話 噴火




 トマを探す。それか金髪のイカサマ天使でもいい。離宮という所を飛び出すと、あちこちで衛兵のような鎧を着た人たちを見た。皆同様に身体が大きく、日本人どころか欧米の人でもそうそういない体格だ。これで自分が未成年と言われるのが少しわかった気がする。

 建物はいつか写真集でみた、スペイン建築のようにうねうねした装飾が多い。たしか植物のフォルムそのものを取り入れたという、有名な建築家のデザインに似ている。

お金を貯めたら行こうと話していた。

誰と? 職場の先輩だ。オリーブオイルの産地で、ヨーロッパでも美味しい食べ物が多いから楽しいだろうと、他愛のない話をロッカールームで話して、香水をつけなおした。


――マコト様!マコト様お待ちください!


 通りがかった人や兵士が振り返ってこっちを見ているようだ。結構走ったな、と思ったら目の前の肉にぶつかる。これは胸板、いや腹筋かな。


「マコト様!」

「…ああ、ごめん。ジャン」

「すみませんマコト様、お体に触れるのもどうかと思いまして」


ジャンは、しゅんと項垂れている。おれは前に回り込んだジャンにぶつかったらしい。上がった息を整えながら返事をした。



「ごめんちょっとパニックだった。トマかリオネル殿下に会って話がしたくて」

「本当は離宮から出てはいけないのです」


 しゅんと反省した犬みたいな顔をしている、ジャンには悪いと思った。


「ごめん、急ぐ」

「…本日は騎士の訓練場かと思います。ご案内します」


 ジャンはおれに改めて一礼した。おれはそんな大した人間ではないが、それを受け取らないのも失礼な気がしたんだ。


 *



 訓練場は色々な音がするが、何より驚いたのは、立ち上がる炎と水柱の攻防だ。建物の端に馬場のような開けた所があって、今まさに戦っている。水は炎を吞み込もうとするが、火が勢いよく逆巻くと、熱さで目を閉じてしまいタイミングを逃す。

 緊迫感と興奮が一体となっている。何人か見物人がいるが、そこにリオネル殿下、トマともう一人いた。近づいていくと、その人は赤い髪で、おれの倍ぐらいの身長がありそうだった。如何にも猛者、といった風で、ヤクザとプロレスラーと力士を足しっぱなしにして、良い身なりをしていた。

 リオネル殿下とトマがおれに気付いたようで、赤い髪の人は立ち去っていった。ジャンもグリズリーみたいに大きいと思ったが、あの人はそれ以上だった。


「やあマコト。ちょっと待ってて」


リオネルは口を開きかけたおれを遮って、戦っていた二人を呼んだ。

何か話をして、また二人は戻っていき、戦闘が再開した。

 火の玉が繰り出されたかと思えば、水を使う人が皿のように受け止める。さっきより魔法を繰り出す速度が上がったようだ。次の瞬間、水の魔法が壁のように広がった。火の玉は勢いよくぶつかり、途端に水蒸気になって辺りは真っ白になった。

 その中で何があったかわからないが、水蒸気の霧が晴れると、辺りからは盛大な拍手と野次が飛んだ。どっちが勝ったのだろう。


「ジャン、それでは困るぞ」

「申し訳ありません」


 トマにジャンが叱られる。申し訳ない気持ちでいっぱいだが、叱るのはトマの仕事で、おれが悪いのにここで援護でもしたら、それこそ厚顔無恥極まりない。そうだよな。おれも世話になってるからと思って、これまで離宮で大人しくしていた。ちゃんと理由があるのだろうし、知らない世界を冒険するには自分に自信がなかった。せめて自分が何者かわかれば違っていたかもしれない。

 リオネルが騎士たちと朗らかに話をして、終わるとこちらへ来た。


「さあて、お転婆の理由は?」


 カチンときた。


「いい加減にしろよ!」


 大声で叫んだ。はらわたが煮えくり返っている。


「わけのわからない世界で!自分が誰かもわからない!その上人間は男しかいない?自分でも自分がおかしくなったと思ったんだ!でもみんな知らん顔で、そんなこともわからないのかって顔をする!その上お転婆だ?幼稚園児じゃねえんだよ!!いくらおれが!何も知らないからってな!!そっちの責任だろうが!!」


 いつの間にか、リオネル殿下の服を掴んで、握りしめた片手を振り上げていた。トマがおれの身体を押さえていたから、この金の巻き毛の大公とやらを殴らずに済んだらしい。

 リオネル殿下は驚き半分、呆れもあるのだろうか、ちょっと引いていた。


「…ええと、トマ」


 トマはリオネル殿下に助け船を要求されても、片眼鏡でじとっと見返しただけだった。


「あー、ううん、いや、すまなかったマコト」

「…思ってないだろ」


 おれは下からになるが、睨み上げる。


「さっきのは殿下が悪いですよ」


 トマは片眼鏡をふきふき、ジャンの目は卓球のボールみたいに左右に泳いでいる。


「でも、マコト様ももう二度とこんなことはしないでください。狙われていますから」

「狙われているって…その」


 敵に? と唇だけ動かした。きっと聞かれたらまずいだろうからな。


「それもそうだが、君は魅力的すぎるんだよ。ここの男たちは特に、君に興味津津で自信のある奴が多い。騎士の中でも近衛なんていうのは、そういう集まりなんだ。ジャンのような男の方が貴重だよ」


 さっと、さっきのアスクード伯爵の態度、あの瞳を思い出した。そうだった忘れてた。


「やっぱり、この世界って…」


 その後、放心したように身体から力が抜けた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ