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第二話 困惑のぬくもり



 馬車は山道を登り、緩やかな山岳地帯に入った。

岩だらけの山は、大きな木も林もない。赤や黄色などの暖色の葉を持つ草木が生息するだけである。だが動物はいるようで、首の長い羊が所々に見えた。険しい山道というより、なだらかで開けたハイキングコースといった様相だ。

この山岳地帯を抜けると、ディアメという大きな商業都市につく。


 あのことがなければ、きっとこの景色はもっと気持ちよく心に響いたのに。


昨日だって、そうだ――――



「おい、おいってば。リオネル、いい加減もういいだろ。自分のベッドで寝ろよ」


 一応周りを憚って小声でリオネルを揺する。馬車は防音加工してあるというが、そういうことではない。夜に大声を出して子どものような癇癪だと思われたくなかった。

リオネルは目を開けない。

眉毛も睫毛も、麦の穂のように金色なんだなと呑気な観察を一瞬してしまったが、リオネルの頰を引っ張って、なんとか起こそうと試みた。


「いいからもう寝なさい」


 そういってぽんぽんと背中を叩いてあやしてくる。すげえ腹が立った。その後は、うん、とか、ああ、とか適当な相槌が返ってくるだけ。



 最初こそ緊張していた。

この詐欺師のような金髪中年男は、やたらに大きい騎士たちに比べて普通の体格だと思っていたがそれは目の錯覚だったようだ。リオネルはリオネルで、自分より一回りか二回りほど大きい。周りにいる男たちは、鍛え抜かれた精鋭の中の精鋭なので、全然気づいていなかった。

そしてリオネルはいつも、きちんとした服装をしている。サイゼルのように胸元の空いた服を着るわけでもないし、騎士たちのように筋肉が衣服を押し上げているわけでもない。水泳選手のような体型のトマと比べたら、スリムという感じでもない。

 だから彼のことは歳相応の、それなりの普通体型だと認識していたが、そうでもなかったのだ。


リオネルは、腰のくびれこそないが、その分どっしりとした筋肉と程よい脂肪が乗っていて、これはこれで男臭い肉体なのだ。いやこちらの方がリアルというか、使うための肉体というか、リオネルが急に近い存在に感じられて、マコトは自分の心臓が太鼓になった気がした。

 なんでこんなにドキドキするのかわからない。耳が熱くて、心臓が壊れないか、血管が爆発でもしないか気が気ではなかった。


 もちろん、サイゼルの時と同様、相手は全裸だ。下履きだけは履いてくれているのが救いだったがそんなことまで気を回していられない。


 リオネルは布団に入ってくるなりマコトのパジャマの中に、頭から突っ込んで潜りこんできたものだから変な声をあげてしまって本当に恥ずかしかった。一体なんの罰ゲームだ。


 リオネルの鼻や口元が、マコトの腹に触れた。金の巻き毛が胸に触れた。

マコトの腹の上でリオネルが息をしている。脳内の血液が沸騰して蒸発するかと思った。



夜の静かな馬車の中、サイゼルほど鍛え抜かれて盛り上がっているわけではないが、程よく丸みのある胸に引き寄せられて、抱きしめられて、寝られるわけがなかった。


 そう思ったのも束の間、やはり魔力の交換になっているのか、人肌が心地よくなるのか、段々と眠気が襲ってくる。そしていつの間にか眠ってしまっている自分がいた。

そのことも納得がいかない。


 気付いたら朝、トマに起こされていた。

この恥ずかしさといったらない。トマの顔を見れなかった。なんでこんな思いをしているのか、と冷静になればわかるのだが、その時は恥ずかしかったのだ。




―――そんな事が毎晩だ。もうどう反応していいのかわからない。


 マコトは景色を眺めてはいるものの、心ここに在らずと顔に書いてあった。

どうしたらやめてもらえんのかな……相談しようにも、ジャンはアレで論外。

 昼食の後、連行されるマコトを飛びきりの笑顔で見送るのだから、助けてくれと出かかった言葉は胃の中に呑み込まれてしまった。

 冷静沈着なトマならどうか。



「ああ、私も早く夫に会いたいです」

「良いですねえ、仲の良い御夫夫(ふうふ)というのは」

「僕も憧れます!」

「浮いた話は久しぶりだなマハーシャラ」

「お前は恋人に振られたんじゃなかったかカーク」

「恋人の一人に、だ」


 こいつらの耳は飾りだった。おれの悩みが、ノロケに聞こえたらしい。






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