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兄弟



一体なんなんだ。

今度は挨拶くらいしかしていなかったラルフという弟殿下が距離を縮めてくる。

ブタ殿下はダーレンと言って陛下と愛人セイン・ヌルヴォワとの間の王子。20歳。

今、わたしの前で首をコテンとさせている王子は王太子殿下と同じ陛下とクライヴ様の子供だ。

こっちは17歳。

傍仕えから聞いた話ではブタ殿下と王太子殿下は仲が良くなくラルフ殿下とは良好な仲らしい。

ちなみにブタ殿下は王族なうえに、かなりの美形なので貴族の御令嬢たちの間でダントツな人気なのだとか。ラルフ殿下は可愛い系で、こちらも御令嬢たちからモテている。

うーむ。可愛い系ねぇ。

やっぱり違いがよくわからないけれどラルフ殿下からは嫌な感じは受けない。

多少あざとい感が否めないが、自分の魅力の活かし方を知ってるってヤツなのだろう。わからんけど。

「アニス殿とは年が近いから話も弾むだろうってジェイク兄上が言うから、お茶に誘ってみたんだ」

「ありがとうございます。王太子殿下にも後でお礼を言っておきますね」

「...うーん」

ラルフ殿下は顎に右手の人差し指を当てて、わたしをじっと見る。

それも可愛い仕草なの?

「ダーレン兄上からもアニス殿に会いに行くように言われてるんだよね」

思わず、ぴくっと反応しそうになる。

「それは、どうしてでしょう?」

「ダーレン兄上が言うにはアニス殿は美的感覚が狂わされているから美形をたくさん見せて治したいんだって」

.....余計なお世話だよっ!

「でもね。それも変な話さ。そんなことができるなら、とっくにやってると思うんだ。国中の人間の美的感覚が逆になればジェイク兄上にとって過ごしやすい環境になるんだから。でしょ?」

わたしは頷く。

「だからアニス殿はジェイク兄上に狂わされてなんかいない」

「もちろんです」

「まぁ、あなたが魅力的な方だとわかったときは僕もダーレン兄上みたいにアニス殿の癒しになろうかと思ったんだけど、どうも僕は、あなたの好みではないようだからやめたんだ」

わたしをじっと見て言葉を続ける。

「アニス殿ってブサイクが好きなんでしょ」

わたしは言葉に詰まった。

面と向かって言われたのは初めてだ。

それに当たらずとも遠からず。わたしは本当のイケメンが好きなだけ。

ブサイクが好きなんじゃない。

「やっぱりね」

何と答えるのがいいのか困っていたらラルフ殿下の中では、わたしがブサイク好き、ということになってしまった。

「少し違います。確かに王太子殿下の容姿は好ましいと思っておりますが...」

「いーよいーよ。そういうことにしておいてあげる」

更に言いつのろうと思ったが面倒になって口を噤んだ。

「あなたの目の悪さはどうかと思うけど、僕は嬉しいんだ。やっとジェイク兄上を見てくれる女性が現れた。ジェイク兄上は優しいよ。影と光、とか血も涙もない怪物、とか悪い噂があるけど、たくさんの犠牲を出した罪悪感に眠れない日々を過ごすくらいにはね」

「眠れない?」

「そう。ジェイク兄上の寝室は、いつも綺麗だよ。乱れることは、ほとんどない。忙しいせいもあるけど執務室のカウチで仮眠をとるのが習慣になってしまっている」

なるほど。いつも不機嫌そうな表情なのは、睡眠不足もあるのかも。

それにしても罪悪感か...。

わたしが出会った流民たちのことを思い出す。

彼らもダイナチェイン王国の領土拡大の犠牲者だ。

全てが、そうとは思わないが、引き起こした要因の1つとは言える。

「まだ領土を拡大させるのでしょうか」

「さぁ。今は、そんな素振りを見せないから少しの間は確実にないと思う。でも未来はわからないな。国内は戦争や領土を拡大させたことによる弊害に疲れてしまっているから、もうやめてほしい、と思っているのが多いけどね」

ラルフ殿下は、わたしを見て言った。

「止められるとしたら陛下かアニス殿だと思ってる」

「わたしにできるかしら。国内の情勢にも疎く理由も知らないようなわたしに?」

「できると思うよ。戦争になれば、またジェイク兄上が戦地に行く可能性は大きいもの。でも、そうしたら、あなたから離れないといけない。ジェイク兄上は自分を慕う女性を放って行けるような人じゃないと思うんだよね。多分だけど」

多分かよ。

「僕も、もう領土を広げるのは止めた方がいいと思っているから協力してほしいな」

「わたしにできることなら」

「ありがと」

にこっとするラルフ殿下。言葉の端々にあざとさを感じるが王太子殿下を慕っている様子はわかった。

わたしも流民問題の解決に近づくなら協力は惜しまないつもりだ。

「それならアニス殿には、もっとジェイク兄上と仲良くなってもらわないとね」

「そう...ね?」


ラルフ殿下は、にこにこして去っていった。

去り際の「ちょっと任せてね」という不吉とも取れる言葉を残して。




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