暁に染まる城~不穏な街1~
あまり舗装されていない道を二人の男女が歩いている。
男のほうは二十代前半だろうか・・・とても奇妙な格好をしている。今は太陽が真上にある時間帯。気候も真夏ではないとはいえ、森の木々もまだ紅葉の気配なく、緑が生い茂っている。それなのに、真冬かのごとく黒いロングコートを羽織っている。黒い紳士帽をかぶり、黒ぶちメガネに肩まであるだろう黒い
髪の毛を後ろに束ねている。その尻尾のように束ねられた髪が歩くたびにピョコ、ピョコとコートに襟から出たり入ったりしている。
一方、隣の少女は彼よりもだいぶ若く見える。16・・・いや、15歳にはなっていないだろう。金色に輝く髪をポニーテールにしており、歩くたびにそれが太陽光を反射してキラキラ光っているようにさえ見える。短パンの上から巻かれたホルスターには二丁の拳銃がさされてあり、それも少女が使うにはあまりにも大きなものだ。また、特徴的な短パンのため、白い素足に時折傷の跡が見て取れる。その姿が彼女のワイルドさを引き立てていた。
「ルーギ、次の街って後どれくらい?お昼ごろには着くって言ってたわよね・・ねぇ!聞いてるの?ルーギってば」
少女はルーギと呼んだ青年の顔を覗き込む。黒い帽子とコートの襟の影せいで、彼の顔は彼女のほうからはほとんど見えなかった。そのため、彼女は下から覗き込むような格好になる。ルーギは下を向いたまま返事をしないが、その足取りはとても軽やかだった。
「ルーギ!」
「・・・」
「・・・ルーギ・・・」
「・・・」
「・・ルゥ~ギ・・・」
「・・・グゥ・・・」
「起きんかコラーーーー!!!!」
ドゴッと地響きが起こるような音と共に周りにいた鳥たちがいっせいに飛び立っていく。
次の瞬間、顔を地面にめり込んだルーギの姿がそこにあった。
「ひはいらないれふあ。いおがいもりよふねれいふぁろり(痛いじゃないですか。人が気持ちよく寝ていたのに)」
地面に顔をうずめたままでしゃべるルーギは何を言っているのか理解不能・・・と思われた。しかし、少女にはちゃんと通じていたようである。
「歩きながら寝るなんて・・・器用というかなんというか・・・で、次の街までどのくらい?」
ルーギは顔をめり込ませたままそそくさとコートの内ポケットに手を入れる。一枚の紙切れを取り出した。
「よく読めないんだけど・・・その地図」
地図に書かれてある言葉は彼女には理解できない言語だった。
「これクルメニア語じゃない?私読めないわ」
クルメニアとは彼らが現在いる国であり、独特の文字を持つ国である。他国とのつながりが多いため大抵の言葉は通じるが、文字を読める人間はこの国の人間以外ではよほど文学に精通している人間しかいない。
地面にめり込んだ顔を上げ、あごを地面につけたままルーギは地図を見つめた。その後、近くにあった(といっても30メートルほど離れていたが)看板を目を細めて見つめた。
「あ!ここがわかりました」
「『ここがわかった』って・・・なんか微妙なのが聞こえたけど、まぁいいわ。で、後どれくらい?」
「ここから1キロほど戻ったあたりを右に行って500メートル当たりにあります」
「え?1キロ戻るって?」
「寝てましたからね。いや~、寝過ごしまし・・・フィオナ!やめなさい!銃はあたると痛い所ではな・・」
ルーギがすべて言う前に銃声が当たりに響いた。幸いなことに周りには誰もいない。フィオナは誰かに当たることを気にせずに銃が撃てると思った。もっとも、ルーギにとっては全く幸いではなかったが・・・
銃声が響いた1時間後。二人はようやく町に着いた。予定より30分ぐらいの遅れですむということでルーギはフィオナからようやく許してもらった。説得に30分かかったが・・・。
「旅費も大分無くなってきました。この町である程度稼がないと次の町まで持つかどうかわかりませんよ」
「そんなこと気にしてる場合?見なさいよ」
フィオナは街に指を刺す。そこには人が一人も見当たらない。家のいくつかは窓ガラスが割れており、まるでつい先ほどまで戦場だったかのような光景、正しく廃墟だった。
「人がいないと稼げないわよ。ねぇ、本当に地図ではここが街になってるの」
「えぇ、といってもこの地図は20年前のものですからね。その間に何かあったのかもしれません」
20年前ぇ!?とフィオナは驚きの声を上げたが、実際のところはそんなに驚くことではない。
小国の多々あるこの地方ではいつ戦争が起きるかわからない。以外に見落としがちだが、戦場において「地理」というものはその国を制するにおいて最も重要なことを示す。戦略をより有利に進められるだけでなく、その土地の価値さえもわかってしまうからだ。よって、地図というものはあまり信用できないのだ。
「大丈夫ですよ。ほら」
ルーギは目の前に見える街の中でもっとも大きな屋敷に向かって指す。彼が指差して方向にはシーツが干されていた。
「最低でもあそこに誰かいますよ。いってみましょう」
ルーギがそういうと二人は町の奥の一番大きな屋敷に向かって歩き出した。
この街には人の気配がまったく感じられない。しかし、人がいた気配は感じられた。そのことはこの大きな屋敷についても同じ。しかし、この屋敷にはシーツが干されてある。そのこと以外この街に人がいること示すものがなかった。
ルーギは扉の前でなにやら不穏な気配を感じた。殺気というよりは、何か違う、そう、猫に追い詰められたねずみが発するもののように感じた。
「どうしたの?」
フィオナがルーギに問いかける。
「いえ、何かこう、いやな感じがしませんか?」
「なにいってるの?こんな廃墟みたいな街じゃいい感じがするわけないじゃない。とっとといくわよ」
そういいながらフィオナは勢いよく扉を開けた。その瞬間だった。鍬、鉈、鎌、鋸などの耕具を30人ほどの男に突きつけられ、思わず黙り込んでしまう。
「お前ら!いったいどこから来た。何しに来た。あいつの回し者か!」
フィオナは目を丸くしていたが、しばらくしてため息をつくとルーギのほうを振り返った。
「この場合どうしたらいいと思う?」
その言葉には余裕が感じられる。一番前にいた男が「馬鹿にしているのか!」と大声を出したがフィオナは無視していた。
「一番・・・というか普通は素直に従うんじゃないですか?」
ルーギのほうも大してあせっている様子はない。
「もしくは・・・」
「もしくは?」
フィオナがうれしそうに尋ね返す。彼女の中では彼が何を言うかはわかっていた。
「戦力的に乏しければ・・・戦闘不能に追い込むのも手ですね」
ルーギのせりふがいい終わるのとほぼ同時に多数の銃声がこだました。
全員が固まるしかなかった。銃声が鳴っていた1,2秒の間に前に立っていた6人の鉈などが全て破壊されていたからだ。男たちが前方を見るとフィオナが両手に拳銃を持ちくるくると回している。その表情からは明らかに余裕が感じられた。そして最も恐ろしかったのは耕具が6つ破壊されたこと。わずか1,2秒の間に6発の弾丸を放ち全て命中させたという事実がその場にいた男たち震え上がらせたのだ。
「次は当てるわよ。どうするの?」
フィオナの小さな微笑は周りの大人たちを震え上がらせた。わずか15歳にも満たない少女が・・・
「フィオナ。そのくらいでいいでしょう?私たちは怪しいものではありません。旅をしている・・・『渡り鳥』なんです。どうか警戒を解いていただけないでしょうか?」
かぶっていた紳士帽を脱ぎ、会釈をしながらルーギはその場の収拾を図ろうとしていた。すると男たちの後ろのほうから明らかに風貌が違う。とても威圧感のある男が現れた。
「すまない。いろいろあって・・・とりあえず上がってくれないか?」
その場にいた全員がその男に釘付けになる。フィオナはその男に向かって銃を突きつけた
「こんな雑魚でも私たちは一応命を狙われたんだけど・・・『すまない』の一言で終わりなの?」
「フィオナ!いい加減にしなさい!」
ルーギの言葉に渋々銃をホルスターにしまう。ルーギはそのまま男の方を見つめた。
「なぜこのようなことをしたのか・・・事情を説明していただけませんか?」
「わかった。ひとまず上がってくれ。私は町長を勤めているロナルド・ベルーシ」
ロナルドは胸に手を当てて少しだけ頭を下げた。
「私の名前はルーギ・ブラッドといいます。そして・・・」
「フィオナ・バレンタインよ」
深々とお辞儀をするルーギをよそにフィオナはロナルドに目さえあわせなかった。
私はこういうことすら初めてで、それどころかパソコンすらろくに使えません。なので温かい目で見てください。