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ヤラレタ



久しぶりにジェイクと夕食を共にする。

わたしの誕生晩餐会から一度だけ朝食を一緒にとったがジェイクは、いつも以上に言葉少なだった。

わたしと目を合わせないし、どこか挙動不審。

ジェイクの傍仕えから晩餐会後のことを覚えているとは聞いていた。

あんなふうになっても記憶をなくすことは一度もなかったそうだ。

うーん、気の毒?

いっそのこと記憶がなくなってしまえばいいのに。

いや、自分が何を言ったのか、したのか、覚えてないのも怖いから覚えている方がいいのか?

まぁ、それはともかく、だから気まずいのかと思ったのだが、それだけでもないみたい。

謝られてないしな。

謝ってほしいこともないんだけど。


そんなわけで、しばらく顔を合わせてない。

誕生晩餐会ではリスクを抑えるために、わたしはお酒を飲まなかった。

乾杯のグラスを一口、飲んだだけで下げてもらった。

誕生晩餐会が終わったらジェイクと一緒に夕食をとるときに初めて、ちゃんと飲む、と言っていたのだ。

楽しみにしていたのに、その夕食を一緒に、がなかなか実現されなかった。

やっと飲める。

こんなに楽しみなのは前世のわたしもお酒が好きだったに違いない。


「改めて誕生日、そして成人おめでとう」

「ありがとう」

うん、誕生晩餐会でも美味しいと思ったけど、これ、美味いわ。

薄いピンク色した少しとろりとしたお酒を流し込む。

「アニス」

「はい」

ん?呼んどいてダンマリとは、これ如何に。

しばし待つ。

「誕生晩餐会の日のことだけど...」

「はい」

「その、酔っていたとは言え、すまなかった」

「いいえ?謝っていただくことなんてないですよ?」

「いや、そんなことは...ちょっと.....見苦しいというか、恥ずかしいところを見せてしまった」

「いいえ。許容範囲です。お気になさらず」

「許容範囲...?あれが?」

「はい。妻となるのですもの。わたしになら多少良いのでは?そうでなければ、あなたは、どこで気を抜くのです?誰に対しても気を張っていたのでは疲れてしまうでしょう?」

「そう...か。アニスは本当に他の女性とは違うな。普通は、あま、あー...、頼りなげな様子を見せるような男は嫌われるもののはずだけど」

「ふふ。わたしが変わっているのは、もう御存知ですよね?」

ジェイクは肩の荷がおりたように微笑んだ。

やっぱり気にしてたんだね。



わたしは、お酒が飲める方だったようだ。

少なくとも弱くて飲めない、とか、すぐ赤くなって気分が悪くなる、ということはないことがわかった。

もう少し飲みたいところだったが初めて飲むわけだし、とジェイクに止められた。


いつものように食後のお茶をソファでいただく。

ふわふわして気持ちいい。

お酒って楽しいな。

「楽しそうだな」

「はい。お酒って楽しいですね。少しふわふわした感じがしますけど、それも楽しいです」

「アニスは良い酔い方だな」

「そうですか?」

「明るくなって、よく話す。いつもよりも」

「あ、ごめんないさい。うるさかったですか?」

「いや、全然。明るい、と騒がしいは違うからな」

それならいいけど少し落ち着こう。

ジェイクみたいに恥ずかしいと思うようなこと、したくないしな。

飲んでいたカップを置くとジェイクが人払いをする。

なんだろう?

「アニス。俺との結婚式まで半月程だが、アニスに第二の夫を、という声が大きくなってきている」

知ってる。もともと、そういう声はあったようだけど誕生晩餐会で、大勢の人に顔を知られた。

そして、わたしが流させている、わたしに関する良い噂も概ね真実と受け取られたようだ。

そのせいで、醜い王太子殿下と結婚しなければならない可哀相な皇女に第二、第三の夫を、という声が大きくなってしまった。

これは、いらん効果だった。

可哀相、じゃないし。

それに、まだ確証はないけどダーレンが、その声を大きくさせているようだ。

諦めの悪いヤツ。

でも、これを利用しようと思っている。

「それで?」

「アニスはどうしたい?」

「...別にどうも」

わたしが結婚したいのは今も昔もユーリ一択だっつーの。

「アニスは俺以外の夫はいらない?」

ユーリが欲しい。

「どうせ、こちらの貴族の美形を勧められるのでしょう?いらないわ」

「俺1人でいいのか?」

ユーリが欲しい。

「...そういうことになるわね」

「...今でも結婚したいと思っているか?」

「え?」

「ユーリというアイストリア皇国の近衛騎士と」

まっすぐ見てくるジェイクから目を逸らせない。

こんなハッキリ聞かれるとは思ってなかったが、今は、まだその時ではない。

ユーリと思いが通じ合ったときに思ったのだもの。ユーリを幸せにする、と。

ユーリと結ばれるために着実に進める。障害を取り除くまで、ジェイクには、まだ言えない。

.....のだけれど、嘘をつきたくない。

なによりユーリに関することに嘘は嫌だ。

曖昧にぼかせ。皇女でしょ。わたしならできる。感情を露わにするな。

「悪かった。そんな泣きそうな顔をしないでくれ。そんな顔をさせたかったわけじゃない」

泣きそう?わたしが?

「アニスの正直な気持ちを知りたかったんだ。好きなんだな?ユーリのことを。本当に」

ジェイクから目を逸らす。

落ちつけ。ジェイクを敵にしてはダメ。

何て言うのが正解?

「まだ本当の意味で信頼はされてないんだな。アニスがユーリがいいと言うのなら第二の夫にどうかと思っている」

え...?

「本気?」

「本気だ」

「...ダイナチェイン王国の法律で女の国外流出防止のために外国人の夫は4番目以降とする、ていうのがあるわよね」

「よく知ってるな」

「それなのに第二の?たとえユーリをダイナチェイン王国の国民にするとしてもユーリの経歴から第二の夫はムリよね?」

「よく知ってるな。やっぱりユーリと結婚することを考えていたな」

あ。

「ユーリを第二の夫とするには法律を変える必要がある。けど大丈夫だ。ただし。1つ懸念がある」

懸念とな?

「俺に関心がなくなるのではないかと。もし、そうなったら誰の目にも触れないようにアニスを閉じ込めてしまうかもしれない。俺には、それだけの力がある」

「怖いことを言わないでください。それに怒りますよ?わたしが、そんな女だと?言いましたよね?あなたのことを好ましいと思ってるって」

「...なかなか信じられなくて」

「信頼されていない、なんて言ってましたけどジェイクもわたしを信じてないじゃないですか」

「.....仕方ない」

「どうすれば信じられますか」

「どうすれば、と言われても...」

わたしはソファに膝立ちするとジェイクの顔を両手で包み、そっとキスをした。

我ながら大胆なことをした。

ジェイクは目を丸くしている。

離れようとしたが腰に腕を回され「もう一度」と言われる。

下から見上げるイケメンの色気にやられたのか、もう一度口付けてみる。

ぼーっとしているジェイクが可愛く見えて頬が緩む。

「少しは信じられましたか?」

「アニスが天使、と言われてるのが、よくわかる」

やめてくれ。

「天使は嫌か?」

「そうですね」

「今日のアニスはわかりやすくて助かる」

「わかりやすい?」

「気づいてないのか?感情が顔に出てる。酒を使って相手を持ち上げ、こちらに利のある発言を促したり情報を聞き出したり。常套手段の1つだな。お陰で考えや気持ちを知ることができたしキスまで獲得できた」

ジェイクは、にやりと口角を持ち上げる。

うわ、悪い顔。でも、ちょっとぞくぞくするっていうか...。ドキッとするっていうか...。

「アニス...?もしかして照れてるのか?いや、まさかな」

バレてる。わたしは慌てて顔を逸らす。その顔に悪い表情は似合い過ぎて困る。じゃなくて怖い。

「アニス、耳が...」

バン、と耳を手で隠す。ちょっと痛い...。

「こんな俺にでも照れてくれるんだな。嬉しいよ、アニス」

なんかムカつく。でも横目で見るジェイクは嬉しそうだ。

それを見て、まぁいいか、と思ってしまう程度にはジェイクのことを好きなんだな、と思った。


あ。悪い顔にぞくぞくってフランお義姉さまのこと変態とか言えないわ...。




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