作戦Ⅱ
ユーリ篭絡のための作戦が失敗に終わったアニス、11歳です。
今、わたしは次なる作戦を決行中なのだ。
今日のガードは、もちろんユーリ。今日も朝から大変麗しい。
城の庭に、主にわたしのためなのだが木々で迷路が作られている。
これは誰かが命じた、とか、ましてやわたしがねだったものではなく、庭師たちが自らデザインしたものだ。更に手入れと称して道が変えられる。
庭師にまで愛されている皇女...。
なんかちょっと重いっつーか、妙な責任というか、プレッシャーを感じてしまう。
どうぞ!とばかりに用意されたものを無視するのも忍びない。
城に連れてこられた子供たちも遊べるので、わたしが遊ばなかったからと言って無駄になるわけではないのだが。
それに、まぁ、実はちょっと楽しいのもある。
また道が変わったようなので家庭教師による授業と執務の間に遊びに来た、というわけだ。
作戦は単純だ。エイダンたちにはゴールとなる出口で待ってもらっている。
わたしはガードのユーリとゴールを目指す。(ガードはわたしを視野から外せないしね)
ユーリの目線だと少し先なら行き止まりとか見えてしまうのだが関係ない。
迷路の中でイチャつこうなんて考えてはいない。前回の馬上で口説く、などという無知からくる無謀作戦で自分のスキルのなさを思い知った。
いや、あわよくば、なんてことも考えていない。
ただ、手を繋いで歩いたり、ユーリの好みを探れれば、今回の作戦は成功としたい。
これくらいなら、わたしでもできるだろう。
「じゃ、行きましょうか、ユーリ」
「はい」
ユーリの目が優しくわたしを見ている。
最近は、すっかりピンクの色合いが強くなったユーリの瞳。
ユーリの母君譲りと聞いてから、尚更好きになった。母君は、きっとユーリのことを他の子供たちと同様に大切に思ってくれていただろうから。
中に入るとユーリの手を掴む。
少し前のレスター兄様のようにあわあわしているユーリを見て和む。
照れられると、こちらは案外照れなくて済む。
「手、繋いで行こ?」
「...はい」
行き止まりにぶつかっては戻る、を繰り返しながら進む。今日は暖かいせいもあって、すぐに繋いでいる手が汗ばんできた。
持っていたハンカチでユーリの手を拭く。
「アニス様。わたしもハンカチならありますから御自分の手を拭いてください。ハンカチが汚れます」
だが離さない。
「ハンカチは汚れるものよ」
自分の手もさっと拭くと再度、ユーリの手と繋ぐ。
「今度は手を少し冷やすわね?」
そう、わたしは水属性持ちなので手を冷やして汗ばむことのないようにできるのだ。
ユーリとの手繋ぎイベントに知らず知らずのうちに興奮していたらしい。
すっかり忘れていた。
「アニス様は水属性持ちでしたね」
「うん、ちょっと便利でしょ?」
だから妻にどうかしら?
「はい、いいですね。わたしは光属性なので、あまり便利なことはありません」
はい、いいですね、だと?いや、落ち着け、わたしの心の声が聞こえるわけない。
「...アニス様?」
「あぁ...、なんでもない。いや、ちょっと聞いていいかしら?」
「なんでしょう」
「ユーリは魔力持ちと結婚したいとかある?」
「え!?結婚!?俺がですか?え?俺?いや、わたしが、ですか?」
ユーリ、テンパりすぎ。可愛い。
「あー...、わたしは、こんな見た目ですから最初から考えておりません」
えー!?考えてっ!ここに立候補してる人がいますよっ!
ちょっと!これはマズいわ!どーする!?
意識させよう、とか遠回り過ぎない?何年計画よっ!
「そんなことないわ。ユーリは素敵よ?自己評価が低過ぎるわ」
「いえ、いいんです。期待してダメだったときが怖いんですよ。臆病なんです」
やっぱり見た目で理不尽な思いをしたことは、そんな簡単に消えないのね。
それなら...
「じゃぁ、こうしましょう?わたしがユーリの妻に立候補するわ」
「...!?」
言った!でも重くならないようにしなきゃ。皇女からのプロポーズなんて、それだけで重いもの。
「て言っても成人してないから結婚は先になるけれど。気が向いたら、わたしなんて妻にどうかしらね?あ、もちろん嫌ならいいの。まぁ、嫌とか言われると、さすがにわたしも傷つくけど...。でも、だから努力するわ。ユーリに結婚してもいいって思ってもらえるように。だから、前向きに考えてみてもらえない?少なくとも結婚をしない、とか決めつけないで考えてみるところから始めてみて?ね、ユーリ?」
重くならないようにしなければ、という思いと言っちゃった焦りから早口にバーッと言ってしまったがユーリの反応がない。
「ユーリ?」
反応がない。が、屍ではないはずだ。
「ユーリ?」
繋いだままの手を軽く引っ張ってみる。
そのまま歩いてみる。
ユーリは、とことこついてくる。
「ユーリ?」
「...」
アカン。思考停止しているようだ。
護衛は大丈夫か?
だが、ユーリが手を離して後ろを警戒するようにする。
どうしたのかと思っていると曲がり角から1人の男の子が現れた。
「あ、皇女様」
うむ、なんとか見覚えのある顔だった。基本能面の目が二重でパッチリしている、確か侯爵家の三男だったか四男だったか。
名前は
「アントンさん?」
「はい、皇女様。わたしのことを覚えていてくださったとは光栄です」
そんなに嬉しかったのか。すごいにこにこして礼をする。
「あの、よろしければ御一緒することを許していただけますか?」
「.....」
嫌とは言えないよねー...。
「ええ。同行を許します。一緒に行きましょう」
ち。ユーリが思考停止していることだし、まぁこの子は仕方ないとして今回の作戦も失敗ね。
収穫はユーリと手を繋いで歩いたことと、ユーリが結婚を考えていなかった、ということを知れただけ。
いや、どさくさに紛れてプロポーズもどきをしてしまったが。
それで思考停止したのなら、その後のわたしがわたわたしていたのはなかった、てことになるからいいか。
いや、いいのか?ちっとも進んでない気がするが。
でも、わたしとは結婚できません、とか拒否されるのも嫌だし、わたしはどう?なんて言葉に反応が返ってこなくて、ほっとしたような残念なような...。
だが、これも失敗。
どうすりゃいいのよぅ。
後日、アントンくんが、わたしの婚約者候補のトップに躍り出たことは必然と言えよう...。




