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第三十四話 おまけの男

第三十四話 おまけの男





サイゼルは、皆の反応に満足したのか、喜びを隠せないまま王子オーラをきらきらさせ講釈を垂れている。

 聞き手は主にピッケだ。


「いいか、ここはこの幕屋の魔法の中枢だからこまめに魔力を送れ。そんな多くなくていいから、侍従二人、交代してできるだろう」


 ピッケは鳥の巣頭をぶんぶん縦に振って返事をした。



 先ほど、車座になって寛いでいるところにトマが帰ってきた。

だが帰ってきたにしては一人多い。背は低くて見えないが、後ろに何かいる。

リオネルが声をかけた。


「それで? その後ろのおまけはなんだ」




奥にサイゼルが座った。重ねられたクッションの上にゆっくり腰を下ろして、褐色の王子は居心地に満足したようだった。

背もたれもあって、円形ソファのような感じだ。おれも座りやすい。



「それが…」


短い眉毛を八の字にして珍しく困った様子のトマは、お供の騎士マハーシャラと目を合わせた。


「話せば長いのです」

「ならお茶とお茶菓子が必要だろうな。果物ある?」


 いつものマイペースさでリオネルが指示を出すと、ジャンやサイヤが動きだした。

 結果、支度ができると促されるようにみんなが輪になって座った。全員勢ぞろいなのは久しぶりなので嬉しいんだが、そう、おまけと呼ばれた人がいる。


 リオネルとサイゼルの反対側で、トマの後ろ隣にちゃっかり座った人。



 紫色の髪を適当に後ろに流した中年の男。おれの目は今までリオネルやサイゼルなど華やかな人間に慣れすぎていたんだろう。

 どこにでも居そうな、おでこの広い、皺も刻まれた中年男性だ。

髪の色や目の色が黒ければ、日本にいてもおかしくないかもしれない。

浅黒い肌、太い指、ずんぐりむっくりとした、こちらでも小柄な身体つき。



「えー、本日はお日柄もよく」



 驚いた。言うことも日本のサラリーマンみたいだ。


「こら、大公殿下と王子殿下の前だ。勝手に口を開くな」

「へえ」



 リオネルの目つきが少し変わった。あれかな、前に『神眼』とか言っていた特殊能力でも使うのだろうか。サイゼルも優雅な王子を気取って、男を視界に捉えているが、興味を示さないという風に、表情を動かさない。

 おれは黙ってこの成り行きを見守った方が良さそうだ。




 トマの話では、町でポルドス殺しに繋がる、彼を唆した人間を探していた。その酒場で出会った情報屋だそうだ。何でも白くなった村のことを調べ、方々を歩き回っているから何か力になれるかもしれないという。今回も、大公領で最近白い病に罹った村を調べようと思い、町をふらふらしていたらしい。


 男はぐりっとした大きな目に、愛嬌なのか笑みを貼り付けている。目の色は黄色とも緑ともとれる、不思議な色合いだ。

全体的に、中間管理職のサラリーマンというか、スポーツ新聞の記者にいそうだな。どこか庶民的な雰囲気もあるし、こう、雑というか粗野な感じ。

 これまでずっとおれの周りにいたのは、国内最高峰、腐っても王宮勤めの男たちと、傅かれる王族だ。所作一つとっても、皆綺麗だし、身なりもいい。


ついつい比べてしまったが、それ程雰囲気はかけ離れている。


 騎士たちはこの男の話を聞くうちに、どんどん剣呑な目つきになり、男に睨みを利かせている。ジャンですらいつもの笑顔は引っ込めていた。




「連れてきたからには利益があるんだろうな」


 サイゼルの声は厳しい。

さっきまでと打って変わって、硬質な声色だった。


「……さて、情報屋のついでにおかしな連中まで来ているな」


 にやり、とリオネルがおかしげに笑う。

彼はいつの間にか、腰に剣を佩いている。フェンシングで使うような細い刀身のものだ。

立ち上がり、男に近づく。





「お前が連れてきたな」


 リオネルは剣を抜いて、男の前に切っ先を向けていた。おれには、その抜くときの動作が見えなかった。相当速い抜刀だったのだろう。


 トマの顔が、騎士たちが緊張している。

一方で、そんな中にいても男の表情や態度は変わらない。その様子を見るや否や、リオネルは男を無視して幕屋の戸口へ向かい、暖簾のように布を押し上げた。




「まあいい。僕も腕ならしといこう」




おれはそのどこか悪戯っこの笑みを浮かべるリオネルに、サイゼルの超すごい魔法を見て、張り合おうとしてるんじゃないかと勘繰ってしまった。







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