イケメン発見
その後も春光騎士団の見学をしたがフツメンをやっと見つけただけの収穫だった。
イケメン...、どこにいるの。
これじゃ残る月光騎士団も期待できないな...。
と思っていたが月光騎士団の見学予定がなかなか入らない。遠征でも行っているのかと思ったが、それにしてもスケジュールも組まれない、報告もないとかおかしくね?
わたしは家庭教師から出された課題をやりながら、傍仕えのエイダンに聞いたのだが。
「あぁ、月光騎士団は見学の予定はございません。どうせ選べませんから」
「え?どうゆうこと?」
「月光騎士団は見目の悪い者の集まりで近衛にはなれませんし」
「...っ!?」
思わず前のめりになったが、なんとか叫びそうになったのを机の上で、ぐっと堪える。
わたしはブサイク好き(わたし的にはイケメンね!?)ということを誰にも言っていない。というか、お父様と話してバラさない方がいいと判断したのだ。ブサイク好きがブサイクを擁護しても贔屓と捉えられかねない。それでは困るのだ。
そこで、わたしは人を見た目で判断しない公正な皇女、というスタンスでいくことにしたのだ。
わたしは、ペンを置くと、そっと息をついて言った。
「他の騎士団を見学したのに月光騎士団だけ見学しないわけにはいきません。見学のスケジュールを組みなさい。かなり遅れてしまっているから可能なら明日にでも見学に行きます。他の予定が入っているなら、なんとかやり繰りしてでもです。できるわよね?」
「あ、でも...あまり皇女様のお目に入れるようなものではないのですが...」
わたしは目を細めて横目で見る。うだうだ言ってんじゃねぇぇ、と言いたいが皇女の言葉ではないので、目で訴えてみる。
「か、かしこまりました。すぐに予定します」
エイダンが出て行った部屋で、ふぅ、と思わず息をつく。
いる。 きっといる。
イケメンが! わたしの目の癒しが!
でも、このままでは、見ぃつけた♪ で終わってしまう。
なんとかしなきゃ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
エイダンは、ちゃんと仕事してくれた。
本当に翌日に月光騎士団の見学が組まれて、こうして来てみたわけだが。
眼福です。
いたいた、いました、イケメンが。
みんなっ!イケメンここにいたよー!
もうっ!ここにいたのね!うふふ、探しちゃった。
ちょっと変態染みてきたので抑えるが、やっとイケメン見つけました。
今世で初めてのイケメンです。
しかも集合してます。ポチャとかモヤシがいません。
団長さんが団服着用で近くにいます。月光騎士団の黒い団服が最高にお似合いです。
あ、近衛は白、陽光は黄色、春光は赤が団のカラーです。
わりと、どうでも良かったのでスルーしちゃっていました。
他の団と同じように団長が団員を紹介してくれている。
目が落ち着いてきたところで気づいた。もしかして近衛と同じか、それよりスゴくね?
ふと、なんだか小さい男性が出てきた。いや、あれ子供じゃん!
「あの子は?あの子も団員なの?」
「あの子は見習いです。少し事情があって特別に月光騎士団に仮入団しています」
「事情とは?」
「...あの子は、ある子爵家の三男なのですが、あの見た目のせいで酷い扱いを受けていました。それを...保護しているのです」
「そうでしたか」
どんな理由であったとしても子供を虐待など許されない。
「あの、不敬なことだとは承知の上ですが、このことは...」
団長は薄い茶の瞳を揺らめかせながら、わたしを見る。
なるほど。あんな小さな子を騎士団で保護、いつからかはわからないが、あまり大きな声で言えるようなことではないのだろう。
子爵家とやらも承知しているとは思えない。
「あの子は何歳ですか?」
「10歳です」
「騎士団に入団できるのは12歳からでしたね、では、あと2年、彼の保護を頼みます。何かあれば、わたしの名前を出すといいでしょう」
「...承知いたしました」
「では、彼をここへ呼んでください。彼のことを何も知らない、ではいけないでしょう」
団長は逡巡したようだったが、やがて近くにいた団員に彼を呼びに行かせた。
近くに来た少年は本当にイケメンだった。いや、もう美少年よ、美少年。
明るい茶色の髪がふわふわして、柔らかそうだ。瞳は薄い茶色、いや、ピンクにも見える。
汗をかいているのが、なんだか色気がある。10歳っていったよね?
こんな10歳いる!?
鼻筋が通っていて赤い薄い唇、少し日焼けした肌、ぱっちりした目。
少し呆けてしまったが、少年の小さな「あの...」という声に、はっとした。
「わたしはアニス、あなたの名前は?」
わたしを皇女と知っているかわからないが、へんに構えてほしくなくて名前だけを名乗る。
「お、わたしはユーリです」
少し俯きがちに答えてくれる。可愛い。5歳が10歳を可愛い、とかおかしいかもしれないが可愛いのだから仕方ない。
「12歳になると騎士団の入団テストを受けることができます、あなたは受ける気持ちがありますか?」
「はい!おれ、わたしは月光騎士団に入団したいです」
今度は、わたしを前から見て、はっきりした声で答えた。
良かった、これで安心して団長さんたちに任せられる。
嫌々、仕方なしの入団なんてさせられないものね。安心したのと美少年を間近に眺められてにこにこしていたら、ふいっと顔を逸らされた。
でも耳が赤いから照れてるの?わたし、5歳だよ?あぁ、女の子に慣れてないのか。
この見た目だから、この世界ではブサイクなのだろう、それなら、あまり女の子と話をしたことがなくても仕方ないよね。
その日はベッドに入っても興奮して、なかなか寝付けなかった。
ユーリが2年後、騎士になって力をつけて、わたしのガードになったら素敵よね。
そんなことを考えていたら、尚更寝付けない。
結局、翌日は寝不足で教師に欠伸を見咎められて注意を受けたことを補足しておこう。