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ステレオ



わたしは泣いた。

同盟による婚姻が決まって婚約が白紙に戻った時以来だ、こんなに泣けたのは。


ユーリに、わたしから説明をして「もう一度、わたしと婚約してもらえないか」と聞いた。

答えは、もちろんYES。

良かったよぉぉぉ。

これでNOだったら馬鹿みたいじゃん。また来るよ、この世の終わりが。

ほっとして、これで本当にユーリと結婚できるんだ、と思ったらいろんな感情がごっちゃになって泣いてしまった。

ユーリが泣いたわたしにハンカチでなく胸を貸してくれることに、また泣けてくる。

ユーリは、ダイナチェイン王国の国民になるため一度、平民となり、ダイナチェイン王国の近衛騎士として採用され、準男爵となる予定だ。

正式に婚約するのは諸々の手続きが済んだ2週間後くらい。




ジェイクとユーリの間で、どんな話し合いがされたのかわからないがジェイクとの結婚式から1週間はユーリは護衛騎士としての任務に専念するそうだ。

まぁ、要するに新婚ジェイクの邪魔をしない、ということだ。

逆にユーリと結婚したときも1週間はジェイクは遠慮することになっている。

わたしの意見は?と思ったが黙ってた。

変な波風立てたくない。これも複数の夫を持つ妻の処世術だ。

母陛下に性教育の一環として教えられた。

愛人について、夫が複数になったとき、更に夫が増えたとき、順位別の夫の扱い、等々...。

わたしはアイストリア皇国内で複数の夫を持つ、と思われていたから、やる気のないわたしは母陛下に、よく怒られた。

ちゃんと聞きなさい、と。

でも、そのときのわたしはユーリ一択だったからさぁ。仕方なくね?

今のユーリの立場は愛人、てことになるのかな。

愛人の立場は不安定なもので婚約者や夫とは、かなり扱いが異なる。

そうでなくてもユーリを愛人なんて立場にはしたくなかったけど。

けれどジェイクは既にユーリを対等な夫として扱っている。

どうやらジェイクの罪滅ぼしの一環らしい。ユーリが、こそっと教えてくれた。

ジェイクと夕食をとる際にはユーリも同席することになったし、素直に嬉しい。



そして、今。

初めて3人で夕食をとり、食後のお茶をソファでいただく流れにユーリもいる。

それはいい。

それはいいのだが、ソファに3人並んで座っていることに違和感アリ。

ジェイクとユーリに挟まれて、左右から手を取られている。

お茶飲めないんですけど...。

それに、こんな美形に挟まれてると、そわそわしてしまう。

「アニス様、落ち着かなそうですね」

「ユーリは...、なんだか普通ね」

なんでだ。

「こんなふうに妻を夫たちで囲む、というのをやってみたかったんです。まぁ、まだ夫じゃないし2人だけですけど」

「増える予定ないから」

「ないのか?」

と言うのはジェイク。

ねーよ。

「俺は嬉しいです。俺とアニス様の時間、減らしたくないので」

ユーリは、そう言いながら、わたしの耳をなぞる。

「...!?」

「ユーリ。何をした?」

「別に何も」

ユーリは悪戯っぽく笑ってる。

ジェイクは面白くない、という顔をしている。

ユーリは手を持ち上げキスをする。

そして、そのまま目だけをわたしに向ける。

ギャー、ヤバいっ!これ、すっごい破壊力です!これ、すっごいよ!

「アニス...」

ジェイクが囁くように言う。なんか声が近い、と思ったら、わたしの髪を持ってキスしている。

ひー、耐えられないよ!

なんだこれイケメン耐久テストか。何それ、聞いたことないよ。

わたしも初めて言ったわ。

耐久テストっていつまで続くの?だから、ねーよ、そんなもん。

世の妻たち、どーやって耐えてんの!?夫が5人とか6人とかいる人はどうしてるわけ?

なんで、あの人たち平気で夫たちからの触れ合いを受けてたの!?

夜会で見たことある女性たちは満足そうに夫たちを眺めてた。

え、どーゆー心理? それ、どーゆー心理ですか?

逃げよう!

「あの!お、お茶!お茶飲めないし、ちょっと...あの、手を離してもらっ、て、も...?」

ユーリとジェイクは一瞬きょとんとした顔をしていたがユーリが、わたしのカップを持ち上げて「どーぞ」と口元に持ってくる。

いやいやいやいや、そうじゃない。そうじゃないんですよ、ユーリさん。

ジェイクも今日のデザートのゼリーをスプーンですくうと、わたしの口元に持ってくる。

「食べさせてみたかったんだ」

いやいやいやいや、だから、そうじゃねーっつーの。

「アニス様。夫たちで妻に食べさせる、ていうのもやってみたかったんですよね。叶えてくれますか?」

「ず...」

ずるい。

わかってて言ってるわね。

ヨシ。これは慣れよ、慣れ。

イケメンに対する耐性の少なさが問題なのよ。

あむ、とゼリーを口に入れる。

満足げなジェイク。良かったね。

こくっとお茶を飲む。零れそうにはならなかった。

上手いな、ユーリ。これも教育にあったの?(ある。男同士でやってみた経験アリ)

ユーリも何だか満足げな顔。良かったね。

わたしは残りHPが僅かな気配だけど2人が良かったなら本望ってもんさ。

我が転生人生に悔いなし。


ところがジェイクはゼリーをすくって待っている。

待て待て。兄様たちからでも恥ずかしかったのに2人からずっとなんて無理ゲーだって。

「殿下。こんな様子のアニス様は、ずっと見ていたいくらいなんですけど、ちょっと可哀相な気がしてきました。殿下は少し遠慮してください」

え?さすがにちょっと不敬では。

「ユーリが遠慮しろ。明日は挙式だ。遠慮する約束だっただろ」

不敬なとこはスルーでいいの?

「明日から一週間アニス様と過ごせないんですから殿下が遠慮してください」

「それとこれとは別だろう」

なんだコレ。

わたしのためにケンカはやめてぇ、とか言うところか?

絶対言わないから...。

「アニス様。殿下がアニス様の照れてるところを見たいって言ったんですよ」

「あ、お前!自分も照れてるアニスを見たいって言っただろ」

「可愛いですよね、と同調しただけですが」

「...アニス、騙されるなよ。アニスは俺たちにとって幸運なことに目が悪いから2人で迫ればすぐだ、と言ったのはコイツだ」

「さすが殿下。言い方が上手いですね。俺はアニス様は目が悪くていらっしゃるから俺たちが迫るだけで照れると思います、と言っただけです」


「2人が仲が良くなったことだけはわかりました。わたしは朝も早いことですし、もう休ませていただきますね」

わたしは席を立った。

そのままドアまで歩いていく。

そう。これは怒ったフリで逃げちゃおう作戦だ。

「あ...、ごめんなさい、アニス様。送ります。待ってください」

「アニス、悪かった。可愛いアニスを見たかっただけなんだ」

わたしは振り向くとジェイクに近づいて頬にキスをした。

「おやすみなさい」

ユーリにもキスをする。もちろん頬に。

「おやすみなさい」

母陛下の教えの1つ。

夫たち全員と、おやすみのキスをすること。


2人は固まったように動かないが、まぁヨシ。

警護なら傍仕えもいるし、他の騎士もいるから大丈夫だ。

わたしは、2人が再起動する前にそそくさと自室へ戻った。





以下、母陛下の教え。

「その場に夫が複数いる場合、一緒に休む夫以外に等しくおやすみのキスをしなさい。キスをしない夫とは一緒に寝る、というルールにしている妻もいる。だからキスをされない方が喜ばれたりするものだ。それは1人でも2人でもかまわない」

(...え?それって3Pとか4...、ギャー!となったアニスに「アニス?ちゃんと聞いているのか?」と母陛下から注意が入ったことは言うまでもない)

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