こぼれ話① 七人の円卓
こぼれ話① 七人の円卓
呼び出して、約束の時間より少し遅れて部屋に入る。案の定、五人は少し話せていたようだ。それでいい。
「ご苦労、トマ・スーレンだ」
騎士は立ち上がって敬礼、侍従もぺこりと頭を下げた。出発に向け、再度話しておく必要がある。ジャンを交えて、私たちはここ数日のこと、見たこと聞いたことを言い合った。
「なるほど。想像していた通りだ。焦れているな」
「転移式を見た連中がさも得意げに吹聴しているようです。転移者様が近衛の棟に来た様子を見た者は、誇らしげに語っていたので反感はないかと」
そう返したのは騎士のマハーシャラ。大商人の家の生まれで、幼い頃から親について貴族の邸を出入りしていたので、人の機微に敏い。気風もさっぱりとしていて人格も問題ないだろう。
「宮廷の貴族は勝手なものですよ」
こちらはカーク。彼は外国から亡命した貴族の三男で、防御や反射魔法が得意だ。これは風魔法と水魔法を使い、魔力量と魔法を使うタイミングが極めて難しい。繊細な技なので近衛でも使いこなせる者は少ない。焦げたチョコレートのような褐色の肌に肩まで伸びたオレンジのドレッドヘアで華やかな風貌だが、繊細な技を使う、力押しではないのが長所だ。
黙っているのはクリス・マクナハン。殿下と昔ある事をきっかけに知り合い、無二の忠誠を誓う実直な男だ。
「よろしい、ではそれぞれ準備にかかろう。ジャン」
ジャンがリストを配る。各自に準備してほしいことや予算や給金、気を付けてほしいことを書いた。
そうしてジャンがテーブルの空の皿に、火をつけた炭々岩を放り込んだ。
皆がリストを燃やす。
「ピッケ、侍従に最も必要とされるものはなんだ」
「はい!え、えと、忠誠心です」
「それをどうやって示す」
ピッケはおろおろと二の句が継げない。
まだ子どもだが、容赦していてはいざという時、彼自身が困るだろう。
「人それぞれ違っていい。私は忍耐だ、忍耐で示す」
マハーシャラとカークは互いに顔を見合わせ、ジャンは少し笑いを堪えている。
「耐え忍ぶことと信じることが、私の今日に繋がった。おい笑うなジャン」
「すみません、トマ様も冗談を言われるんだと思って」
騎士二人もつられて笑うが、私は至って真剣だ。マクナハンだって真面目に頷いている。
ピッケとサイヤがぽかんとしているのは、私の主人のことをまだよく知らないからだろう。