続・立食パーティ
挨拶も終え、わたしは軽く食事をとることにした。
何故か近衛騎士に囲まれてしまったが...(月光騎士に囲まれたい...)
騎士たちは、あれやこれやと世話をやいてくれる。
この世界ではモテるヤツらなので、世話の焼き方が上手い。
欲しい時に欲しいものをくれる。思わず好感度が上がってしまうじゃないか。
そこへユーリがやってきた。
わたしに会釈するとガイに声をかけている。
ガイが、わたしの隣にいた騎士を押しのけてきた。
「ユーリが少しの間、護衛を代わってくれるそうなのでアニス様の隣で食事をとらせていただきますね」と、その場にあった料理を食べ始めた。
なんか、ちょっと図々しい...。許可したのは、わたしなんだけど名前呼びもしてるし。
が、今は、わたしがみんなを労うための場なのでいいだろう。
わたしが何も言わないので、わたしの周りは、かなり、わたしに緩くなった。
口調こそ丁寧だが、やっていることは不敬スレスレなことがある。
前世の感覚があるため、これくらいが、わたしにとっても心地よいものだったりするのだが、それが皇女は天使説を助長しているような気がして何か言った方がいいのかと、最近になって思うのだが非常に今更感があって難しい...。
チラッと後ろを見る。
ユーリは真面目だ。仕事熱心だ。こんな場でも周囲を警戒しているのがわかる。
いいことなんだけど、今日はユーリに気晴らしというか、みんなユーリの味方だよ、みたいなことを少しでも感じて欲しいというか...、まぁ要するに、わたしがいつものユーリに戻ってほしいだけなんだが。
今日はエドワルド団長の勧めでユーリの兄2人も招待して会わせることにしてみたけれど、うまくいったのだろうか。
ずっと会うどころか、連絡もとってなかったのに急に仲良くなれるものなのかな。
ユーリの暗い記憶が、たくさんの明るい色に塗り替えられればいいのに。
もちろん、わたしも明るい色の1つになりたいわけだけど。
ふと横を見ると既にガイの前にあった料理があらかた片付いている。
「ガイ、早いわね...」
「騎士は早食いもできないといけないんですよ。今日は、わたしがアニス様のガードですからユーリが代わってくれたとは言え、仕事に戻らないといけません」
ガイも実は真面目なヤツだった。
ガイは食事を終えるとユーリにお礼を言って仕事に戻る。
そのまま、わたしはユーリを誘って庭を散歩することにした。
少し後ろからガイもついてくる。
人口の小川が作られているところまで来るとパーティの喧騒もだいぶ遠くなる。
ベンチに腰掛けると隣にユーリを(無理矢理)座らせる。
さて、どうしよう。何か声を掛けたくて、でも、あの場では話せないから、ここまで来たのだが...。
実は、ずっと考えていたのだけれどユーリを励ます?慰める?いい言葉が何も思いつかなかった。決して無策だったわけではない。
兄たちと会わせるのも策の1つっちゃ1つだし。料理は、さりげなくユーリの好きなものを用意した。今日のパーティ開催理由を知る人たちもユーリを気にかけてあげている。
ただ、わたしは何もしていない。何もしてあげられていない。つまり、わたしの頭が、その程度だっただけだ。
「お兄様たちと会ったんでしょ?」なんて言ったら知っていたのか、とバレて、それはどう思うだろう、あまり良くないと思う。
「もう平気?」なんて平気なわけないっつーの。大体、平気って何がだよ。
「みんな心配してるよ」...だろうな。だから何だっつー話だよ。
気の利いた言葉1つ出てこない。何が神童だ。皇女なんて立場にいるくせに、わたしの頭は嫌になるくらい普通だ。
「皇女様。ありがとうございます。わたしなら大丈夫ですよ」
小川の水の流れを凝視していたが、視線をユーリに戻す。
優しい笑顔だ。
気の利いた言葉どころか、発言の1つもないのにユーリの方が気を使って言葉をかけてくれた。
「皇女様が、わたしなどを気にかけてくれているのは、よくわかります。でも大丈夫です」
ユーリは、ゆっくり話し始めた。
「今日、何年振りかに兄たちと会いました。新しい邸に、わたしの部屋も用意してくれているそうです。わたしにも実家ができました。帰っていい場所ができたんです」
「ユーリ...」
「帰る場所ができた。素直に嬉しいですよ。自分は天涯孤独と同じだと思っていましたから。エドワルド団長に拾われて、皇女様にお会いしてから全てが良い方向に進んでいるように思います。練武会を開催してくれて近衛になる条件を緩和してくれて練武会で十傑に入って皇女様のガードになりました。皇女様は、わたしにとって幸運の女神です」
ユーリは、クスッと悪戯っぽく笑うと自分の言った言葉を否定した。
「いや、皇女様は天使でしたね」
...くっ!
こんなところで、こんな羞恥ネタをブッこんでくるとは。
やはり、わたしの二つ名は、まだ生きているのか。
綺麗な女の子がいっぱいいる中、この日本人顔で天使とか恥ずかしさに赤くなる。
そんなわたしをユーリは笑って見ている。
ユーリの笑顔、久しぶりに見たような気がする。
少年というか、だいぶ男っぽくなったけれど、相変わらずの可愛格好いい御尊顔に恥ずかしさもどこへやら、だ。
ホントにずーっと見ていられる。
「あの、申し訳ありません。失礼なことを言いました」
わたしのガン見に耐えられなくなったのかユーリが視線を外し、少し頬を赤らめ始めた。
「ううん、別に?ユーリの目が綺麗だな、と思って見ていたの」
「え、綺麗?ですか?」
「うん、前から少しブラウンなんだけど光の加減でピンク色っぽく見えるときがあるな、て思ってたんだけど、今はピンクの方が強くなっているみたい」
「あ、それ」
「?」
「さっき兄にも言われたんです。お前の目は母譲りだと」
「ユーリのお母様?」
「はい。母の目は珍しいピンク色だったそうです」
「そう。ねぇ、もう少しちゃんと見せて?」
ユーリは戸惑いながらも、わたしの方へ向き直ってくれた。目は泳いでいるが。
「綺麗ね。素敵な目を受け継いだのね」
「...ありがとうございます」
わたしは、そのまましばらくユーリが恥ずかしそうにしているのを堪能させていただきました。
美少年の恥ずかしがる姿ったら、もう...。
名前呼びされていないことも指摘すると更に赤くなる。
が、ガイの邪魔が入った。
「アニス様、ユーリ。なんだかおかしな距離と空気感になっていますよ」
ガイ、お前は何度、わたしの邪魔をすれば気が済むんだ。




