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第四十一話 おりこうサイヤ

第四十一話 おりこうサイヤ




「それにしても、トマ様はなんであんな奴連れてきたんだろう」

「ポルドスを唆した奴を調べていて、引っかかったんだからその関係だと思うだろ」

「あ、そっか」



 今日は皆さま、白い村に偵察へ出かけられました。

私とピッケは、マコト様の手伝いをしています。



「白い病の噂を集めてるって言ってたな」

「変な人ぉ」


 先日現れた、どこからどうみても怪しい紫髪の男、ナシラとかいう男は、法律で出入国を厳しく取り締められてある南大陸の人間でした。その上、危険な奴らを連れてきて、わざと我々を襲わせて腕試しなんて、本当、どこまでも見下げた男です。

 

 奴は、単身『白い病』の話を集めていると言っていました。自称情報屋ですから、信用はできません。そもそも白い病のことを、南の人間が知ってどうしたいのか。


そんな怪しい奴を白くなった村へ同行させ、危なくないのかとは思いましたが、あれだけの方々が揃っていれば問題ないでしょう。

 特に、騎士のマクナハン様のことを怖がっていました。いい気味です。



「それにしても、サイゼル様は無茶なこと言ってますよ。先代さまのことなんか、わかってないのに」

「…そうなのか?」


 ピッケが頬を膨らませて言うと、マコト様は目を大きくした。


「先代は『白枯れの病』を治したんだろ?」


それから料理も、と付け加える。


私は孤児院、といっても、孤児院は神霊院に併設されているところがほとんどです。私の育て親も神祇官の院長先生なので、転移者さまの話はよく聞かされていました。

前の転移者さまは、木立が白く枯れる病を治した。そして料理人だったこともあり、この国の食事事情を変え、多大な貢献なされたのです。どうやらその食事、転移者さま自ら作った料理は、食べると魔力が湧いてくるという不思議な力がありました。



「……もとは普通の料理人だったんだよなあ」


何やらマコト様がぶつぶつ繰り返しておられます。

 マコト様は、それはもうお綺麗な方です。でも、お人柄はなんというか、普通だと思いました。正直なところ、もっとこう、威厳に満ちたものだと思っていたのですが、記憶を奪われてしまったのが原因かもしれません。


 マコト様が黙り込んでしまったので、私は正直に言いました。


「何が原因でどういう風に治したのか、私たちは知らないのです」


 サイゼルさまとの言い合いを、マコト様はやはり気にしておられると思いました。

あのように声を荒げることは、庶民ならしょっちゅうですが、内容が内容ですし、御身分も御身分なので、私はどうしても気になります。



「日記には、シロアリみたいって書いてあったけど、どういう風に駆除したんだろうな」



 マコト様が先代転移者の日記を再度読んでみても、肝心な部分はわからなかったそうです。他には井戸に塩が投げ込まれているとか、作物が育ちにくいとか、当時のこの国の内情がちらほらあっただけだと。



「ヨギさまもこんな時にいらっしゃらないなんて」

「神祇官のお役目でもあるんだろう。リオネル大公さまは何にもおっしゃらないし……二代目、三代目さまはこの辺りの国の転移ではないので、私も聞いたことがなくて……すみませんマコトさま」

「いやいや。サイヤが謝ることじゃない。二代目と三代目のことがわからなくても、初代のことはわかるか?」



 マコトさまのお役に立てず、申し訳ないと思いましたが、マコト様はすぐ柔らかい口調で聞いてくださり、思わず嬉しくなりました。



「初代さまは特別ですから、大陸の皆が知っています。人々の皮膚を焼いた感染病『白燐病』は、水害だったんです」


 うんうん、とピッケも頷く。


「当時、人々は豊かでした。山や森を切り拓き、燃料や道具に変え、戦争もして互いに領地を奪い合い、それが当たり前でした。けれど初代転移者さまが病の原因を探ったとき、川の異様さに気付かれたのです」


「川か...そうか、それでわかったんだな。無理な森林伐採が水を汚して、環境を破壊したってことが」



得心がいったのでしょう。マコトさまのお役に立てれば、私も侍従に選ばれたことに意味があるというものです。瞼に、私を育ててくれた神祇官、院長先生の姿が浮かびます。老いて背中が曲がり、腰が痛いとつらそうでしたが、今は大丈夫かな。

 





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