結果
練武会は10日間を予定していた。
が、それも全て終了した。
結局、ユーリは準決勝でガイに敗れた。本当にガイってヤツは、わたしの邪魔をするヤツだ。(8話でエドワルド団長の抱っこを消滅させた)
ユーリに勝ったときも観戦していたわたしにアピールしていた。ちっ。はいはい、わかったよ、スゴイスゴイ。
歓声をあげていた3人娘もウザい。ユーリが負けたのに喜んでんじゃねぇっ!
これに勝てば十傑だったのに~。
わたしはユーリにたくさん拍手を送った。
だが、ガイも努力をしていたのだろう。ガイを月光騎士団の激励についてこさせたのは失敗だったか...。油断してれば良かったのに...。いや、ガイは実は馬鹿ではない。勝ち進んできている騎士の情報くらいチェックしているだろう。
ガイが悪いヤツでないことはわかっている。最初はユーリの見た目にビビっていたがユーリの態度や強さを見て態度を改めるくらいのことはできる騎士だった。
わたしからすれば、そんな当たり前のことができない人の、なんて多いこと。
十傑には、近衛騎士4名、月光騎士6名が入った。
アーロン団長が優勝、エドワルド団長が準優勝だった。
陽光と春光、励めよ...。
エドワルド団長は月光騎士団の後進の指導に当たるために月光騎士団の団長職を継続、他5人は全員、近衛騎士になることを選んだ。
わたしは十傑になった騎士の中からガイの他にエドワルド団長推薦の元月光騎士団の騎士を2名、自分のガードに選んだ。
ユーリが良かったけど約束だもんな、ユーリが良かったけど。
ガード3人を全員元月光騎士から選んでも良かったのだがガイを含めてバランスをとった。
いろいろあるんだよ。
今日は近衛騎士団の極秘視察と月光騎士団の視察がある。
近衛騎士団には元月光の騎士5人がなじめているかを覗き、じゃなかった、確認に行くため、そして月光騎士団は精鋭が5人も抜けたので問題がないか視察だ...というのは、もちろん建前だ。月光騎士団はエドワルド団長がいるし、元々精鋭ばっかりと言っていいくらいの人材の宝庫だ。大丈夫に決まってる。
わたしがユーリに会いたいだけさ。
いい理由を思いついたんだから会長として視察に行かねば!
でしょ?
今日は元月光騎士のクリスが護衛についている。
ワイルド系イケメンだ。背が高くて銀髪に青が混じったような綺麗な髪色をしたタレ目のイケメン。
ガードとして初めて会ったときから悪い笑顔を向けられている。
...というのは、きっと気のせいだが。 ...なんだか悪い大人に振り回されたいような気分になる。
何人もの女性たちを泣かせてきたんだろうな。でも上手に別れて、また次の女性に...なんて妄想が広がりそうになるが、この世界ではモテない。どころか嫌われる。
でも、クリスはなんとなく女性慣れしているような気がするから雰囲気イケメンてやつなのだろうか?
前世でも一見、モテなさそうな男が何故か女が尽きない、なんてことがあったよな、確か。
そんなことを考えているのには理由がある。
クリスが悪い大人の男ふうなこともあるが、只今、わたしたちは壁の陰に潜んでいるのだ。
つまり、暇なのだ。
この後、休憩時間になると団員たちが壁の向こうで休むことになるのだが、それを覗こう、じゃなかった、見よう、という作戦だ。
非常に拙い方法だがいいのだ、まだ子供なんだから。
それに、こんなことをしてみたかったんだよね。普段、大人してるからさ。
覗きなど皇族にあるまじき行いだがアーロン団長は笑って受け入れてくれた。
さすがにアーロン団長にも内緒で、というのは今後の関係性を考えると、ちょっとマズいし、アーロン団長は信用できる。
もし裏切られたら、わたしの人を見る目は前世を含めても子供で、甘くて鍛える必要があるとわかっていいじゃないか。もちろん裏切った代償は払ってもらうがな。
ちなみに3人娘はいない。いたら確実に見つかる。
団員達が休憩に入りタオルで汗を拭ったり、水を飲んだりしている。
「お前ら強いだけじゃなくスタミナも凄いな」
「強さの秘密はエドワルド団長か?」
「いつも、どんな訓練してるんだ?」
「月光騎士が強いって、なんで今まで知らなかったんだろう?」
「各騎士団に入団すると、あまり会わなくなるからな。まぁ仕方ないだろう」
おや?なんだか凄く友好的。
平民のくせに、とかブサイクのくせに、とか嫌がらせを受けることも考えていたのに拍子抜け。
「そう考えると皇女様が考えたという練武会は大成功だったんじゃないか?」
「あぁ、他の騎士団を意識せざるを得ないから全員の実力向上につながるし」
「まだ7歳なのに神童と言われるだけあるよなー」
「発案したときは5歳だ。この国の皇族の方々は、ちゃんとした方ばかりだから未来は明るいな」
「少し前は、そうじゃないのもいたけどな」
「バカ。城内でそんなこと言うな。俺たちまでクビが飛ぶだろ」
「誰、とは言ってない」
「いくら美人でも、あそこまで我儘が過ぎると俺的にはナシだな」
「皇女様は、どんな女性に成長するんだろう」
「7歳の時点で、あれだけ美しくてお前たちみたいなブサイクにも笑顔で接することができるほど豪胆で優しいんだから、そりゃぁ...スゲーいい女になるんじゃないか...?」
「...だよなー」
ひーっ。褒め殺しとは、このことか。
エイダンは無礼な...と拳を握っているが、そこじゃない。
わたしは、美しくはないし、みんなが言うブサイクはブサイクじゃないし別に優しいわけでもない、ただイケメンの不遇に腹が立っただけ。
そんな自分の思いのまま動いた結果が、今なだけ。
堪らずアーロン団長に合図した。ヤメサセテクレと。
「よし、休憩終了。次は2人1組で打ち合いだ」
アーロン団長、顔が笑ってますよ。
団員たちは、傍から離れていった。
やれやれ、間違った評価が急上昇だよ。
頃合いを見て、今来ましたよ、という顔で現れる。
「わたしが言った通りでしたでしょう?概ね好意的に受け入れられています、御安心ください」
確かにクリスは、そう言っていた。一部、気に食わなそうにしている団員はいるが大きな問題にはならない程度だと。ただ、わたしが、わたしに心配かけまいとして言っているのでは、という考えを払拭したかっただけだ。
それが褒め殺しに合うとは思わなかったが。
その後、近衛騎士たちに労いの言葉を少しかけて月光騎士団へと移動した。
わたしたちに気づいたエドワルド団長が敬礼してくる。
「エドワルド団長、御苦労様。少し見ていましたが、こうして見る限りでは、あまり変わりなさそうですが実際は団員たちの様子はどうですか?」
「それぞれですね。昇進して張り切っているもの、十傑に入れなくて気落ちしているもの、これまでと変わらないもの。でも問題ありません。5人の抜けた穴は、直に埋まるでしょう、たいした穴ではありません」
「団長...。誰に言ってるんです?」
「もちろん皇女様だ。口を挟むとは偉くなったものだな、クリス」
「今のわたしは皇女様のガードですから。正式な」
「皇女様。クリスはこのように言っておりますが使えない、と判断されたら月光騎士団が、いつでも引き取りに伺います。遠慮なくお申し付けください」
「団長、冗談でもやめてください。今でも夢なんじゃないかと思うときがあるんです」
「クリス」
「はい?」
「夢だ」
「...団長!」
気の置けない会話にクスクスしてしまう。
「皇女様、1人落ち込んだまま浮き上がってこないヤツがいるんです、あいつなんですが...」
見ると、そこにはユーリがいる。
木陰に何人かが休憩しているがユーリは腕を顔に乗せ、横になっている。
「次があるからと、あまり落ち込み過ぎないように言っているのですが。トーナメントの準決勝までいっただけでも十分凄いことなのに、それでは満足できなかったようです。自信をなくしてる、というのとも少し違うようで...。皇女様のお言葉ならユーリにも届くのではないかと思って厚かましくもお願いしたいと思っております」
「わたしにできることなどないように思いますが話すだけ話してみますね。わたしもお話したいと思っていましたから」
元気がないのは気掛かりだが話すチャンスとは、なんてラッキー♪
何と声をかけようかと思っていたが、傍まで行くとユーリは腕を外して見上げてきた。
思わずにっこりしてしまう。
上から見下ろすこの角度も素敵です。
が、ユーリは目を見開くとガバッと起きて距離をとった。え。ショック。
1歩詰めちゃえ。
ユーリは、びくっとしたものの、両膝をついたまま、わたしを見上げる。
「こ、皇女様。な、んで、ここに?」
「ふふ、頑張った騎士に会いに来ました」
「...はっ!?...あ、会いに?...お、俺に?あ、違うか、月光のみんなですよね、びっくりした...」
「そうですが、今はユーリに会いにここまできました。準決勝まで勝ち進むなんて頑張りましたね。将来の楽しみな騎士に成長してくれて、わたしも嬉しく思います。ユーリの試合は全部見ていましたよ?」
「あ...、はい。でも...ダメでした」
俯いたため、ユーリのつむじが見える。触りたくなったけど我慢する。
「目標は十傑でしたものね」
「はい...」
ユーリは俯いたままだ。うーん、どうすれば元気になるかな。
「近衛騎士になりたいのですか?」
「近衛騎士に、というか、皇女様をお守り、できる、ように...なれればなぁ、と」
声がドンドン小さくなっていって最後の方が、よく聞こえなかったがガードになりたかったということか。
わたしは、その場にしゃがんだ。
「では、相思相愛ですね」
「...は!?そ、そう、あい!?」
ユーリは、一瞬ポカンとした後に真っ赤になって、また右腕で顔を隠すようにしてしまった。
御尊顔が。
「わたしもユーリが十傑になって、わたしのガードになってくれればいいな、と思っていましたから。相思相愛でしょう?」
「あ、あの、俺、じゃなかった、わたしなんかがガードに、選ばれる、可能性...が?」
「ユーリが十傑になれば、是非、わたしのガードになってもらいたいわ。そんなことはないと思うけれど、もし周りがダメだと言ったら、我儘を発動しようかしら?普段、あまり我儘な振る舞いをしないから、わたしの我儘は受け入れられやすいと思うのよ、これは内緒だけど」
最後はユーリにだけ聞こえるように更に近づき声を小さく言った。
もちろん、わざとだ。
すぐ離れたがユーリは、ぽぽっと音がしそうな勢いで赤くなった。
ごめん、やり過ぎたか。
でも可愛い。美少年のこんな姿ずっと見ていられる。
おかわり。




