成立と花園
なんやかんやあったが、練武会案は無事、成立、近衛騎士団の入団条件も緩和された。お父様も、こそっと褒めてくれた。やったね。
わたしも発案者として出席したよ。ほとんどレスター兄様が仕切ってくれたがな。
あれから、わたし主催のお茶会を初めて開いて、オホホ、ウフフ、なやりとりを貴族たちと交わし、味方を着実に増やした。
シュタイナー伯爵(エドワルド団長の兄が現当主)、カニング公爵(何のことはない、アーロン団長だ)の協力もありがたかったが、財務大臣のドイメン侯爵を味方にできたことは大きかった。
この派閥は、それなりの規模だったし、この中に息子が月光の騎士だ、という貴族がいて、わたしのガードになれるかも、ということにウキウキして細かいところで、大変よく動いてくれた。
母陛下に、女性たちを丸投げできたのも良かった。
わたしも、時々、引っ張られたが、微笑んでいれば話は済んでいた。
母陛下の情報力と話術、恐るべし...。
結果、なにやら何人かの男の子たちと会う予定がたてられていたが、ブサイクでも子供は何となく可愛く見えなくもないし、この世界の男性は、小さくても紳士だ。
ぷくぷくほっぺを赤くして小さな手にいっぱいの花をわたしにくれたのは素直に嬉しいし気分が良いものだ。
記念すべき第一回練武会は2年後に開催される。
準備期間のためだが、2年後ならユーリも出場できるんじゃない?まぁ、12歳の入団したての少年が十傑(上位10人を上位者とすることにした)になれるとは思わないけどさ。でも、きっといいところまで勝ち進めるだろう、仮入団して本物の騎士たちと訓練しているんだもの。それが自信につながればいい。
そして、いずれは十傑になって、わたしのカードに...。 でへへへへ。
大変、楽しみです。
そして、わたしは大変忙しいことになっている。少なくとも5歳のスケジュールとは思えない。
アイストリア皇国の皇族は全員が仕事を持っている。
一部はほとんど名前だけ、なんてものもあるけれど暇はしていない。
だから、家族(両陛下、兄3人、わたし)全員が食事を共にすることは珍しい、と4話で言った。仕事してないのは5歳熱を乗り越えたばかりの、わたしだけだったのだが、練武会の発案者が、わたしだったため、練武会の会長就任となった。
えー、と思ったが、イケメン救済のためだ、仕事しようじゃないか。
そんなわけで、忙しいわたしの癒しのために、じゃなくて、月光騎士団の騎士たちにも道が開けたお祝いの席に練武会会長に就任したばかりの皇女である、わたしが招かれたのだ。
騎士の集まりに行くのだから仮ガードの近衛騎士、必要なくない?エドワルド団長自ら迎えにも来てくれるし、ガード、戻ってくるまで休憩してていいよ、と言うのに、このブサイク(失礼)は頑としてついていく、と聞かない。真面目か。
ここは真面目を発揮してほしくないとこなんだが。
今日はゲジゲジ眉で細~い目、団子鼻の近衛騎士、ガイがガードとしてついていてくれる。
「皇女様が倒れられたらどうします?私が大切にお運びいたしますから」
なぜ、わたしが倒れることになっているのか、今日の体調はすこぶる良い。
招待を受けてから楽しみで楽しみで仕方がなかったというのに。
はぁ、仕方ない。連れていくか、花園に。
エドワルド団長が迎えに来てくれて、わたしを抱っこして歩いてくれる。練武会案成立のため一緒に頑張ってくれている間に、すっかり仲良しさんさ。
身分差と、その容姿から、わたしなんかが...てな感じで最初はびくびくされていたが、わたしはイケメンと仲良くしたいのだ。
わたしがグイグイいってたら諦めたのだろうか、だんだん素を見せてくれるようになって、親しい人しかいないときは一人称が「俺」になったし、今は抱っこだってしてくれる。うむ、安定の居心地の良さったら、もう。
抱っこしてくれるときにガイが「抱っこならガードであるわたしが!」とか「わたしがいるのに、団長に抱っこさせるなど申し訳ない」とか騒いでいたが強行突破だ。わたしはエドワルド団長によじ登った。これでヨシ。
エドワルド団長が微笑まれてる。こんな至近距離で。頭に血がのぼる。
なんだか、いいにおいがするし、このまま肩にもたれてお昼寝していいですか。
月光の騎士たちが集まっている会場に着くと、まさに花園だ。
天気も良く、美しい庭園にイケメンたちが談笑している様は素晴らしい光景だ。
今日は全員が団服着用の正装姿だ。うおぉぉぉぉ、素晴らしい!なんて素敵な空間だ。
ありがとう、ありがとう。生きていて良かった。
あ!ユーリ発見!わたしにはユーリセンサーでもついているのか。
ユーリも団服を着ている。
「皇女様、大丈夫ですか」
「我慢はお体によくありません」
「御気分が優れないときは、すぐ仰ってくださいね」
「景色はいいですよ、景色は。景色を見てください、あ、あの花は何て花でしょうね」
ガイだ。
うるさいったら、ない。無視していたが、今も傍にいてくれている団長に失礼だ。ひとつ注意でも、と振り向いたとき団長が先に注意してくれた。
「少しうるさいぞ、皇女様の可憐なお声が聞こえない。静かにしろ」
ちょっと皆様、聞きました?可憐ですって。皇女であるわたしには誉め言葉は聞きなれたものだ。だがしかし!イケメンに言われると一味も二味も違う。
きゃー、となっているわたしに、団長は更に嬉しいことを言ってくれた。
「皇女様。良ければユーリに会ってやっていただけませんか。皇女様が見学に来て以来、これまで以上に頑張っているのです。実力では入団したばかりの者よりも上になったでしょう」
マジか、もうそんななの?
さすが、わたしのユーリ。(違う)
「それは凄いですね。是非、呼んでください。わたしも話をしたいです」
呼ばれたユーリが傍に来ると、うしろから「ひっ...」とか「これは想像していた以上に...」などと聞こえてくる。
もう勘弁ならん。ユーリが傷ついたら、どうしてくれよう。
「ガイ。わたしから10歩離れるか口を閉じるか、どちらかを選びなさい」
振り返ったわたしを見てガイが青褪めて10歩下がる。これでヨシ。
近くまで来たユーリは、わたしの前で跪く。
はためいたコートがカッコイイ。
くーっ! 騎士だ。イケメン騎士が、ここにいますよ。
「皇女様。この度は近衛騎士団入団の際の条件緩和、練武会開催の決定、ありがとうございます。月光の騎士、すべてが皇女様に感謝申し上げます」
...大人、なんて大人な物言い。きっと座学も頑張っているんだろうな。
「感謝などいいのです。実力あるものが正当に評価されていなかった今までが問題でした。それを放置していたのですから皇族の一人として謝罪しなければなりません」
「...とんでもありません」
わたしを見上げる目は太陽の下のせいか、以前見たときよりピンクがかっている。それが、うるうるしていて、見ているとおかしな気分になる5歳児。わたしです。
「練武会が開催されるときはユーリも正式な騎士になっていることでしょう、わたしが一騎士を応援するのは立場的には良くないのですが、もしユーリも出場するなら、こっそり応援していますね」
「...はい」
更にうるうるして、わたしを見上げるユーリ。泣きそうだよ?
泣き顔も見たい、などと変態染みた思考になりそうなのを振り払い、渋るユーリを「一番、年が近いから」という理由で同じテーブルにつかせ、終始、俯きがちなユーリを堪能したのだった。
自分の部屋に戻る最中、ガイが「わたしは皇女様を尊敬します。ついに最後まで泣き出したり失神したりしないどころか楽しそうに過ごすなんて凄過ぎます」などと言っていたが、ガードがいるなら、と団長が送ってくれるはずだった予定がなくなってしまったことに不貞腐れていたわたしは付き添ってきていたエイダンに自分を抱っこさせた。
くそぅ。ガイめっ!イケメンの貴重な抱っこの機会を奪いおって...。
スーツ、制服、軍服、大好きです。