表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/143

第十五話 香を盗むもの




 リオネルと話すうちに、マコトのか細い声は段々と大きく、身振りも仰々しくなっていった。


「だぁから! これで引いたら相手の思うツボなんだよ!」

「正体不明の生物が君を襲った」

「それはそれ!」



 ついにはマコトはベッドに乗り上げ、リオネルの顔を斜め上から指さした。

呆気にとられたリオネルは一瞬固まると、目線を逸らして大きく溜息をついた。



「……マコト、君は記憶が戻る時に魔力を消費する。それで気絶するんだぞ? それは相当君の身体に負担がかかってるんだ。脳も心も。もし本当の敵の手先だとして、僕の位置が割れてしまった」

「それはまだわからないだろ!」

「可能性の話だ!」

「じゃあその可能性があったとしてその、敵は何ができるんだよ!」


 リオネルとトマが似たような仕草で頭を抱え、ジャンはマコトとリオネルを見比べて困り果てた顔をしている。

なんだか子ども扱いされているようで癪に障る。

ムッとしたマコトは、更に畳みかけるように言葉を継ぎ足した。


「リオネル、お前が西部にいるのは、オグライゼンの一件で知ってるんじゃないのか? それで今更追いかけてきて、何をしようっての?」

「……僕がこれからしようとしていることが露呈したら」

「おいおい、お前が人探ししてるのがわかってんならその“一つ目のダグ”ってのは一生見つからないんじゃないか? 敵にバレてんなら、そのダグ本人にもバレてるって」



 普段は人の言葉を遮らないマコトの様子に、また返答に困るリオネル。どうにも落ち着かないといったマコトの挙動は、ある意味で神経が参っているのだろう。

それは理解できなくもない。




「一応、理屈は通ってますね」

「トマ」


 トマは基本的にリオネルが良ければ良いという考えだ。

ここでマコトの意見を擁護したとて、それは主人を裏切っているわけではない。

リオネルに対する意見は、部下の自分が言うよりマコトが言う方が、結果としてリオネルの為になると思っている。たとえそれがリオネルの意向とは違っていても、大公殿下の脳細胞が活発になればよい。


マコトは、トマのそういう面を知ってか知らずか、これ幸いとベッド上での演説を続けた。



「敵はおれをビビらせて、おれの動きを封じようって作戦かもしれないだろ。ビビらせておけば大したことは出来ないっていうさ。要は腹の探り合いなんだから、これしきのことなんでもありませんって、こっちも平気な顔していなきゃいけない」

「それは……」


 それは、リオネルがこれまで考えていたことの一つだった。


「身の危険は感じたけど。でも、記憶を奪うとか、寝込みを襲うとか、あとオグライゼンは丸腰のおれに攻撃すらしなかったよな。ルネにはあんな酷い事したのに」


 マコトは、ルネの一件を根に持っていた。

水車に縛り付けて、時間がきたら溺死する仕組みで殺そうとした。拷問以外の何ものでもない。

 一方で、そういう卑劣な思考回路の人間が、マコトに手を出さなかったのは不可解だ。



「……マコトが言いたいことはわかる。けれど全て賛成じゃない」

「なんで?」

「魔力を奪われることが、どれほどのことか君はわかっていない!」


 この世界の人間は誰しも魔力を持って生まれ、それが栄養素となって生命を支えている。つまり、魔力の枯渇は命に関わることだ。


「記憶が戻ってくるときも、今日も、君は魔力を吸い取られる。命を取らなくても、じわじわいたぶっていると言えるんだよ」



 リオネルはトマに目配せした。

出ていけ、という合図である。トマは飲み物を用意してくると言い、二人の騎士を連れだって退出した。


「ちょっと落ち着こう」


 そう言うと、リオネルがベッドに腰かける。

マコトをそばに座らせ、自身もあぐらをかいた。


「な、なんだよ。おれは絶対引かないからな」

「そうじゃなくて」


 水色の瞳はマコトをじっと見上げる。

そしてマコトの素足を取って、自分の膝に乗せた。


「な、なに…」


リオネルは、近くにあった台拭きを手繰り寄せると、ゴシゴシと力強くマコトの足を拭いた。


「他には、どこを触られた?」

「え…いや、左の、足首だけ」

「掴まれた?」

「……だと、思うけど」


 リオネルがマコトの踵を持って、そのまま上に持ち上げる。

反動でマコトはベッドに倒れてしまった。

脚に何か触れた。

何かと思って腕で支えて身を起こせば、リオネルが、マコトの足首に口を付けていた。


「ちょ! ま、お前なにしてんだ!」

「何って消毒に決まってるじゃないか」


視線を合わせたまま、リオネルはマコトの足首に噛みついてみせる。

がぶがぶと、軽く甘噛みするような動作に、マコトは何故か顔が熱くなった。


「ば、ばか! 消毒ってお前」

「じゃあ上書きする」


 ちゅっと音を立て、何回も足首に口付けするリオネル。


「へ?……」



あまりの事に、驚いてマコトの目が見開かれる。

さっきまでせわしなく動いていた口も舌も、電力が落ちたように停止してしまったのだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ