表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/55

気配



ユーリとの婚約、相整いました。

フェルナンドもユーリとの婚約は驚いてはいたものの反対はしなかった。

反対しても無駄だしな。

物理的に足、浮いてるんじゃないかと思うくらい軽い足取りで病院へ向かう。

現在、2つ目の病院を建設中だ。

今日は病院での執務、建設中の病院の視察、そして流民たちの集落の視察も行う予定でいる。


「この後の流民たちの集落では、その浮ついた感じを消して、いえ、できるだけ抑えてください。できるだけでいいですから」

流民たちの集落へ行く馬車の中でエイダンにたしなめられた。

あら。そんなに浮かれていたかしらね。

確かに、ユーリと思いが通じてからというもの、わたしは自分でも、ずっと幸せな気持ちでいることを自覚はしている。

あぁ、生きているって素晴らしい。

(いろいろ問題はあるけれど)この世界も素晴らしい。

ユーリ大好き。絶対幸せにするからね。

フェルナンドも蔑ろにしないようにしなきゃ。ユーリのためにもね。




流民たちの集落に近づくにつれ、次第に、わたしの気持ちは落ち着いていった。

報告では流民の数が激増して治安が悪化しつつある。

わたしが行っている食料などの無料配布も、今は、まだ何とかなっているが、このペースで増えると足りなくなってしまう。

わたしはマントを深く被り、今日の配布を行っている場所へ行く。

確かに以前、視察に来たときより人数は確実に増えている。

そこで流民たちから感謝の言葉と共にダイナチェイン王国の王太子の話を聞いた。

所々、わからない言葉が出てくるが、その度にエイダンが教えてくれる。

この世界では言語は共通だが地域ごとに知らない言葉や意味の異なる使い方をするので少し注意が必要だし教育を受けていない人ほど、その傾向が強いので、そういう人と話をするときは通訳を置くこともあるのだ。

これは、さすがエイダン。優秀な傍仕えだ。


流民たちは複数の国の国民たちからなる。

それぞれ、ここでの生活の良さに驚き(他国よりは)自分たちの窮状を訴えるためにも、よく喋る。

「ダイナチェイン王国の領土拡大は王太子の立場を強めるためのものです。大変恐ろしい顔をしているので仕方ないとは思いますがやり過ぎです」

「最初に滅んだ国との戦争時は、こんなことになるとは思ってもいなかった」

「どこまで攻め込むつもりなのか」

「ここまでは来ないと思っていたが雲行きは怪しくなるばかり」

「新天地で腕を活かして食堂を開こうかと思っていたけれど、ここで始めて、また台無しにされたら、もう立ち上がれなくなりそうで始める勇気が出てきません」

「領土を広げたことで王太子になって、そこで満足してくれれば俺も店をたたまずに済んだのに」

「王太子になって調子にのったと聞いたことがある。もっと領土を広げて力をつければ結婚してくれる相手も見つかるとか、家臣の裏切りを防ぐとか」

「家臣の裏切りって既にあったっていう話じゃないか」

「あぁ、俺も聞いたことがある。裏切った中枢貴族の邸まで王太子自身が乗り込んで使用人まで全員を皆殺しにしたらしい」

「影と光だろ」


ここまで黙って聞いていたが、ピタリと会話が止まってしまった。

影と光?光と影ではなく?変なところにひっかかりを感じて聞いてみる。

「影と光というのは何のこと?」

「...影というのが王太子、光は王太子の側近の美形の騎士のことです」

なるほど。王太子が影だから影が先にくるのね。

「王太子は目を逸らすこともできなくなるような恐ろしい風貌と言いますが、光は美しすぎて目を逸らしてしまう容姿と言います」

「表情がない美形は怖い、と光を見たことのある人が言っていたそうですよ。王太子と一緒に顔色1つ変えず子供まで殺したそうです」

「影と光を一緒に見たものは命がない、とかいう噂も聞きますね。剣は常に赤く塗れていて乾く間もないとか」


なんだそれ、怖過ぎる。

流民問題に関わるようになってからダイナチェイン王国について調べてもらっている。

既に陛下は動いているようだし、レスター兄様も、それに関わっているようだ。

わたしには何も教えてもらえないが王太子の噂は知っている。

この世の者とも思えない容姿、逆らう者は皆殺し、剣の腕は人間技とも思えない。

光の方は初めて知ったが、どっちもサイコパスかよ、という印象だ。

しかも影は超絶ブサイク(つまり神の如きイケメン)、光は怖すぎる程の美形つまりヤバイブサイクだと?

怖いから会いたくないけど姿だけは見てみたい。

流民たちの話は真実でないものもあったが、王太子に関しては詳細がわからないため何が真実かわからなかった。

噂は誇張され、真実でないものがついていくものだ。

自分で、よくわかっている。

そろそろ子供とは言えない年齢なので神童とは聞かなくなってきたが天使は未だに聞かれる。こっちも、そろそろやめていただきたい。




城に戻って夕食をとると執務室に行く。

少しでも仕事をこなしておかないと明日以降が辛くなる...。

だが、その前にエイダンからの新しい報告書を受け取って目を通す。

ダイナチェイン王国はアイストリア皇国の隣国にあたるツァオラン国の更に隣の国と交渉に入ったかもしれない、とある。

ツァオラン国は先代皇帝の夫の1人が、この国の公爵家出身だ。

今は先代皇帝と、もう1人の夫と共に離宮で余生を謳歌中だ。

ツァオラン国とは同盟を組んでいるし、ツァオラン国が動くならアイストリア皇国も騎士団の派兵がされるだろう。

陛下は、どうされるおつもりだろうか。

わたしにできることは何もないのかな。

とりあえず、目の前の書類を片付けることから始めよう。わたしは本当は凡人なんだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ