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さらば青春の黒歴史

作者: 物部がたり

 書き溜めた日記を読み返すと、記憶の奥底に眠っていた過去が鮮明に思い出される。書かれていることは他愛無い日常のことばかりで、今日は何を食べておいしかったとか、誰と遊んだ、映画やドラマ、アニメに漫画や小説の短い感想などである。

 日記の最初の三年くらいまでは、文章が稚拙で結果報告のような味気ない文章の羅列であり、読むに堪えなかったが、石の上にも何とやら、四年目にはそれなりに読み物として面白くはないまでも、目を通すくらいはできるまでに成長していた。


 れいは我ながら、成長したものだと大きく唸った。そんなこんな小学生のころから日記をつけ始めて、すでに十年以上にもなっていた。

 日記を始めたきっかけは、恐らく文章力を高めたいと考えたからだと記憶していたが、文章を書き始めた最初のころは、当然ながら書くことに慣れておらず、精神と体力をごっそり削られた。

 何度も辞めようかと考えたが、後一日、後一日と日記をつけ、半年も経つと習慣になってしまい毎日つけなければ、歯磨きを忘れたように気持ち悪く眠ることができなくなってしまった。


 そんなこんなで一年に一冊、すでに十冊以上になろうとしている。十年も毎日書いていれば、短い文章だとしてもかなりの文字数に達して、面白い小説ならまだしも、どこぞの一庶民が書いた黒歴史を読み返す度胸はない。

 思い入れはあるものの、重い日記の束を引っ越し先に持っていくわけにもいかない。かといって「いらないものは捨てといてね」と言われていた。

 日記はいらないもの? ではないが、家族にとって実用性のない「いらないもの」である。それに、置いていって家族の誰かに読まれた日には……。


 見られて恥ずかしいようなことを、人はどうして書き遺すのか。考え過ぎると哲学の迷宮に迷い込みそうなので辞めた。れいは自分で書いたことながら、「なぜこんなことを書いたのか」と昔の自分の精神状態を心配した。

 この際、十年間書き溜めた日記を後腐れなく燃やすことにした。

 リサイクルに出して誰かに拾われては困るし、ゴミ袋に捨てるのは忍びない。だから燃やす。日記供養である。れいは一日一日、一年一年過去の自分に別れと感謝を告げながら、日記に火をつけた。

 油分を含む紙は良く燃えて、文字は灰に、煙は空に消えた。

 さて、れいは新たに日記をつけることにする。

 懲りずにこれからも――。

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