表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/55

流民



流民問題。


こちらの世界では他国から主に戦火を逃れてきた人たちのことを流民というのだけれど、どの国もほぼ放置に近い。酷い所では追い出したり、強制労働させたりするようだ。

エイダンたちに調べてもらって、わたしも視察に行ったけれど、これは難問だわ。

前世の世界でも難民問題は解決されていないことだったしな。

そもそも難民キャンプとかだって国を問わない支援がなければ成り立たないものだったはず。詳細はわからないけれど難民受け入れをする国、受け入れる範囲、など決められてあったはず。

これはアイストリア皇国だけの問題ではないし各国を巻き込んだ広いルール作りが必要になってくる。

一国の皇女が1人でできる範囲を超えている。


こんなときはレスター兄様に相談だ。


と、いつもならなるところだが、今回はレスター兄様に相談、の範囲も超えていると思う。

と、いうわけで陛下に相談だ。

一応、兄様に相談するときのように、わたしなりの素案をまとめて持っていく。




はい撃沈。




父陛下の応接室で素案を見せて話をしたのだが概ね却下であった。

理由は長期に渡るものであり、いつまで、と確約できない事柄である。

自国の民でない。

自国民でない者に税金投入、しかも見返りがないものにする理解を得られない。

他国では放置、働き口の斡旋(斡旋と言いながら実態は強制労働)、国外へ追放がほとんど。

わたしが提案したことは国の予算を割り振るには規模が大きい。

などなど...

まぁね。どうせ削られるのだからと、やりたいことを詰め込んだことは認めよう。

大変なことを頼んだ後に本当の要望を出す、すると、それくらいならさっきよりマシ、と感じてOKを出しやすくなる、という心理を狙ったものだが、そもそも流民に手を差し伸べる、という、この世界では国としては一般的でないことをやろうとしているのでハードルが高過ぎたよ。


「アニス。お前が優しいことは好ましいことだ。だが、これはいけない。資金を我が国と全く関係ないこと、何も利益を生まないことに使うことはできない」

だが食い下がる。

これは人として放置していて良い問題ではないのだ。

「陛下。考え方を変えてみてください。そうなってはいけないことですが将来、我が国が戦争で負けて大量の国民が流民となって他国を彷徨うことになったとします。どう思いますか?」

「そのようなことにならないようにするのが、わたしの仕事であり使命だ」

「そうですね、陛下は大変な重責を背負っておられることは承知しています。ですから、わたしたちも陛下の助けになれればと公務の一端を担っているつもりです。ですが先のことはわかりません。わたしが今から何年後に寿命を終えるかなどわからないでしょう?もしかしたら明日死ぬかもしれません」

「何ということを言う!やめてくれ」

そう言うとお父様はわたしの座るソファへ来ると、わたしを抱えて座り、頭に頬をスリスリし始めた。

うむ、話しにくい。

「未来、何が起きるかなどわからないと言いたいだけです。わたしも、まだ死ぬつもりなんてないですよ?陛下も、まだまだ元気でいてくださいね?」

「もちろん、そうしよう」

「それにですね、陛下?」

「うん?」

「とりあえず話しにくいのでスリスリは止めていただいても?」

お父様は、いかにも渋々といった感じだったがやめてくれた。

話を続ける。

「それにですね、流民の中から冒険者になり国に利益を生む存在となるパターンも確認されております。我が国は魔石の産出国として、まぁまぁ有名ですよね?それは騎士や傭兵たちと冒険者のお陰です。冒険者を育てることは我が国にとって利益を生むことになるでしょう?時間のかかることかもしれませんが支援する価値はあるかと。他にも他国の知識や文化を広められる人材があれば、それを支援するのも良いと思います。要するに投資です。投資と考えることはできませんか?」


この世界に魔物がいる話は1度だけ言ったが、魔物は死ぬと体内で魔石が光り始める。魔石を持つ魔物は少ないが、それゆえに魔石は高く売れる。

冒険者の一番の収入源がこれだ。

魔石には何の力もないが、この世界では前世で言う宝石と言われるものが鉱物に混じって出てくる、なんてことはない。

つまり、この世界で宝飾品に使われるキラキラした石は全て魔石なのだ。

我が国では、どういうわけか解明されていないが魔石を多く持つ魔物が多い。

そのためアイストリア皇国は魔石産出国として有名で豊かな国なのだ。

「んー、まぁアニスがそこまで言うなら国として何ができるか考えてみよう」

お、軽いな、陛下。ホントに賢帝って言われてるのか?

「ありがとうございます、陛下」

どうなるかわからないので、お礼を言うのは早い気もするが、ここは言っておくとこだよな。

またスリスリが始まってお父様の傍仕えの人ににこにこと眺められることになったが少しだけ我慢だ。

機嫌を損ねられても困る。

それにしても、もう11歳なんだけど、いつまで続くんだろう、これ。



結果報告~。



お父様は、いや、陛下は投資話にノッたようだ。

能力ある者は望めば国で保護、支援することになった。

そして、冒険者を生業とする場合、アイストリア皇国内で得た魔石を他国で売買できないことが条件付けられた。

違反した場合には罰金まである。

他にも冒険者に限らず支援を受ける場合は5年間はアイストリア皇国内で仕事をしなければならない、冒険者以外の職で一定額以上の利益が出た場合は帰化しなければ超過分に多額の税負担がある、など...。


...エグいな、お父様。

それでも他国での対応に比べれば雲泥の差だ。

わたしは、国からの支援を受けられない人たちに食事や衣類、毛布などの無償提供をすることにした。

これは、わたしの私財からの提供なので限度があるが、やれる範囲内でやりたいと思う。

幸い、病院建設の際の支出、私設孤児院『アイスター学院』建設時の支出は一時的なものだし、アイスター学院に掛かる費用は双子の兄様のお陰で1/3で済んでいる。

国から皇女としてもらえる予算も、毎年余っていて、その余剰分は病院、アイスター学院を中心に寄付している。

これからは、それを流民に使えば良い。

...こういうのって国の評価も上がる、と思うのだけれど、それは前世的思考なんだろうな。

他者にしたことは自身に帰る、て言うじゃん?

この世界では言わないんだろうか。確かに聞いたことないけど...。

わたしの頭と力では、これが限界かなー。


でも、このことが後で本当に自身を救うことになるとは、わたしも想像できなかったよ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ