作戦される側、またの名を side ユーリ
ヤバい。
アニス様を乗せる?俺の馬に?
それってアニス様と...。
えー、マジか。なんで俺?
こーゆーことするから俺なんかが勘違いしそうになるんだって。
何回目だよ。
ん?何回目かわからないくらいということは本当にアニス様に好意を持たれて...ないな、うん。ないない。さすがにないわ。
信頼している、とか、保護したからには責任を全うしなきゃ、とか、きっとそういうことだ。
あとは年が近いから親近感持ってくれているのかも。
馬に乗せてもらって遠乗りに行きたいということで、なぜか俺が指名されたが、信頼を裏切らないように絶対お守りしないと。
当日は良く晴れた天気だった。
アニス様は髪を右側に緩く編んでいてズボンをお召しだ。
新鮮で可愛らしくて今日も天使だ。
陽に照らされ銀髪がキラキラしている。ついでに緑色の目もキラキラしている。
今日が楽しみで仕方ない、という様子だ。
見ていると、こちらも顔が緩む。
他の騎士や傍仕えの人たちも、みんな笑顔だ。
...はぁ。深呼吸だ。
だが息を吸うとアニス様からいい匂いがしてヤバい。
深呼吸はいけない。
いや、深呼吸なんてしなくても、さっきからいい匂いがする。息を止めるか、いや死ぬな。
当然なのだがアニス様を後ろから抱きしめるような体勢もマズい。
アニス様は馬に乗った時の高さにびっくりしていた。可愛い。
馬の揺れにも驚いている。可愛い。
最初のうちは初めての乗馬に緊張していたようだが、ふと俺を見上げると小さな声で「うわぁ」と言うと、さっと前を向いてしまった。
さぁっと血の気が引く思いがする。久しぶりな感覚だ。
近すぎる距離で俺を見て、さすがのアニス様も気持ち悪い、とか怖い、とか思われたのだろうか...。
「...どうされましたか?気分が悪くなりましたか?他の人に変わった方が...」
と意に反したことを聞いてみる。
アニス様に指名されたのをいいことに「俺がアニス様をのせようか?」というガイを断ったことを少し後悔する。
「え!ダメ!やだやだ、ユーリがいいの!このままでお願い!」
え!?聞き間違い?いや、アニス様の焦ったような言葉は少し大きくて並走していたガイにも聞こえたのだろう、驚いた顔をしている。聞き間違いではないようだ。
俺を指名したのは本気で俺がいいってことなんだ!?
やだやだ、だって。ガイはヤダってさ。
にやにやしそうになる顔を必死で堪える。
アニス様が俺を見る。位置的に見上げるような形になるのもいけない。
にやにやは何とか抑えられても、きっと赤くなっているのは抑えられていないだろう。
アニス様は一瞬、目を見開くと今度は小さい声で聞いてきた。
「わたしを乗せるの負担?大変?誰かと替わりたい?」
「いえ。鍛えてますし訓練もしています。大丈夫です」
俺も小さめの声で答える。
誰かってガードは他にガイしかいない。替わりたくない。
さっきの「うわぁ」は気になるが気にしないことにする。
だって、俺が答えた直後のアニス様、頬を赤くすると「じゃ、このまま目的地までお願いね?」と言ったかと思うと前を向く。
でも髪を右に結っているから赤い耳が見える。
照れてる?いやー、俺相手に照れる人なんて見たことないけど。
でも、客観的に見ると、これ照れてるよな?アニス様の顔を見たいけど今はムリだ。
目的地である丘に着くとアニス様を下ろす。
足をついた瞬間、カクッと膝をつきそうになるのを腕を支えて助ける。
「ありがと」と恥ずかしそうにしているアニス様。可愛い。
既にランチをとるための準備が始まっていた。
アニス様が、こんな見晴らしの良い場所なのだから俺とガイも一緒に食事をしよう、と仰るので今日はお言葉に甘えることにした。
傍仕えの人たちも一緒に食事をすることにしたようだ。
こんなことはアニス様以外では有り得ない。ガードは警護対象が食事をしているときは隙が生まれるため決して食事をとることはない。
傍仕えの人たちも主人と同じテーブルにつくなんて聞いたことがない。
こんなアニス様だから、いつも暖かくて穏やかな空気に包まれているんだろうな。
食事の後はアニス様の散策についていく。
アニス様が下の方を指さして言った。
「エイダン、眼下に見えるアレは何?」
「あぁ、あれは他国から流れてきた人たちの集落です」
「他国から流れてきた、というのは?」
「3年くらい前から近隣国を併合、または属国にして領土を広げているダイナチェイン王国のせいです。そのために戦争に発展した国もありますし内戦が起こっている国もあります。そんなところから逃れてきた人が、我が国にもいるんです。ここは遠方のため他の国に比べたら少ないですが」
ダイナチェイン王国の領土拡大については騎士たちの間でも話題にのぼったことがあるので俺も知っていた。
近衛騎士はあまり関係ないが、同盟国が争いに巻き込まれるようなら騎士団も派兵されるかもしれないためだ。
「国からの支援はあるの?」
「ありません。神殿からの支援のみです。国民の税金を他国のものに使うのは反発があるでしょうからね。致し方ありません」
それを聞くとアニス様は考え込んでしまわれた。
優しいアニス様のことだ。きっと流民のことを何とかしたいと思っているのだろう。
エイダンもヤレヤレといった感じだ。空を見上げてしまった。
帰る際、アニス様のことは、また俺が乗せることになったのだが出発時、花びらがついていた、と髪についていた花びらを取ってくれた。
考えないようにしていたのに、そのせいでアニス様との距離を意識させられてしまう。
一応、お礼を言って微笑んでおいたつもりだが上手くできた自信がない。
アニス様も微笑んでくれたから、きっと上手くできたと思いたいけど、花びらをつまんで微笑むアニス様。
マジ天使。こんな近い距離で、それはヤバい。




