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崖っぷちからの



今日はメノーチェ公爵と、その次男のフェルナンドとの会食がある。

「アニス様、そんなに嫌なら何とか収めてください」

執務室で何度目かの溜息をついてしまったときにエイダンに言われた。

「あら、ごめんなさい?溜息は今のうち、と思ってしまって。皆の気分まで降下させてしまったわね、気を付けるわ」

ち。 ごめんなさい、と言いつつ内心舌打ちをする。

ガードと傍仕えとは毎日、かなり多くの時間を共にするため、いろいろと緩くなりがちだ。

だが、仕方ないと思ってくれないかな。

タヌキが、ものすごくタヌキで収まらないのだ。

フェルナンドと2人だけなら、なんとか収まったと思うのだが要所要所でタヌキが出てきて元の木阿弥状態になってしまう。おのれ。


父陛下と兄様たちは何も言わないが、母陛下が「そろそろ婚約者を...」とプレッシャー?をかけてくるようになったのだ。

母陛下にはお父様たちでは太刀打ちできない。

「はぁ」

あ、また溜息ついちゃった。

何人かの視線を感じたが気づかないフリをした。

さて、そろそろ戦場へ行かないと。

わたしは重くなる腰を上げた。




何故、こんなことに?

「我が国の皇族の女性は本当に見目麗しい方ばかりで、一貴族として誇らしい限りです」

「そうだろう。誇るがいい」

いや、誇るがいい、て。

わたしは誇れませんが。

だが母陛下は、とても機嫌が良さそうである。

機嫌がいい...。

母陛下が。

...なんでいるの。

タヌキとフェルナンドと3人だけのはず。 だったはず。

タヌキめ。母陛下に手を回すとは。

敵ながら、やるな。と言わざるを得ない。

わたしが唯一逆らえない人を連れてくるとは。

一番権力あるのは皇帝陛下だが、お父様は、わたしに激甘なので、ここに連れてきてもタヌキの味方にはならないだろう。

本当に陛下が命令するなら逆らえないが、わたしが本当に嫌なことを命令するとは思えない。

あぁ、崖っぷちである。

こんなことなら、もっと強くユーリに向かっていけば良かった。(既に諦めモードである)


「フェルナンドも誇りに思うだろう?」

「はい。本当に。でも、わたしの目には皇女様が一番美しく見えます」

キタ。

フェルナンドは、とにかく褒めまくる。そこに嘘もなさそうで余計、始末に悪い。

明らかに社交辞令だったり、褒めときゃいいだろう、みたいな思惑が見えたりすれば、ざっくり切れるのだがタヌキの言うように本当に気のいい男性だった。

タヌキの子供とは思えないくらい穏やかな人柄、優しくて、良く気が付くし、仕事も真面目にやっているようだ。

見た目で人を判断するようなところもなく、話していても頭がいいのがわかる。

身分も公爵家の次男で、皇女の夫に相応しいだろう。


普通ならな。

でも、わたしなんだよ、皇女が。

前世の価値観や思想に影響をガンガン受けているわたしなんだよ。

すごくいい人だと思う。タヌキは気に入らないが。

フェルナンドが皇女の夫になればタヌキが影響力を持つことにはなるだろうが、そこは、わたしだ。抑えることが十分可能だ。

「皇女様の周りは輝いて見えます。そこだけ世界が異なるようです。皇女様の執務室が見えるところに行くと、思わず窓を見上げてしまうくらい、いつも皇女様のことが頭から離れません」

おっと、まだ続いてるよ。

これ、止めないと、まだまだ続くんだよ、すごくね?

語彙力半端ないよ、この人。

「ありがとう。でも、それくらいでやめてね。恥ずかしくなってしまうわ」

「そんな奥ゆかしいところも好きなんですが、皇女様の仰る通りにいたします」

ここで、そんなことない、などと謙遜するとマジで褒め殺しに合うことがわかっているので絶対謙遜しないことにしている。


「アニス。ここまで好いてくれているのだ。いい加減、何らかの形で返すべきであろう」

「...形、ですか」

「そうだ、何を言いたいか聡明な皇女ならわかるな?」

わかりますとも!崖っぷちだということが。

でも、わからないことにしたい。

四面楚歌。背水の陣。孤立無援。万事休す。今まさに敗北必至。

「...では、陛下にお伺いして形とやらを」

「陛下に聞くまでもない。わたしがいるであろう」

ひー、猶予もないのかよっ!

タヌキもフェルナンドも、じっと見守りの姿勢だ。

「...わたしと婚約することは彼のためにはならないかと」

「貴族の娘は多かれ少なかれ親の決めた相手が1人や2人、いるものだ。メノーチェ公爵の息女はどうだったか」

「1人目の夫は、わたしが薦めた男です」

「だそうだ」

う。母陛下の視線が痛い。

これは、ほぼ母陛下からの命令に近い。

ハッキリ命令として下されないうちに決めろ、ということだ。

「.....では、そのように」

「はっきり言いなさい。そのように、とは?」

「メノーチェ公爵、フェルナンドさん。陛下とお話して、こちらから正式な連絡を文書にて差し上げます。 ...よしなに」


...やっちまった。

母陛下が同席している段階で結末はわかっていたようなものだったが、どうにも逃げられなかった。

フェルナンドは悪くない。

好きなら頑張って振り向いてもらおうとするのは当然のことだ。

わたしも好感を持っている。これは不幸中の幸い、と言うのだろうか。

だが!タヌキはダメだ。

こいつは一生恨んでやる。わたしの八つ当たりを一生受けろ。

タヌキは喜色満面。フェルナンドは感極まったという感じだ。目がキラキラして唇がフルフルしている。

それを見て、ふっと肩の力が抜けたというか。

ま、いっか。という気持ちになった。

皇女に生まれた、いや、こんな男女比のおかしい世界に生まれてしまった以上、好きになった人とだけ結婚するなんて土台無理な話だったのだ。

そう思うと、かなり強引ではあったが背中を押してくれた(突き落としてくれた)母陛下に感謝しても良い気もしてくる。


でも。

今日のガード、ユーリじゃなくて良かった。

わたしは、チラッとドア近くにいるクリスを見た。

クリスは残念そうな、可哀相な子を見るような、へんな顔をしていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] ありえなーい! タヌキ、何かやらかして流れていってくれないかなぁ_| ̄|○
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