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side エドワルド



俺はエドワルド・シュタイナー、こんな面だが伯爵家の次男だ。


兄がいるから俺はスペア、おまけにこんな容姿で生まれてしまったために母に疎まれた。幸い、父と兄は、こんな容姿の俺でも普通に扱ってくれた。

だが、使用人も俺には素っ気ないし、なんなら俺のことを押し付けあっているのも知っていた。家を継ぐこともないし文官というガラでもない、だから騎士になることにして、12歳になってすぐに騎士団の入団テストを受けた。

父が剣の師をつけてくれたため一発で合格できた。兄という稽古相手がいたのも良かった。兄が俺といると母が嫌がるため、もう一人の夫のところに行って留守にすると兄が相手をしてくれた。お茶や食事も一緒にとるし遊びもした。

兄は同情もあったのだろうが、母から守ってくれていたことも知っている。兄には感謝している。


合格した後、配属されたのは月光騎士団、わかっていたつもりだったが少なからずショックを受けている自分にびっくりした。

だが、入団してみれば、あまりの居心地の良さに、これまでの自分が置かれていた環境が辛いものだったと改めて認識させられた。

ぬるま湯に浸かっているようで、このままでいいのか、と思うこともあったが昇進すると自分が、この団に入ってくるヤツらを守らねば、と思うようになった。

そんな俺が月光騎士団の団長になって5年がたつ。


ある日、この国の、たった一人の皇女様のガード選任のため皇女自身が騎士団を見学にまわることになった、と聞かされた。

皇女であるアニス様は5歳熱を乗り越えられたことで、これから本格的に皇族としての教育や仕事をすることになる。

皇女様は、かなりの美少女であると噂されている。

第二女性陛下であったルナ様も、とても美しい方だった。


が、月光騎士団の団長である俺には関係ないことだ。

皇女様の兄上である三人のガード選任のときも騎士団の見学は行われたが、月光騎士団には皇太子のレスター様しか来なかった。

レスター様は双子の弟たちとは違い、少し残念な見た目をしている。

同情からであろう。

「月光の騎士たちは、よく鍛錬されているな」というお言葉は嬉しかったが、その後に続いた「それだけに残念だな」と言われたのは堪える。

そうだ、いくら鍛えても、強くなっても、月光の騎士たちは、そこ止まりだ。

他の騎士団であれば近衛になることもできるのに、だ。


そんな、やさぐれていたときに、皇女様の傍仕えのエイダンという男が俺を訪れた。

なんと、皇女様が見学したいと仰っているらしい。

可能なら明日にでもお願いしたい、と。

来週は城下の見回りがあるが、今週は特に何もない。団員たちの励みにもなるし、こちらからお願いしたいくらいだ。

だが、大丈夫なのだろうか。女性の中には俺たちを見て失神する者もいる。

皇女様のような方が、俺たちに耐えられるだろうか。

皇女様は月光騎士団の特性を御存知なのか、やめた方がいいのではないかと問うが、エイダンは予定を組まないと皇女様に叱られる、と言って、すぐに予定を組み込みたい、と言う。

期待と不安の中、明日、皇女様の見学予定とした。


そして、今だ。

皇女様は噂通りの美少女だった。俺に対して急な予定を組ませて申し訳ない、と謝罪までしてくれ、見学場所まで来た。

何故だ、どうして、そんなに微笑みながら、あいつらの訓練を見ていられる。

見慣れている俺でさえ、醜い男たちが汗を流している様は暑苦しいと思うのに。

一応、団員たちのことをなるべく良く見えるようにフォロー、じゃなくて説明しているが、時々、質問も交えながら、きちんと聞いてくれている。


「あの子は?あの子も団員なの?」

驚いたように言う皇女様。非常に可愛らしいが、ユーリのことを失念していた。

変に報告されるとマズい。

だが、嘘をつくこともできないし誤魔化すとしても、どう誤魔化す?

結局、少し隠すことにして正直に話した。


「あの子は見習いです。少し事情があって特別に月光騎士団に仮入団しています」

「事情とは?」

「...あの子は、ある子爵家の三男なのですが、あの見た目のせいで酷い扱いを受けていました。それを...保護しているのです」


本当は子爵家の庭の隅に倒れていたユーリを忍び込んで連れてきたのだ。

ユーリが子爵家で不当な扱いを受けていることを知った団員から相談を受けて様子を見ていたのだが、その日、倒れているユーリをそのままにはしておけなかった。

子爵家が行方不明の訴えも出さないのをいいことに、そのまま仮入団という形をとって保護している。

誘拐と言われても反論できない。

皇女様は「そうでしたか」と呟くように言うと何か考え込んでしまわれた。

マズい、規約違反など言われたらどうする。ユーリを子爵家に戻したら、また傷つけられるのはわかりきっている。

おまけに子爵家に訴えられたら月光騎士団の責任を問われる。

皇女様の情に訴えて何とか目をつぶってもらえないだろうか。


「あの、不敬なことだとは承知の上ですが、このことは...」

と皇女様を見ると「あの子は何歳ですか?」と聞かれた。


「10歳です」

「騎士団に入団できるのは12歳からでしたね、では、あと2年、彼の保護を頼みます。何かあれば、わたしの名前を出すといいでしょう」

助かったのか...。皇女様は真剣な表情だ。本気で言っているとわかる。皇女様は見逃してくれるだけでなく、自分の名前を出して保護してくれると言うのか。


「...承知いたしました」


感激に震えながら、なんとか声を出す。


「では、彼をここへ呼んでください。彼のことを何も知らない、ではいけないでしょう」


ユーリは、この騎士団の中でも特に醜い。

まだ幼いが成長すれば醜さが際立つだろうことは誰の目にも明らかだった。

それを間近に見ても大丈夫だろうか、少し迷うが皇女様は、ここへ来て一瞬でも嫌な顔をしていない。それに賭けることにした。

一番近くにいた団員にユーリを呼ぶように言う。


ユーリが走ってきて少し前まで来ると一度、足を止め、俺を見る。

近くに行っていいのか、と聞いているのがわかった。俺が小さく頷くとユーリが恐る恐る近づいてきた。

汗をかいていて、汗くらい拭け、と思うが仕方ない。

だが、皇女様はユーリをじっと見つめていて叫ぶでも、恐れるでもない。

もしかして目が悪いのか。

ユーリは皇女様に、じっと見られて居心地が悪そうだ。

ついに「あの...」と聞こえるかどうかという小さな声で問いかけるようにした。


「わたしはアニス、あなたの名前は?」

「お、わたしはユーリです」

「12歳になると騎士団の入団テストを受けることができます、あなたは受ける気持ちがありますか?」

「はい!おれ、わたしは月光騎士団に入団したいです」


なんと皇女様はユーリを前に、微笑んでいる。

俺は自分の目か頭がおかしいのかと考えてしまう。いやいや、俺はおかしくなんてない。

ほら、他の団員たちも目を丸くして固まっているじゃないか。

女の子と話などしたことがないであろうユーリは顔を赤くして横を向いてしまった。

俺からは丸見えだ。思わず俺も顔が綻ぶ。



あぁ、今日は空が青い。こんなに天気が良かったんだな。天気もわからないほど緊張していたのだと初めて気づく。

こんなに清々しい気持ちは久しぶりだ。





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