婚約者候補とな?
レスター兄様の婚約者が決定した辺りから、わたしの周りが、ややうるさい。
実はライム兄様とジルリアン兄様も既に婚約者がいる。
婚約者がいないのは、わたしだけ。
しかも兄様たちと違って、わたしは複数の相手を選べる。むしろ薦められてる。
今日も執務室のデスクの隅に釣書が積まれている。
5歳熱を回復してから釣書が送られてくることはあったけど最近、量が増えてね?
椅子に座って書類確認をするが非常に目障りだ。
「ねぇ、誰かコレ片付けて」
エイダンが釣書をソファの前のローテーブルに置く。
それは片付けたって言わねーよ。
わたしの視線を受けてエイダンが言う。
「3人くらい婚約者がいらっしゃれば、かなり減ると思います」
だからどーした。
わたしが現時点で夫にしたいNo1はユーリだ。ぶっっっちぎりの1位だ。
そして2位はない。
イケメンを愛でたいのと恋愛感情は別らしい。
格好いい、とは思っても、そこから好きー、になかなか繋がらない。年が近いのも、あまりいないしな。
こちらのイケメンはモテたことがないからなのか、やや残念だ。
クリスも悪い男ふうなのだが、決して悪い男なんかではない。
アイリに話しかけられてキョドっていた。ギャップがいい、とは残念ながらならなかった。
2番手に強いてあげるならエドワルド団長だろうか。
イケオジだ。そして、彼はやることが格好いい。男だ。懐のでかい大人な男だ。
しかし、年が離れすぎていてロリ認定されかねない。
ちなみにエドワルド団長は現在37歳。
うん、エドワルド団長に変な噂はたてたくない。
やっぱユーリしかいないんだよ。
そんなユーリは子爵家子息から男爵の弟になった。
ドールスタン男爵は父親のこともあって政治からは、とても遠い存在になっている。(元々近くもなかったが)
だからユーリを皇女の夫とするのに障害にはならない。貴族のパワーバランスに影響しないためだ。
障害になりそうなことはユーリの容姿くらいだろうか。
ただ、最大の問題というか、もしかしたら難関とも言えるのがユーリの気持ちだ。
嫌われてはいない自信しかない。
そこに恋愛の色はないだろう。敬愛、とか言うかもしれないが、そうじゃない、そうじゃないんだ。
わたしに言い寄ってくるのは容姿に自信のある者ばかり。そして高位貴族が多い。
要するに、ぱっと見でそそられ、じゃないね、好意を持てる人がいない。
年下の男の子もいて、それは可愛いなー、とは思うのだけれど初めてユーリと会ったとき(当時10歳)の衝撃がある分、彼らは不利だ。
だって天使に勝てるわけないじゃん。
......言っとくけど、わたしじゃないからね!?
わたしは溜息を隠しもせず釣書を見やるとチラッとユーリを見た。
今日のガードはユーリです。 ...くっ。今日もカッコイイ...。
そういえば、わたしが11歳ということはユーリは16歳。
前世なら女の子をすごく意識する頃だけど、この世界では、どうなんだろう。
わたしは手元の書類を1つ片付けてから聞いた。
「ねぇ、聞いてもいい?」
傍仕えの1人が書類から顔を上げて問う。
「なんでしょう?」
「男の子は年頃になると女の子をとても意識するようになる、と聞いたのだけど、それって何歳頃からの話?」
「...まぁ、そうですね。早ければ10歳頃でしょうか。貴族の子供は早い傾向にありますけど、遅くとも普通なら12、3歳頃には意識するようになるでしょうね」
「突然、どうされましたか?」
「釣書って、わたしより年下の御子息もいるでしょう?釣書の本人たちは、どう思っているのか、と思って」
それらしいことを言っておく。
「本人たっての希望で釣書を送られているものもありますよ。ただ、幼い御子息となると親の意向でしょうね」
「アニス様は、現在、我が国で一番の理想の相手ですからね」
「...わたし、まだ11歳なんだけど」
「ですから、今のうちに捕まえておこう、ということです。アニス様のお相手に誰が選ばれるのか社交、というか男性たちの間で大変な話題になっています」
「...何それ」
「誰が有力なのか、アニス様は何人と結婚されるのか、アニス様の好みは、等々」
気になる相手のことは、そりゃ知りたいよね。
わたしだって知りたい。
ユーリの意見や気持ちや好みなどを聞きだしたいが自然な方法はないかな?
ユーリと2人きりになることなんて、ほぼないしなー。
わたしの考えとは無関係に話は進んでいる。
「現時点での有力候補はメノーチェ公爵家の次男、マイアー伯爵家の長男、フース伯爵家の三男、ステイトン侯爵家の四男、トランメル男爵家の次男、いや、三男だったか?」
「わたしの聞いたものと少し変わってるな。いつの情報だ?」
「先月末の情報だが、もう古いか」
「わたしの先週聞いたところだと、トランメル男爵家の次男は外れたな。代わりにインペリオリ子爵家の長男が入ってきた」
待て待て待て。インペリオリ子爵家の長男?顔も浮かばん...。
なんでそんなのが候補に?しかも有力だと?
「いいんですよ、言わせておけば。それくらい平和ではないですか。陛下たちはアニス様に婚約者なんて、まだ早い、と仰っておられます。被害は、わたしたちが質問攻めに合うだけです。どうぞお気になさらず」
「そうです。傍仕えという職は口が堅くなければ務まりません。それなのに何度も何度も聞いてくるのは阿呆な証拠です。そんなヤツは釣書にチェックをつけて、それとわかるようにしておきました。いつまで質問攻めが続くのかわかりませんが大丈夫です。わたしたちは大丈夫ですからお気になさらず」
...いや、少しは気にしろ、と聞こえるんだが気のせいだな。
「ただ、デビュタントを済ませても婚約者が1人もいない状態だとアニス様自身が大変になってくると思います。その頃には1人くらい決めておいた方がいいですよ」
「大変て何よ?」
「夜会などで男性に囲まれる、ということですよ。それと親に。父親だけなら少しは対処の仕方もあるのですが母親が出てくると難しくなります。でも婚約者がいれば防波堤になりますから婚約者がいた方がいい、ということです」
...なるほどな。
傍仕えもガードも危害を加えるわけでもない人を夜会という場では邪険にできない。
唯一、守れるのは婚約者という特権持った役割の人、ということだ。
陛下や兄様たちも、あまり期待できないな。
全員、守らなければならない人がいるんだもの。
母陛下は、面白そうに見てるだけ、と予想がつく。
...あれ?ヤバくね?
アイストリアでは男女共にデビュタントは14歳から17歳の間にするもの、という暗黙のルールがあるが女性は大事にされ過ぎて当てはまらないことがある。18歳になってデビュタント、とかいう女性も時々いる。
そして、婚約者が複数人いて女性をがっちりガードして他の男性が近寄れない、など。
もちろん女性が男性に声をかけることはできるが、そういう女性は周囲の男性に言いくるめられて大人しくしている傾向がある。
もちろん周囲の男性には大変我儘な振る舞いなのだが。
わたしには現在、そんな男性はいないので自分であしらわなければならない。
今はか弱い振りをしたり、兄様を隠れ蓑に使ったり、傍仕えに助けを求めたり、と子供であることを利用して逃げているが、デビュタントしたとなれば大人の仲間入り。
か弱い振り以外は使えなくなる。
うーむ。デビュタント前にユーリを篭絡できるだろうか...。
...誰か、作戦ちょーだい。マジで。
腰を痛めました。更新遅くなるかもです。ま、こんなもんいっか。




