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第四十六話 日の浅い廃墟

第四十六話 日の浅い廃墟





 村は白く、濁っていた。

空気が淀んでいるというのか、風も吹かない。生き物の気配もない。

トマとジャンに連れられ、村の中を案内してもらうが、聞いていた通り、いや聞きしに勝るというやつだろうか。

 なんとなく、ここにいたくない。そう思わせる。廃墟にしても、カッコいいと思う所もあれば、ここは不味いんじゃないか、と思う所があるだろう。今回は完全に後者の方だ。


 肌に当たる空気が生ぬるく、マコトの背筋をぞっとさせた。


意気込んで来てみた。それもある。けれど皮膚がピリピリ、ちくちくするこの感覚は未だかつて覚えがない。



 噂の白骨死体も、入口からそっと、及び腰になりながら目をすがめてぼんやり見た。

直視はさすがにできない。そこまで、戦場や死体に免疫もないのだ。

 白骨死体は靴を履いていた。服は着ていない。

 あの骨だけになってしまった人は、何か言いたいことでもあったのだろうか。そっと合掌して、背を向けた。



「ふーーーーー」


 気が付くと息が浅くなっている。

例えば今、「どうにかなる」「努力は必ず報われる」なんて言われたら、マコトは振り向きざまに蹴りを入れてやるだろう。

 深呼吸して気を取り直す。周りを見て、自分が白い土の上に立っている事を確認する。


 白く、煤けたような空と地面が互いを映し合っているかのようだ。太陽も二つあるはず。でも曇り空で見えない。太陽の暖かさも、十分に届いているとは思えない。

 民家は屋根が剥がれ落ちている。扉もない。家畜小屋の柵は壊されて、遠くまで一面の野菜畑のはずが、そこも白っぽい。雪ではないから寒気はしないはずだが、どこか薄ら寒い気がする。


 村に入って周囲を観察するみんなの口や手元には、嗅ぎ煙草が一つ二つ。トマがちょっと残念そうにしていたが、ありったけを全員で分けていた。



「虫刺されは特にないな…」

「やっぱりご利益あるんですね、嗅ぎ煙草」

「それを言うなら効果だよピッケ」


 おれたちはジャンの後ろにくっついて、三人まとまっている。ザ・魔法で闘えないトリオだ。その後ろにはトマがいる。



「マコト様の玉の肌に傷をつけた虫は私がみじん切りにしますから」


 そう言ってにっこり振り返ったジャン。笑っているつもりだろうが笑ってない、目が。


「あのなジャン……まあいいけどさ」

「そもそも、三人でそのお召し物はなんですか?」

「ん? これか?」


 おれの中で闘いのイメージはこれしかなかった。もちろんロックバンドなんて出来たら最高だけど、この世界じゃ道具がない。見る限り、原始的な民族楽器が多いからな。

それでも、日本人の誰もに馴染みのあるこれならやれそうだ。

平和な日本、命のやりとりもない安全な社会。そんな呑気で平和な世界で、温厚なサラリーマンでも、一般家庭のごく普通の人でも、戦闘意欲が沸いて盛り上がるといったらこれしかないでしょう。


「これはなんちゃって鉢巻き、なんちゃって法被」

「ナンチャッテ?」


ジャンは首を傾げた。そう、我ら魔法で闘えないトリオは、気合をいれるために衣装を揃えたのである。

 洋服の上からなので、変といえば変だが、こういうのは形から、気持ちが大事なんだよな。


 さて、とマコトは気持ちを入れ替える。雰囲気に気圧されている場合ではない。



「私としてはマコト様の髪が汚れるので帽子を被っていただきたいのですが」

「何をおっしゃいますかジャン様! 僕とサイヤが編み込んだ髪、綺麗でしょう! マコト様は何でもお似合いになるんですよ!」


 そうなのだ。少し長くなって邪魔な髪は、横を編み込まれて、後ろで一つ括りになっている。ジャンは何やら思うところがあるようだが、おれはなんでもいい。



「少したるんでないか? サイゼル殿下が設置した魔力探知は確かに作動したそうだぞ」

「でも何もいませんね。大きな魔物とか獣が出るかと思ったのに」

「我々は深追いできませんからね、常に殿下たちの後ろにいないと」

「ここでいい。始めるぞ、サイヤ、ピッケ」



 マコトの言葉に二人は気持ちの良い返事をした。







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