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お祭りだ!



わたしは考えた。この世界で初めて、こんなに机に向かったよ。

実力のある者がいる、それを正しく評価したい、じゃどーするか?て、やっぱ実力があることを広く認知させる必要があるよね。広く、ココ大事。事実を握りつぶされても困る。

実力があることを知らなければルールの撤廃なんて話も聞いてもらえないだろうし。


そこでだ!

全ての騎士団を交えての交流戦を開催するのはどうか、と考えたのだ。

弓や、槍なども使うが全員ではない、でも全ての団で剣は必ず使う。

そこで剣を使用しての練武大会だ。いずれは剣部門、弓部門、槍部門、格闘部門...などと分けてもいいかもしれない。

そこでの上位者に近衛騎士団に入団する権利を与えるのだ。

褒賞は他にも考えるとして、わたしは素案を紙にまとめ始めた。

同時に皇太子であるレスター兄様に謁見の申請を出した。

レスター兄様は、この世界では少し残念な見た目だ。つまり、わたしには、ちょいイケなわけだが、その見た目をカバーするためなのか大変な努力家で優秀だ。

だから立太子するときも反対意見は出なかったと聞いている。

そんなレスター兄様なら、わたしの、この提案にのってくれるのではないかと期待している。のってくれなかったとしても、わたしに甘い人を説得できなければ誰も説得できない。



そして、レスター兄様と相対している現在、兄様は、わたしの書いた素案を丁寧に読んでくれている。

レスター兄様は、ぴっちぴちの17歳。父陛下譲りの綺麗な銀髪に母陛下と同じ青い目、読むために伏せ気味の目元が美しい。長い睫毛が影を作っている様などは、じっと見ていたい。いや、兄様が読んでいるのをいいことに、さっきから不躾に見ているわけだが。

そろそろ、ガン見するのはやめた方がいいかとは思うのだが、レスター兄様は、わたしと距離を置いている気がするのだ。無視されるわけではないし、わたしがお父様や双子の兄たちに構われている(大変遺憾である)のをにこやかに眺めていたりするし優しい。

...なのだが、わたしが近寄ると、そっと離れようとするのだ。忙しいだろう、たまたま、何か予定があったのだろう、だが、違和感を拭えない。

だから、こんなふうに、じっと、わたしがレスター兄様を見られる機会はレアなのだ。そりゃ見たいでしょ、貴重な(ちょい)イケメンなんだもの!


ふ、と、レスター兄様が顔を上げる。

ガン見していたのを誤魔化、ゲフンゲフン...、気を取り直して「どうですか?」と聞いてみる。

「うん、面白いね。5歳で、こんなことを考えるなんてアニスはすごいな、実現できるように、もっと内容を固めよう」

「はい! ありがとうございます。レスター兄様に力になっていただけるなら、きっと成立できます」

レスター兄様は、コホンと照れたように咳払いする。可愛いな、兄様。

「アニスの初めての立案だ。他にも力になってくれそうな人を巻き込んで外堀を埋めよう。そのときはアニスにも協力してもらうかもしれない」

はて、外堀?とは思ったが思考に入ったらしいレスター兄様に聞きにくくタイミングを逃してしまった。

レスター兄様はテーブルに素案を書いた紙を置いて何やら書き込み始めた。

何を書いているのか見たくて兄様の向かいから隣へ移動する。

なにやらたじろいだふうだが、兄妹で何をたじろぐことがあるか。わたしは構わずレスター兄様にくっついて何を書き込んでいるのか覗いてみる。決してやましい気持ちなどない。

「...。アニス、あまり、わたしに近づかない方がいい」

「なぜです?」

おかしなことを言う。

「いや、おかしな噂をたてられないとも限らないから...」

「おかしな噂とは?」

おかしなことを言っているのは、今、まさにお前だ。

「まぁ、まだ幼いからなんとかできるか...」


何かぶつぶつ言っているが、わたしには、この案が成立することの方が大事なのだ。これが成立して近衛騎士団の入団条件から、おかしなルールを撤廃、実際に施行されて練武会が開催されイケメンな騎士を侍らせ...じゃなくて実力のある騎士をわたしのガードにして、やっとゴールだ!

先は長いな!


「何か悩んでいらっしゃるなら後でゆっくり聞きますから、今は、これをどのように広げるのがいいか教えてくださいな」

わたしの勢いに、今度こそ本当にたじろいでいたが、そこからは大変有意義な話し合いができて大満足だ。




◇◇◇◇◇◇◇◇




レスター兄様に呼ばれて執務室にいる。

兄様に素案を見せてから3週間が経過していた。

執務室には、レスター兄様とわたしの他に近衛の団長であるアーロン・カニング、月光の団長であるエドワルド・シュタイナーがいた。


「つまり、貴族院の貴族至上主義派を中心とした方々の反対が大きく、このままでは可決されないのですね?」

わたしの問いにレスター兄様が頷く。

「くだらない考えだ。騎士に一番必要なものは守る力だ」

アーロン・カニング近衛騎士団団長だ。この人はカニング公爵その人でもある。城で働く女性たちの理想の夫No.1だそうだ。

なかなかの能面タイプで、前世の平安時代ではモテモテであったことだろう。多分だけど。

この人は高位貴族でありながら実力主義の人で、代々、優秀な騎士を輩出している家系だそうな。

「貴族かどうかよりも、ただ単に見たくないだけだろう。その...あまり...見目の良くない者を...」

「今更なことを気にするな、はっきり言ってくれてかまわない」

エドワルド団長だ。今日も素敵です。

ふっと自嘲するような笑みが切なくて抱きしめたくなる。5歳ですけど。


「うーん、練武会も開催したくないんですか...、楽しいと思うんですけどねぇ」

練武会なんて一種の娯楽とも言えると思うんだよね。まぁ知ってる人は知ってるんだろう、月光騎士団が実は強くて、練武会なんて開催したら陽光と春光の騎士は出番がほとんどないであろうことを。それにしても見たくない、だなんて、お祭りを楽しく過ごしたくない人なんているのかなー...。


ん?お祭り...。


そういえば、わたしの脳内では、これは一種のイベントであり、お祭りであり、屋台なんて出ちゃったりして、みんなで美味しく買い食いして、騎士が「あなたに、この勝利を捧げます」なんてこともあったりなかったりして、そうじゃなくても、かっこいい騎士を堪能する、じゃなくて勇ましい戦いを見るものだったけど、レスター兄様と作り上げた提案書は、そんな楽しい感じが伝わるようなものにはなっていない。



「あの!」


わたしの突然の大きい声に、三人がびっくりしたように見る。申し訳ない、でも思いついちゃったんだよね。


「お祭りの雰囲気をもっと前面に出しましょう!」

「お祭り?」

レスター兄様が小首を傾げる。うむ、可愛いか、兄様。


「そうです、屋台出店の許可、休憩スペースを広く確保、休憩スペースにはステージも設けましょう。そして、騎士たちの戦いを賭けの対象にしてしまうのです。えっと、財務大臣は誰でしたっけ?」

「...! 貴族至上主義派の一角、ドイメン侯爵だ」

エドワルド団長が、はっとしたように教えてくれる。うん、大臣くらいは覚えておかなきゃな...。

「それは好都合。ドイメン侯爵をこちらに引き込みましょう。練武会はお祭りで、平民、貴族、両方の娯楽にするのです。平民も賭けに参加できるようにして、平民に屋台を出させて利益の一部は国に納めさせます。場所を提供するのです、嫌とは言わないでしょう。とても楽しい、皆が待ち遠しい、と思うようなものになりますよー、貴族の社交の場にもなるでしょうね」

「それはいいな。八百長に気を付ける必要があるが。それは元々のことだし...」

レスター兄様は、また思考の波にのってしまわれたようだから放っておこう。悪いことにはならない。


「それと、エドワルド団長、月光騎士団の団員名簿を実家の情報付きで提出してください。実家をこちらに引き込めるのでは、と思うのです」

「そんな上手くいくでしょうか」

「あら、皇族のガードになるのは名誉なことで騎士の目標とも言える、と聞いていたのですが、違いましたか?自分の息子や、孫、兄弟、甥が皇族のガードに選ばれれば何かとお目こぼしが、などと考える輩ならのってくると思いますが。貴族なら名誉は大好きでしょう? あら失礼、アーロン団長もエドワルド団長も、そんなタイプの貴族ではないと知っていてよ?商家も場合によっては力になってくれるでしょう」

「え?でも...、それは、皇女様のガードになる可能性も...視野に入れる必要が...」

「わたしは、そのつもりです。実は、コレと思うような騎士を見つけられず、お父、陛下に仮のガードを実力重視でつけてもらうようにお願いしたのです。わたしは練武会が開催され、その上位者をガードにすることを考えています」

「それは、素晴らしい餌になることでしょう...、凄いことをお考えになるのですね、皇女様は...」

2人の団長はキラキラした眼差しを向けてくるが、大変居心地が悪い。そんなキレイな人間じゃない、欲にまみれているんだ、わたしは。


わたしは月光騎士団の騎士が上位にくると思っているのだ。少なくとも近衛の騎士だけで上位を占められることにはならないだろう。確信に近い。上位者の中から(わたし的)イケメンを選べば良い。

わたしのガードが決まってから騒いでも、もう遅い。練武会を開催できてしまえば、こっちのものだと思っている。後から練武会の中止などできまい。平民の暴動が起きるぞ。いや、わたしが個人的に暴れてやる。


優勝者がガードになる、なんて図は描かせない。あくまで、わたしが選ぶのだ。

醜い者を嫌うヤツらには、上位者から、わたしが選ぶ、それはイケメンに決まってるだろう、と思わせておけるしな。実際には、わたし的イケメンなわけだが...、くっくっくっ。



え?思惑が外れてブサイ...この世界的イケメンばかりになったら、どうするか?、て?

うん...、薬でも用意しとくか...?





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