目出度い、からの敗北
レスター兄様に、なんと赤ちゃんが生まれました!
フランお義姉さまと衝撃の出会いがあった後、目出度く結婚。
レスター兄様も幸せそうで、わたしも嬉しい。
始めは、新婚なのに固い2人だな、という雰囲気だったけれど2、3か月もする頃には兄様の方がベタ惚れな感じになってきた。
そして、貴族と相対して何か悪いこと考えてるな、というとき、隣を見るとゾクゾクしているのであろうフランお義姉さまがいる。
それを見てにやにやするわたし。
この瞬間、何気に楽しい。
だから社交界デビューしていないので夜会などで壇上から降りることはできないが、そんな2人を見るのが密かに楽しみで夜会や舞踏会に出るのが苦痛でなくなってきた。
...そうなの。あーゆーの苦痛だったの。
だって壇上で微笑んでいるだけって疲れる。
だからってデビューしたくないけどね。ユーリ篭絡作戦成功してないし...。
あぁ、棚上げしてる問題、思い出しちゃった。
気を取り直して、レスター兄様の赤ちゃんを見に行こう!
やっと見に来て良いっていう許可が出たんだもの。
楽しみにしてたのよねー♪
あー、日本人顔にかなり近い。気がする。
なのに銀髪だ。
仲間よ...、仲間ができた。男の子だけど。
銀髪に紫の眼。素晴らしいコンビネーション。
でも合わないよね、この顔に。申し訳ないけど合わないよね。
しかし、ここで言うべき言葉はコレかな。
「まぁ、なんて可愛らしい。将来、どんな素敵な男の子になるか楽しみですね」
わたしの本音とは違うことを言っているが世間一般的には事実だ。
フランお義姉さまの傍仕えも、そうでしょうそうでしょう、と言いたげだ。
わたしとしては、やや残念だが、きっとこの顔でいいのだ。
その方が生きやすいはず。
そして、この子が生まれたことで、わたしの継承順位も1つ下がった。
第一位皇位継承順位が皇太子であるレスター兄様、二位が生まれた皇子アラン様、以下、ライム兄様、ジルリアン兄様と続いて、五位がわたし。
アランが生まれたことでレスター兄様の地位も、より強固なものとなった。
目出度い。
絨毯の上に座り、アランを抱っこさせてもらえることになった。
ちょっと怖い。
うわ、ちっちゃい!かっる!軽過ぎね?
赤ちゃんて、こんなんだっけ?
あ!そっか!
前世と赤ちゃんの大きさが違うんだ。
今は小さく産んで大きく育てる女神様のパワーが働いてるんだ。
知っていただけの知識が、わかった!の瞬間を感じた。
こーゆーことね!
何か凄いびっくりしちゃった。
ん?
フランお義姉さまがソファに座って、ふるふるしている。
あー、そうだった。
この人、美少女も好きなんだった。
何か言っているようだが遠くて聞こえないのは僥倖だ。
見なかったことにしよう。
面会許可は出たが、アランにもフランお義姉さまにも負担はかけられないため、あまり長居もできない。
赤ちゃんが珍しくて名残惜しいが退出することにした。
この後は執務室に戻って書類仕事の再開だが、まだ時間がある。
早く戻って仕事する気にもならず、庭園に立ち寄る。
ここは小さな庭園なのだが、だからこそ落ち着くので気に入っている。
小さな庭園に小さな噴水。
ベンチに座って、ぼーっとする。ポカポカしていて昼寝したくなる。できないけど。
アイストリア皇国は暖かい国だ。
寒くなっても雪が降ることはない。と言って夏も暑すぎるということもないので、とても気に入っている。
まぁ暑くても水属性持ちのわたしは自分を冷却できちゃうけどね。
ついでに言うと火属性も持つわたしは寒い季節になっても問題ない。
なんて素晴らしい。
もう少し、ぼーっとしていたかったのに2人の貴族男性が近づいてきた。
宮城に来る貴族たちは、わたしに会えるチャンスを逃すまい、とでも言うかのように、わたしを見つけると、どんなに遠くても話しかけてこようとする。
ご苦労なことだ。
「皇女様。御挨拶申し上げますことをお許しください」
「ごきげんよう、メノーチェ公爵。先月のお茶会以来かしら」
「はい。大変有意義なお茶会でした。妻も喜んでおりまして、またお呼びいただけるなら妻共々喜んで馳せ参じます」
「ありがとう」
「息子を御紹介いたします。わたしの次男です」
一歩ひいていた男性が公爵の隣に立つ。
「皇女様に御挨拶申し上げます。次男のフェルナンドと申します。城で文官として採用されましたので父と挨拶に参りました」
「そう。国と民のために頑張ってくれると期待します」
「は。期待を裏切ることのないよう精一杯努めます」
その後も、天気がいいだの、陽の光に当たった髪が綺麗だの、お茶会で聞いた話だの、どうでもいいことを話す公爵。
身分のある人なだけに雑に扱うこともできず、微笑んで頷いていたが疲れてきた。
「皇太子殿下に皇子様が誕生されたこと、誠におめでとうございます」
「ありがとう。実は先程、会ってきたところなのです。とても可愛らしかったわ」
「そうですか。無事に御誕生されて皇太子殿下もお喜びのことでしょう。わたしも初めて子供が生まれたときは、とても嬉しかったことをよく覚えております。」
「公爵には御子息が2人と御令嬢が1人だったかしら」
「はい。娘は15歳になりまして先日、2人目の婚約がまとまりました」
「それは、おめでとう」
ちょっとマズい気配。
「ありがとうございます。娘は他にもお話をいただいておりますし、長男は既に結婚しておりますので、あとはフェルナンドだけです」
「...公爵の御子息だし、お仕事を頑張っていれば、きっと良いお話のあることでしょう」
「そうであってほしいところですが、どうでしょうな。親の欲目でしょうがフェルナンドは学業も優秀な成績でしたし、よく気の利く優しい男に育ってくれました。皇女様の目には如何様に映っておりましょうか」
なんとも答えにくい言い方をしやがる。
いい男だよ、と言っているのを否定するなんて公爵相手に悪手過ぎる。
初めて会うからわからんと言えば、じゃぁ何度か会ってみて、となりかねない。
そうですね、素敵ですと言えば、じゃぁ相手にどう?となるだろう。
あ!そうだ。
「マイアー伯爵家の御令嬢が相手を探していると聞いたわ。良かったら紹介しましょうか」
ふふ。これならどうだ。
「マイアー伯爵家の御令嬢は現在、御婚約に向けてお話が進んでいるようです」
げ。失敗。情報早いな。
公爵は、最初からずっと笑顔だ。笑顔が怖くなってきたよ。
「下手に公爵家の男子という身分の高さだと伯爵家の御令嬢の一番目の夫なら何の問題もありませんが2番目の夫となると問題が...。しかもマイアー伯爵家の御令嬢の相手というのが同じ爵位のものなのです。フェルナンドが2番目の夫となると最初の夫となるものも気の毒なのですよ。御存知でしょう?夫間の争いごとにならないとも言えないのです」
それは知ってる。
婚約中なら夫となる順番の入れ替えがあったり、既に結婚していたら1番目の夫と2番目の夫との色々な差が問題になってくる。
貴族特有のものと思われるが平民同士でも意外とあるのだ。
「そうなると、より身分の高い女性の方が何の問題もなく済むのです」
どの夫よりも妻の方が身分が高い場合は夫の身分や順番は問題にならなくなってくる。
妻と夫たちで取り決めもするため絶対ではないが、問題が発生した場合、順番が先の者の意見を優先する暗黙の了解がある。
だが妻の身分が高ければ妻が一番になれるのだ。
取り決めにもよるが...。
って、公爵より上って大公と皇族しかいねーじゃん!
現在、アイストリア皇国には大公の身分の者はいない。
つまり皇族。
皇族で結婚できる女性って、わたしだけじゃん!
フランお義姉さまも母陛下も皇族の女性だけど、その2人を勧めるわけにもいかない。
釣書で良い反応ないから強硬手段に出てきやがったな。
ちょっと!逃げ道っ!逃げ道どこですかー...。
「まぁ、困ったわね。わたしは彼を良く知らないし、陛下に」
「それなら是非、お話をする機会をいただけませんか?わたしが言うのも何ですがフェルナンドは本当に気のいい男なのです。憐れと思ってお話だけでも」
...にゃろう。かぶせてきやがったな。
それに憐れだと?思うか、馬鹿たれ。
公爵家の子供なら男だろうと結婚相手がいなくて...などと困るなんて、まずない。
とは言え、ちょっとお茶して話すくらいなら、まぁいっか。
メノーチェ公爵を敵にしたくない。
それに貴族社会に慣れたタヌキな親父よりは楽だろう。
「陛下にお伺いしてからにしようとは思いますが、是非お話する機会を設けましょう」
“是非”を強めに言っておいた。
お前の策にのったわけじゃないからな。
これは、わたしの意思だ。ちくしょう。




