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第三十五話 やじうまピッケ

第三十五話 やじうまピッケ




 僕、ノア・ピッケは王宮の侍従見習いになって一年になる。

貴族の邸で礼儀作法を教えてもらい、その後王宮に上がって細かいしきたりを覚えていたので、まだまだひよっこの中のひよっこだ。

 だから騎士はともかく、上位の貴族やまして王族にお目通りすることなんてなかった。それが今や、転移者様のお側にいて、大公様のお側に置かれて、一生分の、ううん、家族や親類の運まで使い切ったのではないかと思った。


 というのが、僕の言い分。

侍従として経験の浅い僕を叱ってくれるサイヤには感謝してるけど、たまには「サイヤだって大して変わんないでしょ」と言いたくなる。

 その「たまには」がまさに今だ。


 僕たちは王族が魔法を使う姿なんて見た事がない。当たり前だ。そういうのは全部、周りの従者がやるものだ。

 まして、闘うなんて考えられない。

本来なら、そうであるべきだ。戦争だって、王族が前線に出たりするのは稀なはずだ。



 ところが。

 今、リオネル大公さまが、山賊相手に風魔法で闘っている。

僕たちは危ないのでテントから出ないよう、こっそり覗いているが、忠義に厚いトマさまはさぞかし複雑だろうなあ。

 大公さまを危険な目に遭わせたくはない。でも、大公さまの実力で傷一つ負われるはずがない。そのせめぎ合いなんじゃなかろうか。


「すごいね、サイヤ」

「もう軽くいなすだけだ。後は賊の戦意がなくなれば終わり」


 大公さまは細いレイピアから間髪入れずに風魔法を繰り出す。その時の放物線が僅かに見えた。

十人に満たない山賊は、既に数名が逃げ去っている。


「なに、リオネルって強い感じ?」


マコトさまもひょっこりと顔を出して尋ねられる。僕たちと、とても気さくに話されるんだ。


「そりゃあ魔力量が違いますよ」

「コントロールの技術も、私たちから見ても騎士に負けません」

「でも剣が届いてないよね。意味あるのか?」


 そうか、マコトさまは武具をご存知ないのだ。


「魔法で闘う時は、何か武器に魔石を埋め込んでいます。大公さまの風魔法なら『(らん)掌岩(しょうがん)』でしょう。魔石の組み方によっても、闘い方が変わるので秘密ですが」


「へえ、そうなのか」

「もちろん近接戦闘や、魔力が足りなくなった場合に備えて、一番扱いに慣れた武器を使うんですよ。だから飾りということでもないんです」


 大公さまがレイピアを大振りして風魔法を繰り出すと、マコトさまは先ほどよりも上ずった声で、小さく歓声を上げている。大公さまに見惚れているんだ。無理もない。

 僕たちだって、大公さまが闘うところなんて見たことがないんだから。


 大公さまが、風魔法で小さな竜巻をつくり、賊を遠くに飛ばしたり、防御に使っているが、技の精錬、精度が違うのだろう。まだ余裕があるように見える。それにどうやら、賊が深手を負わせないように威力を加減している気がする。



 そこへカーク・ハイムさんが来た。茶色い肌にオレンジの編み込みヘアなので、元の人相に加えてかなりの強面だけど、話しやすくて僕は好感を持っている。



「大公さまは相当お強いですよ。魔法だけじゃなくて剣技も素晴らしい腕前だということがわかります。ああそれからマコト様、我々はこのように、闘う時は武具以外にも魔石を身に付けているのですよ」



 カーク・ハイムさんがマコトさまに、自分の腕輪やネックレスを見せている。

だけどタイミングが悪い。マコトさまは、大公さまと魔石と、どっちを見たらいいか迷ってしまった。

 使い手としては繊細なのに、こういうところは大雑把というか、鈍感なんだよなこの方。


 ちなみに、今日テントを張る時、サイゼル殿下も両の指全てに、魔石がはめ込まれた指輪をなさっていた。それで糸のように魔法を送り込んで複雑な動きを可能にしたらしい。

 そういう風に、一見武具に見えないものある。何しろ魔法は細かいコントロールが必要で、制御できないとだだ漏れになってしまうからそうした媒体が必要なんだって。

 僕は平民なので、大した魔力がない。だから全部聞きかじったことだけど。


 サイゼル殿下は、このテント作りの秘密をこっそり僕に教えてくれたんだけど、「マコトには言うなよ」と面白おかしい調子でおっしゃっていたから、言いたくても言えない。

言いたい気持ちがうずうずしてる。


 もっと言うと、武器には魔石と魔法陣を組み込むことが出来るので、騎士や魔法使いはそれぞれ工夫して、もっとも使いやすいよう武具や装束に細工している。

 自分に合った闘い方を探ること、魔法陣や魔石を駆使して、なおかつ相手に手の内を気取られないことはとても重要らしい。

 

 本当はマコト様も魔法が扱えたらいいのだけど、ジャン様やトマ様曰く、素人は魔法を使いだしてすぐが、一番事故が起きやすいとのこと。

 それはそれで納得できる。


 やはり、王族の方が闘う、それが肩慣らしであったとしても、「肩慣らし」をしなければならない状況なのだ。

 戦争のないジアンイットで、白い病や見えない敵に立ち向かう我々が、最前線だ。


 僕は結構のんびりしていると言われるので、サイヤからも、トマ様からも再三言われてきたことだ。

 ここが、マコトさまと大公さまが居るところが最前線だと。


 だから、トマ様がおっしゃることは間違ってないと思う。

魔法は習いたて、習得できたと思うと使いたくなる。その上で無茶をしてしまい、怪我に繋がっていく。初心者が、戦場にいてはいけないってことだ。

 でもやっぱり、御身が守れる魔法くらいは、と思ってしまうな。



「……大人って難しいな」

「ピッケ、終わったみたいだ。最後の奴は粘ったな。大公さまは捕まえずに、何か話してる…」

「え!」


しまった、見逃してしまった!


「え、終わっちゃった?」


 見逃したのは僕だけではなかったらしい。

マコトさまが、口をへの字に曲げていた。













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