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エイダン?



「せんせぇ~、〇〇くんと××くんがケンカしてる~」


5歳なんだから年中さんか年長さんだね。

先生、男の子がケンカしてるってよ。

早く行ったげて...。


わたしは、その〇〇くんと××くんの間で遠い目をしている。


コトの発端はこうだ。

病院が完成するまでの間、5歳熱になった子は運が悪かったね、ごめんね、というわけにもいかず(当たり前だ)皇宮薬師の管理する部屋と城の中の薬師たちに近い場所を5歳熱の子供用に開放して治療に当たっていた。

ライム兄様とわたしで採用した水術師は現在23人。本当に少なかった...。

わたし的イケメン率が高いのは偶然だ。

おじいちゃん指導の下、子供たちに水分補給と投薬治療を行っているが人が足りないと、わたしも手伝っていた。

制服も作ったよ。

「院長先生の回診です」で連想する、あの白衣を元に、わたしがデザインした。

わたし用に子供サイズの白衣も作った。

詰襟にして折った袖口とポケットに水の青をイメージしたラインがワンポイントで、なかなか気に入っている。


が、今、白衣の話はどうでもいい。


わたしは人手が足りないとき以外でも、時間があるとちょくちょく様子を見に来ていた。

わたし、院長だし。

今日も、様子を見に来て皇宮薬師の管理している薬草の栽培も兼ねている庭が賑やかなので庭まで来てみたのだが、わたし大好きーな平民の男の子が「アニスさま~」と突撃してきたのだ。

わたし8歳、相手5歳、男の子の頭が鳩尾に。食事の直後でなくて良かったよ。

これを見ていた貴族の男の子が「...おま、おま、お前っ!皇女様だぞ!何してんだ、離れろ!」ときたのだ。ム〇クの叫びをリアルで見る日が来るとは、という顔に吹き出してしまったが許せ。

平民の5歳児には少しわからなかった身分、でも貴族の5歳児にはわかる身分というものか。

だが、子供相手に不敬だろう、とは言いたくない。いや、失礼を許すのとは違うよ?


てなわけで平民と貴族の子供の「離れろ」「お前が離れろ」のケンカになった、というわけだ。

とりあえず右と左から私の腕を取りつつ、相手を攻撃するのをやめさせたい、が、5歳児とはいえ、8歳になったばかりのわたしの手に負えん、ガイ助けろ、と振り向こうとした瞬間、そのガイのぶっとい腕が2匹、じゃなかった、2人を引き離した。

「こらこら、お前たちの大好きな皇女様が困っていらっしゃるだろう。男なら女の子を困らせちゃダメだ」

この2人は、ガイに任せるとして実は、こんな諍いがよく起こっている。

熱で寝ているしかないときはいいのだが回復してくると5歳の子供がベッドの上でじっとしているのは辛いものがある。

薬師の許可があれば部屋を出てもいいことになっているのだが、そうすると満足な広さがない現在、平民も貴族も関係なく遊んだりする。

病気に平民も貴族もないし、ここにいる間は、ここのルールに従うように言ってある。

だが、ケンカになると、どちらも身分を出してくるのだ。

平民は数の多さを有効に使って「貴族のおぼっちゃんに、こんなことができるか?」と大勢で煽ったり、貴族は「平民なら平民らしく貴族に従え」と身分をかさに着たことを言い始める。

ときには女の子を取り合ったり、女の子に無理を言われてケンカになったり(平民でも女の子の我儘のレベルの高さったら...) と、いやぁ、もう、大変よ...。


今は宮城(きゅうじょう)に勤める使用人に子供たちがケンカしてたら仲裁するようにお願いして何とかしているが、病院完成までに保育士のような職も必要だったな、と遅まきながら気づき、早急に対処することにしよう、と決めたのは、つい最近のこと。


ケンカの収まった子供たちと一緒に遊んでいたが、ふと気になる子を発見した。気にして見ていると木の下に座ったまま、じっと動かない。

子供たちをガイやエイダンに押し付、ゲフンゲフン、任せて、わたしは木の下の男の子に近づいた。

男の子はいわゆる体育座りをして膝の間に顎をのせて、どこを見るともなくぼーっとしていた。

近づいてわかったが顔に大きな傷がある。まだ新しい傷のようだ。

「何をしているの?」

男の子は、わたしをじっと見るだけで返事がない。

「もう熱は下がったの?」

わたしは男の子の隣にしゃがんで話しかける。

やはり答えがないので少年の額に触れる。

うん、熱はないようだ。だが、右眉の上から目を通り鼻より下の方までくっきりついている傷が熱を持っているようだ。

わたしは水の力を使って、そのまま炎症を起こしているであろう部分を冷やした。

男の子は抵抗するでもなく大人しくしている。

だんだんと男の子は、わたしにもたれてきて、ちょっと重い。

ついに抱きしめるような体勢になってしまった。

これがイケメンだったり、ユーリだったら、などと思ったことは内緒だ。

傷のある男の子は能面タイプだった。


寝てしまった男の子をベッドまでガイに運んでもらうと、おじいちゃんのところへ向かった。男の子のことを聞くためだ。

おじいちゃんの話によると彼はシモン・シャスタニエ。男爵家の長男だった。

男爵の妻は平民なのだが、とても綺麗な女の人で他にも貴族の男性ばかりを3人、夫にしている。男爵は4人目の夫だったのだが、それまで6回も出産して全員男の子だったそうだ。だから男爵との間にできた子供を女の子と期待していたのに、また男の子。

妻は、出産して以来、男爵の元を訪れなくなったそうだ。

男爵は、ブサイクに類される容姿をしていたそうで、期待していた女の子でない上に、美しく生まれたシモンに虐待をした。

全てをシモンのせいにしたわけだ。

シモンは5歳熱に罹り、使用人に、ここへ連れてこられたが熱が下がったところ、突然、自分で水差しを割り、その破片で自分の顔に傷をつけたらしい。

シモン本人が嫌がって傷の治療をあまりさせてもらえず炎症を起こしていたらしい。


なんてことだ。

自分で自分の顔にあんな傷をつけるなんて何があったんだろう。

「おじいちゃん、あの子は、もう退院間近よね?ここを出たら男爵家に戻るの?」

「いいえ、体に傷や痣があるので調べさせたら、そんな環境。男爵家には戻さず神殿に預けることにしようと手続きをとっております」

子供を神殿に預ける、ということは孤児院に入れる、と同義だ。

この世界では、男の子が放っておかれ気味なことは、よく聞く話だ。別に虐待というわけではなく、放任主義、と言った方が近い。

だが、暴力はアウトだ。

おじいちゃんが神殿に預ける、というなら、きっとそんなに悪いことにはならない。と思う。

思うのだが、一度関わってしまうと気になる。

「そう...。あのね、病院ができたら子供たちの面倒を見る人を雇おうと思っているの。それは彼には辛いかしらね?それか、薬師としての才能があったりしないかしら。薬草の栽培とか」

「アニス様、そのように困っている子供を全員助けることはできません。シモンを薬草栽培要員に雇うとして、次に困った子供が現れたら、どうしますか?」

「...言いたいことはわかるわ。その場しのぎの自己満足だと言うのでしょう」

「そこまでは言いませんが、1人1人の子供の事情に関わっているとアニス様が病んでしまわれます」

「皇女様、エイダンに預けていただけますか?」

後ろからエイダンに声をかけられる。

「エイダンに?」

「はい。お話の最中に申し訳ありません。忠実な傍仕えに教育できないかと思いまして声をかけさせていただきました」

「傍仕えは候補がいっぱいだったんじゃないの?」

「男性の宮城仕えはたくさんおりますし傍仕えは人気のある職種ですが忠実な、というところが肝要です」

「変なことしない?」

「変なこととは何でしょう。皇女様は、わたしを何だとお思いで?」

「エイダン」

「.....。いいんですよ?わたしは別に。おっしゃる通り候補はたくさんおりますから」

「わかったわよぅ。ただし、暴力とか脅迫とか酷いことしたら許さないからね?」

「承知いたしました」

まだイマイチ納得いかないわたしを見て、おじいちゃんが目を細める。

「アニス様は優しすぎますなぁ」


とりあえず自己満足だろうとなんだろうとシモンを何とかできて良かった、と喜んでいたわたしは後ろでエイダンが満足そうに笑んでいるのに気づかなかった。




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