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第四十四話 おいでませ大学都市《アル・ジャウザ》Ⅰ



 大陸中央から東へ向かうと、赤茶けた岩盤地帯が広がっている。

草は生えず、動物の影すら見えない不毛の地。風が巻き上げる赤い砂。

緑豊かな国を見慣れた人々ならば、そこは忌まわしい、避けて通りたい場所だろう。

何も生まない土地には、野盗すら近寄らない。赤の荒地、赤岩の砂漠などと呼ばれ、誰からも見向きもされず、長い間どの国の領土にもならなかった。


ここに、数百年前に拠点を置いたある集団がいた。その果てに現在の大学都市が形成されたのである。


 所々に乱立する赤い岩山のそばに、都市を囲む城壁より遥かに高い塔の影が見える。それは近づくにつれてはっきりと形を露わにした。

巨大な塔だと思われたものは、七つの背の違う塔が円形に集まった建造物であった。


サイヤが感嘆のあまり、口を閉じることができない。お供のスーレン一族の男たちも、初めて見る光景だった。

これがかの有名な大学(アル・)都市(ジャウザ)か。

そう言わんばかりの仕草に、彼らが”お上りさん”だとわかってしまうだろう。


 

七つの塔は、それぞれが回廊で複雑に繋がっているようだった。竹を斜め切った断面のように、巨大な一つの塔と言えなくもない。

これが大学(アル・)都市(ジャウザ)。塔の周りはぐるりと城壁に囲まれている。

人が出入り出来る場所は一箇所に限られている。城壁の西側にある巨大な鎧戸の門だ。ここでは衛兵が常駐して検閲を行う。大学都市の中は、文字通り都市と呼べるものなのか。


 荒れた大地にわずかに活気づいて伸びる線は、この学園都市に入るための行列だった。

 中へ入るために並ぶ行列には、行商の姿が多くみられる。

不毛の地に造られた大学(アル・)都市(ジャウザ)は農産物がない。何かを生産しているわけでもない。全て外から持ってこなければらならない。商人からすれば、美味しい商売だ。


近づけば近づくほど、赤茶けた大地に突如として現れた塔はまるで地面から生えたように雄大で、見るものを威圧する異質の存在感を放っていた。呼ばれていない者は来るな、そう言われているかのようだ。

とはいえ、サイゼル一行は無事に大学都市へ着いたのだ。

荷馬車が行列の最後尾について、実感が湧く。



「ここからは別行動だ。打ち合わせ通り、お前たちはどうにかして中へ入ってくれ。この紙鳥を渡しておく」


フードを深く被ったサイゼルが荷馬車を降りると、御者の二人に小さな包みを渡した。

紙鳥は連絡に使われる、空を飛ぶ手紙だ。


サイヤも慌ててサイゼルを追った。

サイゼルは、並ぶ人々を追い抜いて、門へ向かって歩いていった。






 大学(アル・)都市(ジャウザ)の主要な役割は学術、魔法の研究である。その為立ち入りを許可されている学者は、行商人などと入場の方法が異なるらしい。

列を追い抜いても誰にも文句を言われない。


 それが世界で指折りの学者だと、出入りの業者ならばよく知っているのだろう。



 検閲を済ませ門の先へ進むと、一見どこにでもありそうな都市の大通りに出た。


あらゆる文化を混ぜた、賑やかな服装と呼び声。露店や商店が立ち並んでいた。

スパイスや香木、食べ物の匂いが混ざって、街の活気に一役買っている。

サイゼルの従者としてサイヤの登録を済ませて、あとは勝手知ったるなんとやら、というように、褐色の肌の王子は気ままに歩いていく。

 心なしか、これまでの緊張感も薄れているようだ。


 そうだ、無事にここまで着いたんだ。


 サイヤは初めて見る大学都市に気を取られていたので、しばし遅れて、目的地に着いたと理解した。

途中、邪魔も入らず、不審者にも会わなかった。リオネル大公が警戒する“敵”に見つからずにここまで辿り着いた。


新米の侍従は、本当に無事についたんだ、と胸を撫でおろす。


「何をしている。ここではおれの服を離すな」


サイゼルがサイヤに、振り返って自分の腰帯を掴ませた。


「そんな、私は子どもではありませんよ」

「ここは大学都市だ。いいかサイヤ、ここからは必ずおれの言うことを聞いてくれ。迷子になったらこの先百年、誰もお前の事を見つけられないかもしれない」

「ひゃ、百年?!」


サイヤの裏返った声は、街の喧騒に紛れてしまう。


「ああ。大学都市は、外の世界より何百年も進んだ魔法がある。あるいは太古の昔に滅びた魔法も」


フードからきらきらとした黄色い目を輝かせ、背の低い侍従の顔を覗き込むようにしてサイゼルは言った。


「子ども騙しのお伽噺だと思うか? ここは全くの別世界だと思え」


平時ならふざけて、からかい半分に言いそうなことを真顔で伝えてきた。そうして、サイゼルはまた前を向いてずんずん歩き出してしまう。


どこへ向かっているのか、全くわからない。

商店が並ぶ大通りからどんどん外れて、裏道へと入っていった。大学都市とは、研究機関で、国際的な大学ではなかったのだろうか。

サイヤは、必死で腰帯を握ってサイゼルについていく。安心したばかりだったが、予期せぬ緊張がサイヤを包んだ。




2024・07・08 誤字脱字 加筆修正

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