有能ってこういうことだね
ジェイクにユーリを第二の夫にする、という、わたしの狙いがバレた以上、うまく味方でいてもらわねばならない。
ジェイクをないがしろにすることはない、ということも理解してもらわないとね。
本当にそんなことするつもりはないし。
そんなことしたらイケメンに酷いことをしてきた人たちと一緒になってしまう。
イケメンにも、なるべく優しい社会にしたい、という子供の頃からの考えもあるんだもの。
この同盟による政略結婚が決まったときにはショックだったし、この世の終わり、とも思ったけれど、この世界は一妻多夫。
ユーリと結ばれる可能性が少しでもあるなら諦めるもんか、と思いなおした。
ユーリが自らついてきてくれる、と言ってくれたけれど、それがなければ、わたしからお願いしようと思っていた。
ついてきて、て。
ついてきてくれたし、ユーリの気持ちは、まだあると思っている。
わたしはユーリを諦めない、と決めた。
けれど、まだ何も決まってないことだしユーリには何も話してない。
傍仕えはダイナチェイン王国にいる2人も、アイストリア皇国にいるエイダンたちも知っている。
結婚が決まった翌日からダイナチェイン王国の法律を調べ始めたからね。
わたしが何を考えているか、すぐバレた。
アイストリア皇国にも結婚に関する法律はあるし女性の国外流出を防ぐための法もある。
ダイナチェイン王国の法律はアイストリア皇国と同じか少し厳しいかな、くらい。
わたしがユーリと結婚するのに問題となるのが外国人は4人目以降、というのが一番。
ユーリがダイナチェイン王国の国民になれば解決するのだがユーリの経歴がネックになってくる。
外国の要職にあった者は除外。
コレだ。
近衛騎士であり、皇族のガードだったユーリは要職になってしまうのだ。
ち。
いや、諦めるもんか。
法の抜け穴ってあるもんよ。
と、思ったがなかった...。なんでだよ。ちゃんとした国だな。
それなら法の改正を行う、いや、行わせるしかない。
王太子の妻、というだけでは、そこまでの権力はない。
アイストリア皇国では皇族の名前での公務と称した事業があった。
皇族の名前を使って悪いことをすれば厳罰に処されるし、皇族、つまり国が責任持ってやりますよ、というアピールにもなるのだ。
だが、ダイナチェイン王国には、そんな決まりも文化もない。
陛下と王太子と議会で全ては決定される。
だから陛下と王太子を懐柔しようと思ったのだが、王太子が、わたしのせいで病みそうな気配が心配だ。
ところが、そんな王太子から第二の夫にユーリを、というのだから、もちろん提案にのった。
それくらいにはジェイクを信頼している。
法律は変える、という。わたしに第二の夫を、という声も利用する、という。
もともと自分なんかの妻になるのだから2番目以降は政に支障をきたさない程度に好きにさせよう、と思っていたらしい。
だから、そこまでじゃないんだけどな。
でも、声を利用する、というのには、わたしも賛成だ。わたしも似たようなことを考えていた。
それにしても、そんな簡単に言うけど大丈夫かよ、と思ったが「この程度の改正なら俺に逆らう者はいない。そう思われているうちにやることをやろうとしている一環だから心配ない」と言う。
やることとは何か、と問えば戦後処理のアレコレや国内の改善が必要と思われるところの改革だそうだ。
それなら、わたしもわたしにできる援護射撃をしようと思う。
実はダイナチェイン王国にシモンたち諜報員が潜...、来ている。
彼らに王太子の良い噂を流してもらおう。
短期間での派手な改革は歪を生みかねないからね。
ついでじゃないけれどジェイクに害のありそうな情報も探してもらおう。
わたしは直接動かず(ていうか動けない)傍仕えやシモンたちを働かせているだけで何もしてないのだが、それでいい、と傍仕えの2人に言われた。
「本来、そういうものなんですよ。アニス様は動きすぎだったんです。こちらに来ているのは望んで来ている者ばかり。今は貯めていたものを使っている、と思ってください」
貯めた?
「今は御自身の人望に胡坐をかいていれば良い、ということです」
...甘えることにしたよ。
実際、まだダイナチェイン王国内にいるだけのアイストリア皇国の皇女であるわたしには、あまり自由はない。
だから本当に胡坐をかいていた、だけだったのだが...、あっという間に法改正はなされた。
え.....、あれから、まだ一週間ですけど...。
すげーな、ジェイク...。
有能って、こういうことか。
そして、それをドヤ顔で報告してきたジェイクが可愛かった。
傍仕えから先に聞いて知っていたことは黙っておいた。
そして驚いたことにアイストリア皇国の諜報員と王太子付きの諜報員が接触していたことも驚きだ。
双方、お互いの動きを見張っていたらしい。
そして、互いに害を成すことはない、とわかってからは情報のやり取りもしていたらしい。
え?ちょっと。聞いてないんですけど。
王太子側に動きを探られているようだ。までは聞いてるよ?
情報のやり取りもすることがあるのは知ってる。
でも、それだけでなく協力していた、と聞いたときは、どーゆーことかと思った。
「すみません、一応、報告は入れたんですが王太子殿下の動きが早くて...後手になってしまいました」
だとさ。
あー、やっぱ、わたし凡人なのよ。
ジェイクみたいな本当に有能な人相手だと、こうなのね。
ここが彼の国で権力を持った王太子、ということを除いても勝てる気がしないわ。
かくして、めでたくユーリをわたしの夫にすることができるようになった。




