好みは人それぞれ
ごきげんよう、アニス・ノア・アイスター 11歳です。
今日は女性だけのお茶会です。
女性陛下とわたし、そして、レスター兄様の婚約者となったフランチェスカ・アーベル侯爵令嬢の。
まぁ、皇族の一員となる女性との顔合わせだ。
フランチェスカ様は19歳。何人かいた婚約者候補から外されなかった唯一の女性。
あの思いあがった阿呆な伯爵令嬢のナントカって人みたいにレスター兄様は、どんどん候補者を落としていった。
わたしは母陛下と一緒に庭園のガゼボに向かっている。
母陛下は「一風変わった御令嬢」と言っていた。
一応、面識はあるが、あまり話したことがないので、どういう方かはわからないが、母陛下とレスター兄様のかけたふるいに残ったのだから、きっと素敵な女性なのだろう、ということはわかる。
カゼボに着くと座っていた女性が立ち上がり、わたしたちに向かって礼をする。
容姿は多分、中の上くらい。要するに、わたしよりは全然可愛らしい。
波打つ金髪は美しく、青みがかったグレーの瞳も綺麗だ。胸もでか、豊かでいらっしゃる...。
大丈夫。わたし成長期。
最初は他愛もない話をしていた。
お菓子は何が好きとか、何をして過ごすのが好きとか、母陛下やわたしの公務も素晴らしい、と持ち上げるのも上手い。
ちゃんとしたタイプの女性だ。きっとおモテになるだろうにレスター兄様の婚約者になって他には男性の姿はないようだ。
わたしの母であった第二女性陛下は夫が皇帝陛下1人だったが、第一女性陛下は愛人がいたことがある。子供ができれば夫にしたのだろうが幸か不幸かできなかった。
その後、別れて、相手の男性は別の女性と結婚したと聞いている。
もちろん、フランチェスカ様もレスター兄様の許可があれば他にも夫を持つことができる。
わたしは、その辺を聞きたかった。
レスター兄様には幸せになってもらいたい。
皇族だから貴族とのパワーバランスも考えなければならないし、他に夫を持つのならレスター兄様のサポートもできるような人にしてほしいけれど前世の感覚を持つわたしとしてはレスター兄様だけを見ていてほしい、とも思ってしまう。
...この世界では異端なので口には出せないが...。
だが、ついに母陛下が切り込んだ。
「ところで、フランチェスカは他に夫を持つ気はあるのか?」
「ないこともないのですが、レスター様より良いと思えるような方がいるとは思えないのです」
「ふふふ。そのようなことを言ってもらえるとはレスターも男冥利に尽きる、というものだな」
ほほぅ、フランチェスカ様は兄様にベタ惚れですな。
でも、レスター兄様は双子の兄たちと違って見た目が、ちょーっと残念だ。(わたし的にはイケるのだが)
どこに惚れたのだろう。やっぱ内面とか言うのかな?
だが、母陛下は、そこを聞いてくれない。
なんでだ。やっぱ内面?なんて、他の人が言うと失礼になるだろう。
生みの親の貴方が言ってくれ。
母陛下が言った。
「聞きたいことがあるなら聞けば良い」
げ。バレてら。
お茶を飲もうとしていたので、カップからチラッとフランチェスカ様を見ると何故か頬を赤らめている。
「?」
「...何かご質問がありまして?」
これは、もう聞くしかない。カップを置きながら言葉を選ぶ。
「わたしもレスター兄様が大好きなのですが、良ければフランチェスカ様は兄様のどんなところを好ましいと感じられているのか聞いても?」
「まぁ、もちろんですわ。わたしはレスター様の計算高いところが好きです」
「は?」
おっといけね。予想外のお答えにびっくりしちゃったよ。
母陛下の方から「くっ...」と聞こえるが涼しい顔でカップを口元に持っているため表情がよくわからない。まぁ怒っていないようなので放置だ。
「皇女様はレスター様と一緒に御公務をされていると聞いております。ですから御存知だと思うのですが、レスター様は大変優秀でいらっしゃいます」
うん、知ってる。
「わたし、頭の良い男性が好きなのです」
ほうほう。わたしも好きです。一緒ですね。
「レスター様が考え込んでおられる姿も好きですわ」
うむ。兄様の横顔は良い。
「そして、何かを思いつかれたときの顔が悪そうで、ぞくぞくするのです」
うん、 ...うん?
「レスター様はお優しい方ですが、時々、容赦ない決断をされることがあります。一国を統治する者としては当然ですわね」
まぁそうだね。
「その時のお顔も良いのです」
...どう良いのか聞いていいものか。
「1年ほど前でしたかしら。皇族に対する反逆行為で、ある貴族を処分したときがございました。そのときも陛下と一緒にぞくぞくするお顔をされていたのを遠くからでしたが拝見いたしました。わたしは部外者ですからお傍でお力になることはできませんでした、大変残念でしたわ」
何か気になる言葉があったけど、兄様の力になりたいとな。
ちゃんと皇太子の妻として女性陛下になるに相応しい方だね。
「次は是非ともお傍で悪いお顔を見たいと思います」
...力になるのはどうした。
「そういう一瞬の悪いお顔が大好きなのです。その一瞬を逃したくないのですわ」
...なるほど、母陛下は知っていたのね、「一風変わった」か。
確かに。
「それに皇女様とお近づきになれたのも良いのです」
「わたしですか?」
「はい。どうぞ、わたしのことはフランとお呼びください」
「フラン様?」
「...レスター様と結婚すれば義姉ですわ。お義姉さま、とかつけてくださると、わたしは大変嬉しく思います」
まぁ、それくらいなら許容範囲だ。どうってことないぞ。
「わかりました、フランお義姉さま」
お?
フランお義姉さまは手で口元を隠されて、さっきより頬を赤らめた。
どーした、何かに触れてしまったか?
「...いい」
「どうかされましたか?」
「いいです。いいですわぁ。美少女のお姉さま呼び」
とうとうフランお義姉さまは両手で両頬を包みふるふるし始めた。
おおぅ。レスター兄様の腹黒と同じようにわたしの顔もフランお義姉さまの琴線に触れるものだったらしい。
見るとガゼボの外にいる見かけない男性たちが沈痛な面持ちで立っている。
きっとフランお義姉さまの傍仕えかと思われるが、隠しておきたいものがバレた、て感じかな。
心配しなくていいのに。
本気でレスター兄様(の悪い顔)を好きなのはわかったし、わたしは、この世界では美少女だから、わたしの顔が好きというのもOKだ。
わたしだってイケメンは見たいし、こんな顔で良ければ、どーぞ見てください、てなもんだ。
「皇女様のことをアニス様とお呼びしてもよろしいかしら?」
「フランお義姉さまなら構いません」
「一緒にお買い物もしたいですわ。是非、アニス様のお衣装を選ばせてくださいな」
「はい、楽しみです(早速、名前呼びだな)」
「一緒にお風呂に入ったり、夜も一緒に寝たりしてみたいです」
「.....」
フランお義姉さまは妄想モードに入ったようで、うっとりしている。
母陛下は残念な子を見るようにしているし、周りは若干引いている。
わたしも少し距離を置いた方がいいだろうか...。
レスター兄様、頑張れ。




