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第五話 河の街ディアメ



 丘陵地帯を過ぎなだらかな森の道を走っていくと、遠くに見えてくる。

河の街か、どんな風なんだろう。イタリアの水上都市のような感じか、アメリカの東海岸みたいに蒸気船が似合う雰囲気なんだろうか。

 高揚するこの気分と、豪快に走り抜ける大きな馬車の車輪、これはティナ・ターナーの「Proud Mary」がぴったりじゃないかな。陽気さと独特なリズム感が唯一無二の名盤だ。そこにティナ・ターナーのソウルフルな歌声が加わり、力強さと派手なエネルギーで押し上げられていくドラマ性がある。脳内でローリンローリンと彼女の声とバンドのリズムが再生される。頭を上下に振り回したい。

 首都高でかけたら気持ちのいいドライブ曲になるが、前が見えなくなるからダメだよな。


 ディアメの赤レンガや石造りの橋が見えた時、リオネルが二階に上がってきた。


「凱旋パレードだ」


そう言ってにやりと笑った。後ろを振り返れば、二台目の馬車の二階にもサイゼルが見えた。心なしか二人とも、ちょっといい服を着ていないか?

こちらではトマが、向こうではサイヤとピッケが二階の幌を畳んでいる。クラシックのオープンカーみたいで便利だな。

 

 凱旋パレードっていうと、サッカーでしか見た事がないが、見物客に向かってみんなで手を振るものだろう? それをおれたちがやるっていうのは、一つの勝利宣言って感じなのかな。

 まだ一箇所だけではあるけれど、白い病を倒したってアピールしたいわけか。宣伝を狙っているんだな。


 よしよし、なんとなく気が乗ってきたので、それなりに協力してやるのもやぶさかではない。ローリンローリン、蒸気をあげて。



 馬車は大きな跳ね橋を目指している。気合の入った馬の嘶きが聞こえた。





 ※




「おい、リオネル」



 リオネルはおれに答えず、きょろきょろと見回している。

街を囲む外壁は赤いレンガ造り、大通りも同じようなレンガの家や商店が並び、これまでとは打って変わって大規模な都市だとわかる。

 大通りの至るところに荷車や辻馬車が停められているが、それは大公殿下と馬を並べるのが恐縮だから、と理解できた。

花屋、洋服、八百屋、果物、酒屋などおれにでもなんとなくわかる店もある。武器を吊るしていたり、見た事のない植物や布、履物が店頭に並んでいる店もある。店はちゃんと開いていて、品物も置いてあるんだ。荒れた様子はない、ただ人だけが見えない。

 賑わっているはずの、色彩豊かな風景の中で、動くものはおれたちだけ。

 白い村を見てきたから、人のいない独特の静けさはよく覚えている。でもここは少しそれと違う、人は見えないけど気配はある気がするんだよな。

 


「リオネル、凱旋パレードってどういう意味だっけ?」


 もう一度声をかけると、軽く首だけ振り返って、さあね、と小さく言った。

とぼけるのを失敗した犬猫みたいな顔してなかったか、あいつ。


 後ろのサイゼルは立ち尽くしている。ちょっと可哀そうじゃないか。


 リオネルたちが来ることがわかって、道をあけている。それはわかる。でも大通りでこんなに人がいないってのは、やはりリオネルやおれがいるってわかっててわざと隠れたって事、だよな。



「あ、あそこの二階の窓、誰か覗いたよマコト」

「いや珍獣じゃないからさ、おれ」


 そう、ちらほらと見られている気はするんだよ。窓からとか、建物の陰からとか。

でも出てこないっていうのは……


「トマ、この街の人って相当内気なのか?」



 目を丸くして固まっているトマは、一瞬遅れて答えた。


「いえ、商人の街なので、少し荒っぽいぐらい大らかで陽気な者が多いのですが…」



そうこうするうちに、大通りを抜け、少し高いところにある大きな建物についてしまった。

二台の大型馬車、一台の荷車、隊列前後の馬と騎士が、玄関ポーチに滑り込んでいく。蹄の音が消えた。街の雰囲気がうつったのか、誰も言葉を交わさない。


 おれは黙って馬車を下りるリオネルの背中に向かって言った。



「お前、ここの人に嫌われてるのか?」




 あれ、反応がない。リオネルが、棒立ちになったまま立ち尽くしている。

建物から貴族らしい人が出てくるまで、リオネルはそのままだった。言わない方がよかったみたい。








タイトル改訂。2023年11月11日

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