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第三話 青写真



 白い病との関わりはまだわからない。それはサイゼルが調べてくれているはずだ。

けれどもこれで、狙いはこの国の王弟、リオネル・ランスター大公だと知れた。


 六年前の家族の惨殺、領内での不正。

ディアメの街の人々の中には、リオネル大公に反感を抱く者がいた。それが彼の直接的な失態でなくとも、これまで不正に気付かなかったことは確かにリオネルに責任がある。

だが、これがこの度明るみに出なかったらどうだっただろう。

ポホス村長に届いた偽の書簡では、王侯貴族の無理強いで息子が死んだことになっていた。



「つまり、敵の狙いはどうあっても僕だ。僕の周りで騒動を起こして領民に反旗でもさせたかったのかな」

「…え、何? 反旗って…反乱のこと?」

「敵はそう仕組んでいるように思える。でもそれは目的ではなくて、多分方法の一つなんだろう」

「え、ええ?」


 マコトが口を開けて首を傾げた。ピッケも同様の顔をしている。


「いやな予感がしたから元帥に来てもらったんだ。結果は大正解だったな」


 岩のようなホルスト元帥が腕組みして頷いた。


「個人的に恨みを買ったにしては、話が大きすぎる。組織の規模もね。だから敵の最終目標が見えてきた…ジャン、なんだと思う?」


リオネルから話題を振られたジャンは、一度言いかけて口を噤んだ。視線をそらして口ごもる。


「…大変、不敬ではありますが」


 代わりに指名したカークハイムが答えた。


「最終的には…国を壊すことかと」

「そうだね」


 その答えに対するリオネルの声は場違いな程穏やかだった。


「いやがらせの域を超えているからね」


 リオネルが再びティーカップを取ると、マコトが我に返ったように声をあげた。


「え、うん?! で、でもさ、ディアメの人の中にも良識派っていうの? ちゃんと辻褄が合わないってわかってる人がいたよな? だから必ずしも反乱になるとはいえないし…それに、リオネルが嵌められたってわかったら、みんな団結して怒るとか……」

「それでも良いんだ」

「え?」



 マコトにはまだわからないだろう。住む世界が違ったのだから当然だ。


「マコト、いいかい。それはみんなの義憤だ。それ自体は人間の良い面だと思う。けれど義憤は人を駆り立て正当性を与え、時に武力に変わってしまう」


 そうして領民が怒り武器を手にして、一体どこへその感情と力をぶつけるのか。マコトには想像ができないと思う。


敵は、こうした火種になるような仕掛けを幾つも作っていた。さらに、オグライゼンが死んだというのにその反応がない。それは上手くいったかどうかに頓着していない、といえる。達成できなくても構わない、という事だろうか。だがこちらは確実に疲弊する。対応に追われれば誰だって綻びが出る。


そのさらに奥に、本当の狙いがあるはずだ。だが今はそこに確信がない。


白い病に国が侵されている、その時期に何故被せてきたのか。

いや、やはり内側からの瓦解、国家の転覆を狙っているからこそ、マコトの転移式は細工された。けれど命は取られていない、転移自体は成功している。

術式を書き換えるなら、転移できなくさせる事も出来たはずだ。


 この辺りが、リオネルの中で煮え切らなかった。



「結論から先に言うと、こちらも色々な手を打って出る。元帥に立ち会ってもらったことで、ひとまず王宮側は元帥に任せるとしてだ。僕に足りないものを補いたい」


 リオネルは再びマハーシャラから小刀を受け取った。



「これが手掛かり」



 小刀を皆に見えるように持ち、全員の顔を見渡す。


「仕込み、暗器、色々言えるがこういう物は正規のルートで手に入るか? トマ」


 トマは片眼鏡を拭きながら頭を横に振った。拭いた片眼鏡をかちゃりとかけ直す。


「いいえ。裏稼業の専門職からでしょう」

「……ルネは客づたいにこれを手に入れたと言った」



―――確か、あの人は西から来たと言っていました。



「ディアメから西というと…ココン・ドネ川」


 王国とその周辺の地図から、リオネルは河を指さした。



―――作った職人の名前はわかりませんが、確か隻眼の男だったと。



「トマが手配書をくまなく調べた。手先が器用でこれまで一度として足がつかなかった男、一つ目のダグ。きっとこの小刀は彼の作品だよ」


「なんでそう思うんだ?」

「勘だ」


 マコトの問いに即答したリオネル。サイゼルがいたら呆れ返っていたことだろう。


「一つ目のダグとかいう男、罪状は窃盗のようですが」

「資料には、窃盗の小集団に毎回雇われている、とある。恐らく捕まった誰かが取り調べで口を割ったんだろう。そういうことが数回、度重なった」

「それで本人は捕まっていないとすれば、相当ですね」


 マハーシャラが書類をめくりながら答えた。


「この作者がそのダグ、というのは僕の勘だが、とにかくこういった物を作って売っている奴が、近くにいるってことだ。どうしても見つけたい」



これ以上敵のルールで、勝手に盤上に乗せられてたまるものか。

こちら側もレールを引く。いわば絵図面の押し付け合いだ。

 

ここまで何をされてきたか、何を奪われてきたか。そうして、このままいくと何が起きるのか、その場に居る者たちは繰り返し思い描く。

まだ見ぬ敵は、自らの導火線に火を点けてしまったのかもしれない。


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