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報告書



アニス皇女殿下は絵姿よりも美少女だった。

銀色の髪も美しく、小さな口も可愛らしく、緑色の眼もキラキラと、その肢体も発育途中と思われるが経過は良好なようだ。

先の楽しみな15歳。

王太子殿下は我が主とは言え、正直勿体なさすぎる。

釣り合うのは身分のみか。


アニス皇女は神童と呼ばれるほど利発で人の容姿に左右されず、女性らしい我儘もなく、美しさや身分に驕ることもなく、兄殿下たちを支え、自らも民にとっての善政をしき、と天使と呼ばれる完璧過ぎる話に、ほとんど疑っていたのだが。

真実は、もっと上をいった。

本当に美しく、優しく、そして明るく笑顔を絶やさない方だった。

殿下より、アニス皇女が気に入るようなら2番目の夫、または愛人としてアニス皇女を支えるように言われ、仕事で夫をやるのか、こんな(イケメン過ぎる)容姿で生まれたのが運の尽きかと思ったものだが、これなら望んで夫になりたい所存だ。

是非、わたしを望んでほしい。

殿下がいいと言っているのだから少しアピールとか口説くようなことをしても構わないのではないだろうか。

そんな邪な思いで後方で城下の民たちに手を振り、笑顔で応える皇女を見上げる。

この婚姻による同盟が公布されたとき、民のショックが物凄かった。

あまりの批判を心配した皇女が出立の際に自分の明るく元気な姿を見せて安心させよう、と言い出した。

それは成功だったと言える。

皇女の明るい笑顔を見て城下の者たちの不満、批判、そういったものが薄まるのがわかる。

時々、わたしの方にもよこされる視線に笑顔で応える。

噂以上の国民からの人気に我が主とは雲泥の差だな、と内心、苦笑する。

ダイナチェイン王国、王太子殿下は恐ろしい風貌をしている。

子供の頃、側近候補として初めてお目にかかったときは不躾に見過ぎて父に怒られたくらいだ。

だが、すぐに努力の人であることがわかる。

わたしも侯爵家の人間として恥ずかしくないよう、努力はしてきた。嫡男である兄にも負けないと思えるほど。

だが、殿下は、そんなわたしでも舌を巻くほどの努力家で、その勤勉さに全ての家庭教師が早い段階で専門的な内容に変えてきたときは勉強では勝てない、と思ったものだ。

だからこそ、殿下が王太子になれるよう尽力し、自分の容姿を活かして交渉事には必ずついていった。

今回、皇女の迎えに、わたしが任されたのもコミュニケーション能力の高さを買われてのことだ。


道中も皇女は文句を1つも言うことなく順調に進んでいった。

だが、国境に差し掛かった時、馬車が止まった。

何事か確認してみれば前方で冒険者らしきものたちと魔物が戦っている。

皇女の赦しを得て何人かの騎士が助けに入り魔物を全て倒すと冒険者が皇女に目通りを願ってきた。

何を失礼なことを、と思ったが皇女は、あっさりと許可した。

冒険者は元流民で皇女の施しに助けられたのだと言う。

流れてくる途中でケガをした父親と流民の集落までたどり着き、皇女の提供する生活用品や食料を頼りに日雇いの仕事で何とか過ごし、成人と同時に冒険者として登録したらしい。

国境付近で魔物の群れの報告があったので警戒していたと言う。

皇女の道中は念入りに調査した結果のことであったが、魔物の群れの報告が今朝のことであったため間に合わなかったようだ。

皇女は「自発的に、わたしの行く先を警戒してくれていたとのこと感謝します。お礼にこれをあげましょう。ケガなどして生活に困るようなことがあれば売って足しにしても良い」と言うと自分の髪に挿していた髪飾りを渡した。

冒険者の男は傍仕えの手から恐る恐る髪飾りを手にすると皇女を感激の目で見上げた。

そりゃそうだろう。

あれは、庶民には手の届かない品だ。

それも皇女本人から髪に挿していたものをもらったのだ。

売るなんて、とんでもない。家宝にしろ、家宝に。


その後も屋外での食事となっても、質のいい宿でなくても、やはり皇女からは文句が1つもなかった。

だが、おかしな、というか、慣れないことが1つ。

皇女は少しも、わたしに靡くような素振りがない。

わたしを一従者として見ているようだ。

傍仕えの2人、そしてガードという皇女を守る騎士の方がよっぽど距離が近い。

わたしとは、まだ二週間という時間しか過ごしていないのだから当然と言えば当然なのだが、皇女の態度が慣れない。

いつもなら、女性は、わたしの傍に寄って来ようとするものだし、手や腕、肩に触れてきてもおかしくないのに。

足や胸、唇を触ってくるような女もいる。

だが、皇女は必要以上には近寄ってこない。何かと口実を作って傍に寄りたいとは思わないのか?



◇◇◇◇◇◇◇◇



「なんだ、これは」

「ふふ。自分に素っ気ない女性に戸惑っているのでしょう。いい気味です」

「いい気味って、お前...」

「まぁ、アルセンのことはいいとしてアニス皇女という女性は素晴らしい方であることが確実となりましたね」

「...そうだな。だが可哀相に。怪物の妻となるのだから」

「殿下...。アニス皇女様は、そのように思われないかもしれないではないですか。このように素晴らし」

「だからだ。だから可哀相だと言うのだ。俺なんかに目をつけられるような人格者だったのが災いしたな」

「.....」




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