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第四十八話 大公、紳士を拾う



 再び馬に乗る頃には、だいぶ日が傾いていた。

二つの河が交わり、また二つに分かれていく水の交差点、河の街ディアメ。

河辺には船が並び、船頭の呼び声、舟唄が聞こえてくる。


 マコトはリオネルの前に乗り、後ろからリオネルが手綱を握る。

急ぎの時は前後が逆になるが、この方がマコトも前方が見えて様子がわかるのが良かった。

背中に体温を感じて、若干汗ばんでいる。

馬に乗るというのは、乗せられるだけでも身体を使うものだ。

背筋が伸びて、辺りを見渡せるのが気持ちいい。ぱかぽこと鳴る蹄の音は、馬が大きくても変わらない。心地の良いリズムだった。


 背中で自分より少し熱い体温を感じるのには、長く魔力供給で肌を合わせていたので慣れてしまった。

これが落ち着くというのは、正直いって認めたくない。


 マコトたちは西陽を受け、並足で馬を進める。

河辺に沿うように泊まっている多くの船は、鮮やかな水面にその姿をくっきりと映し出す。

様々な形の船が並び、異国情緒ともなんともいえない圧巻の光景だ。

中華風の帆船、ヨットのような三角の帆の船。ゴンドラのような細長い船、屋形船に似た船、瓢箪を二つに割ってひっくり返したような形もあった。



「こんなに船が着くのか。港みたいだな」

「運送用の船着場はもう少し下流だ。夜に河川を運送する船はほとんどないから、陽が沈む前に係留するんだ。危険だからね」



今動いている船は、家路に帰る人々を送るものだという。


「ディアメの中に住むより、河に船を停留させて住む人もいるよ」

「船が家ってことか」

「ああ。城門の外になるから、その分少し物騒だけどね。それだけにお金はあまりかからないんだ。出稼ぎの若い人に多いらしい」


そういうと、リオネルは馬を降りて手綱を河辺へと引いていく。マコトは大きな揺れに耐えるよう、バランスをとりながら鞍の端を掴んだ。

 やはりこの世界で生きていくには、まずは馬に乗れるようになった方がいいな。ジャンに聞いてみよう。

そう思っていると、船の近くまで来た。

瓢箪型の船だ。


「変わった形だな」

「あれ、ここに来るまで見ただろ?民家で似たようなのを」


リオネルに下から尋ねられ、頭をひねる。

 民家と船が同じ形? そんな記憶はない。

見たことがあるのは、土壁や煉瓦作り、石作り、それから変わった繭のような家だ。



「白っぽい、繭のような形の家なら見たけど」


 ポホス村長の村で見た気がする。繭のような家はどことなくと現実と幻想を織りまぜたようで、印象に残っている。子どもの頃に見た特撮映画をすぐさま思い出したのだ。東京タワーの根本に繭を作ってしまう怪獣がいたな。


「そうそう、それだよ。材料は同じ。チョウチョウウオの卵とヒャクネンガの繭を貼り合わせた素材で水に強いからよく使われているんだ」


元々、卵と繭が丸いので、四角く形成するよりもその形状を活かした方が良いのだそうだ。

それからリオネルは船の造りや、その独特な素材の話をしてくれた。

西陽が水面に反射して、少し眩しいくらいの河辺で、いつもより饒舌で声も弾んでいる気がする。



「様々な生き物が生まれる時に、殻で出てくるだろう? だからその殻を使った素材が豊富でね。色んな種類があるよ」


そういえば、こっちの世界は哺乳類でも卵で生まれるというトンデモ生命科学だった。未だに信じられない。


「殻材、殻細工といって、特性もそれぞれ違うし組み合わせ方によっても変わってくる」

「そうか、木が高級品なんだっけ」


 おれは日本家屋ばかり見て育ったから、木造は当たり前って感覚だ。こちらの船や馬車でも、木材が使われればそれは高級品らしい。


白い病の要因は、人間が森林伐採をし過ぎたからということになっている。

そこから木を大事にする価値観が根付いたから、そう簡単には木を切れない。その代わりにありふれた殻を利用するようになったというわけか。いつかその殻材の加工とか材料置き場とか、現場を見てみたいな。


おれが日本家屋の特徴を話したら、リオネルにしてみれば、高額以前に簡単に家事で燃えてしまう木材を建築に使うことが信じられないと言う。そんなもんかな。

おれは木造建築の地震への耐久性とか、湿度が高い気候について、知っている限りで答えた。

所変われば品変わる、ってやつか。


リオネルは知らない世界、異なる文化に興味があるのか、とても楽しそうに聞いてくれた。

ついつい、おれもその気になって熱が入る。

夕暮れが近い。おれたちがそうやって話し込んでいると、人の声がした。


「ねぇ君たち、しけこむんならさっさと船宿を探した方が良いよ」


何かと思って河の方を見ると、屋台船からひょっこりと顔を出した人がいる。

そいつも、相手がおれたちだとは思わなかったみたいだ。


「あ」

「あっ」

「あー!!」



互いに顔を見ると、つい大きな声が出てしまった。

だって、お前、今までどこにいたんだ。



そこには灰色の中年紳士、アスクード伯爵がいた。





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