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第四十八話 音頭

※後半、苦手な方がいるかもしれない生物の描写があります。だめだと思ったらすぐ引き返してください。




第四十八話 音頭




 サイゼルの仕掛けた魔力探知の魔法陣が異変を知らせたので村に入った。しかし用心すれど何もない。魔法陣の誤作動かと思い辺りを散策した。

 そしてナシラから情報を引き出すところまできて、ついに何かが現れたと思った。


 ところがだ。

村の大通りに出てみると、道の真ん中でマコトが演奏している。マコトだけではない。侍従二人も一緒だ。


 なんと賑やかな、場にそぐわない陽気さだろうか。

マコトは足で踏む、梃子の原理で足元の太鼓を鳴らしつつ笛を吹いている。器用なことだ。

 侍従は手につけた鈴を鳴らしながら、マコトに合わせて手持ちの太鼓を叩いている。



「なんだ……これは」


 サイゼルもどこかから現れる。騎士たちも、全員が揃ったようだ。

 皆拍子抜けしたように、ぽかんと聞き入ってしまっている。

マコトの笛はどこまでも軽やかで、どんよりした白い空を突き抜けるように爽やかだ。なんとなく、民衆の祭りの日や踊り、見世物小屋や出店が立ち並ぶ活気や喧噪を思い起こさせる曲調だった。

 陽気で軽やかで、それでいて伸び伸びしている。

 だんだんと太鼓の音は力強く、大地を揺らし、人を励ます鼓動にも思えてきた。



「あっ」

「どうした」


 ジャンが声をあげたのですぐさま警戒したが、ジャンの瞳がきらきらと輝いている。


「ま、魔力が……」


 リオネルは自分の手のひらを見つめた。ぐー、ぱーと握っては開いてを繰り返す。


「本当だ」

騎士たちも同じように手のひらを見つめて、驚きを隠せない。

 確かに、魔力の循環を感じる。


それも、通常より純度が上がっていく感覚だ。

 魔力量とその純度、それは高いほどいいが、魔力量はそう簡単には増えない。筋肉のようなもので、日々研鑽して次第に大きくしていく。

 比べて魔力の純度は、ある時急に上がることがある。

今、まさにその状態だと言える。純度が上がっていく時の、独特の身体の軽さ。内側が魔力の流れと共に洗われているような心地よさだ。


 マコトたちの演奏、いやマコトの演奏が、身体に響く。

そうか音だ。音は目に見えない波だ。その波が身体の内側に眠る魔力を呼び起こし、循環させ、ろ過して純度を上げていく。心なしか、身体の芯から温まってきた気がする。

 昨晩の比ではない。

昨日のはむしろ、なだめるような緩やかさとやさしさで、いたわるようなゆっくりとしたエネルギーをわずかに感じた。焦らないで、柔らかに巡回する血の流れだった。

 これは違う。マコトは曲によって効能を変えられるのか? それともマコトの意志と関わるのだろうか。




「マコト! そのまま続けろ! この先何があってもやめるな!」


サイゼルが檄を飛ばすと、応えるように演奏の合間に不規則な高音が出た。

マコトは笛で返事をしたらしい。


 騎士の顔、トマですら表情が明るくなっている。音に魔力が呼応しているのがわかるのだ。

これが転移者の力、マコトの力なのか。


その時、トマがこちらを振り返った。片眼鏡を手で押さえている。


「リオネル殿下! 北東の方角、何か来ます!」


剣を抜いた。騎士はそれぞれ武具を取る。両刃の剣、短槍、人それぞれ違うが、魔力の媒体となる。畏れを感じさせない騎士たちの、勇ましい臨戦態勢だった。

さて(へび)が出るか(じゃ)が出るか。



「規模は!」

「…わかりませんが、速い」


そう言うや否や、北東の方から白い雲がこちらに向かってくるのが確認できた。

 雲がこちらに向かって飛んでくる? どういうことだ。


視界に捉えてすぐさま、マコトたちを守るように布陣した。といっても、この人数だ。

僕が先頭に立った。


「殿下! 前に出過ぎています!」

「噂の白い雲だな……なんだこの音」



マコトたちの演奏に交じって、何か不快な雑音が届く。少し高めの、掠れるような音だ。

 一瞬耳を押さえるようにした騎士もいたが、すぐに姿勢を直す。腕が塞がっていては戦えない上、マコトたちの演奏も聴こえなくなってしまう。



「空を飛ぶ……つまり、飛行する生物? この擦り合わせた変な音はなんだ、羽ばたきか?」


サイゼルの言葉が聞こえた時、ようやく凝視していたその雲が点の密集だとわかった。

その点の、一つ一つが生き物らしい。



「なんだ?!」


 騎士カーク・ハイムが声をあげた。


「カーク! お前は守りに徹しろ! ジャンは前に出ろ!」

「飛んでくるぞリオネル! あれは鳥……じゃない……」


 サイゼルの顔が青褪めていく。

音は羽ばたきで間違いなかった。

だがあれは鳥ではない。白い雲は段々と空を覆うように広がっていく、いや大群だとようやくわかった。群れが近くなったからだ。羽ばたく音も次第に大きく膨れていく。ひどく不快で耳障りだ。

 

 羽ばたきの雑音の合間に、マコトたちの笛、太鼓、鈴の音が聴こえてきてなんとか正気でいられる気がした。


あの空を覆う白い群れは、鳥ではない。鳥は音を立てながら羽ばたき、飛び続けるなんてことはしない。



「む、虫だぁ!」


 誰の叫びかはわからなかった。

 小鳥よりも大きな虫。その大群。大群の羽ばたきが成す音。

その虫は、白い。全身が白かった。










次回、この昆虫の描写が続きます。苦手な方は読むことをおすすめしません。結末をお待ちください。

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