第九話 選ばれた人々
第九話 選ばれた人々
翌日、離宮内の広い応接間に呼ばれた。大きな茶色いテーブルは蜜のように美しい艶があって、その上に大きな紙が広げられている。紙には円形の模様と文字のようなものが見えた。
「神祇官が遅れているようだから、昨日話した騎士と侍従を紹介しよう。入って」
リオネル殿下の仕切りで、ドアから五人の男が現れた。本当に男しかいないんだな。
一列に並んで礼をする、多種多様な男たち。五人いるからちょうどバンド組めそうだ。
「左からどうぞ」
「クリス・マクナハンです」
「マハーシャラ・テムズです」
「カーク・ハイムです」
騎士たちは皆、革の甲冑を着ていて、華やかというより堅実そうな印象だ。名前を頑張って覚えよう。
「ノア・ピッケです」
「サイヤ・ジンクスです」
は、初めて! 初めておれより身長が低い人を見た。変に感極まっている。こちらに来てからずっと見下ろされていた。相手と顔を合わせるときには見上げていた。周りを取り囲まれると結構怖かったのだ。
ああこの世界にも目線が合う人がいたのかと、おれは安堵感で胸がいっぱいだ。この二人は鎧を着ていないから、いわゆる侍従というのだろうか。柔らかそうな雰囲気で、ジャンと同様、上手くやっていけそうだ。
「近衛騎士の三人はマコト専属になる。扉番も、交代で必ずこの三人の誰かが付くようになるから、互いに互いを知ってほしい」
リオネル殿下は大公オーラというか、王族だという大物の雰囲気を醸し出していて、余所行きの顔だと思った。こうしていると、本当に王様っているんだよな、きっと、と思えてくる。生憎、これまでの人生で王族に会ったことがないから実感が無かった。サイゼルは態度でかいって感じだから、少し違うんだよな。
そのリオネル殿下に声をかけてもらえた、というだけで光栄なのだろう。騎士三人の目はどこかきらきらしていた。
「侍従の二人は今日からだ。ジャンをよく助けてくれ」
二人も胸を張って返事をした。ジャンも嬉しそうだ。
そのタイミングで扉がノックされる。五人と入れ替わりに入ってきた人は、驚くような恰好だ。洋装和装がごちゃまぜ、そして刺繍で飾られた腰布を巻いている。
大きな扉が、静かに閉まった。
「……遮音は」
「無論だ。先ほど来た時に上から重ねてある」
リオネル殿下が余所行きの顔を外した。わかりにくいけど、おれにはわかるようになってきた。それだけで空気が少し変わるところは、王族ならではってところなんだろう。
「その方、名は」
「ヨギと申します。殿下」
「よろしい。ヨギ神祇官。こちらが転移者だ。神霊院で見ているな」
その人はおれに向き直った。今までに見た誰よりも、日本人、アジア系の顔をしている。いやそれだけじゃない。肌の色もおれより少し濃いくらいだ。
真っ青な髪は天然なのだろうか。トマの水色と灰色の中間の色も、元からそうらしいので多分そうなのだろう。その髪色と同じ入れ墨が、こめかみから首筋にかけて入っている。首から下にも続いていそうだ。
「転移者殿、お初にお目にかかります。ヨギです」
「おれには挨拶なしか」
「サイゼル殿下、畏れ多くも拝謁を賜りました」
「嘘だ、やめろ馬鹿」
サイゼルとは親しい仲らしい。すぐにふざけた口調になった。
「助かったよ。僕の知り合いの神祇官は中央にはいなくてね」
「殿下の若気の至りの火の粉を被って地方に飛ばされましたからね」
「酷い言い方だな。出世といってほしい」
トマに拍手。おれはもう断然トマを応援している。リオネル殿下にちくちく刺せるのは君しかいない。
さて始めるか、とリオネル殿下は仕切りなおした。