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激励



...時間がたつのは早いものだ。来月、ついに記念すべき第一回練武会が開催される。

周囲は多忙を極める。もちろん、わたしもだが。

練武会は騎士の大半が参加することになったようだ。初めての練武会なので4人の団長も相談して全員参加することにしたそうだ。そこで、わたしが各騎士団を激励に行くことになった。

みなさん、お忘れかもしれないが練武会会長は、わたしだからね。

てなわけで、今日は近衛騎士団へ激励に行く。わたしの仮ガード3人も練武会に参加するようだ。「自分こそが皇女様のガードにふさわしい。それを証明してみせます」と意気込んでいた。

それはいいのだが濃ゆい顔が鼻息を荒くしている様は、ちょっと...。

ガイ、お前のことだよ。



訓練場に着くとアーロン団長が労ってくれる。いやいや、今日はわたしが労いにきたのよ。

ん?アーロン団長がわたしの顔をじっと見てくる。

なんだろうと思っていると、わたしの目元に手を近づけて(さすがに触れはしない)

「うまく隠されているのかもしれませんが、お疲れのようですね。皇女様は、まだ子供なのですから、きちんとした食事と十分な睡眠を取らなければなりませんよ。どうぞ、御身を大事になさってください」

と言った。

後ろで当然のようについてきた傍仕えの女性(4話に出てきたアイリを始めとした3人だが、もう3人娘でいっか)が悶えている様子が見なくても伝わってくる。


ふ。わたしには効かんがな。


「ありがとうございます。でも騎士の皆さんが頑張っているのです。練武会を成功させるために、わたしにできることは全てやりたいのです。大丈夫です。兄様たちがうるさいですから、きちんと休んでいますよ」

「皇女様は魅力的なだけでなく、内面も素晴らしい方ですね」

7歳児に魅力的とな?

この世界のイケメンらしい振る舞いなのだろうことは3人娘を見ていればわかる。

わたしは微笑むだけで済ませた。


それよりも、近衛騎士たちの様は、わたしでも「おぉ」と呟いてしまう。なんだか凄く気合入ってるのがわかるな。

来なくてもいいのに、ついてきた3人娘が大変賑やかでエイダンにたしなめられているが抑えられていないな...。3人娘は目がキラッキラしているが、わたしは椅子に腰掛けて、さっきから笑いたいのを堪えている。

能面タイプが厳めしい顔をすると目が細くなって正に糸目。

目、開いてるの?と聞きたい。それがタレ目だったりすると更に面白い。耐えられなくなりそうになるとガイのような濃ゆい顔の騎士を見る。

...うん、気持ちわる...ゲフンゲフン、怖いな。

おかしくて笑いたい気持ちが、すぅっと抜けていく。

能面と濃ゆい顔を交互に見ていたがアーロン団長が号令をかけて団員が、わたしの前に集合する。さすがに素早く、列にも乱れがない。

団長が一言お願いします、というので軽く団員達を見まわした。


「みなさん、御苦労様です。今日はさすが近衛騎士という動きをみせてもらいました。きっと練武会では、近衛騎士が上位に入ってくることでしょう。戦う場はもちろんですが、他での振る舞いでも、みなさんには他の騎士団員たちの手本となることを期待します。みなさんは騎士、そして騎士を目指す者たちの...いえ、騎士を目指していない者たちからも憧れの対象となっているのですから」

ちらっと3人娘を見る。まだ、ぽーっとなっている。やれやれ、しばらく使い物にならないな。


3日かけて4つの騎士団を激励に回った。最後は月光騎士団だ。好物を最後にまわすタイプ、ということではなく、わたしの疲れた目を癒してほしいからだ。

あー、やっぱカッコイイー。

今日は3人娘は1人も来ていない。その事実にイラッとするが静かに見れるから、まぁヨシ。


イケメンたちが切磋琢磨している様は実に素晴らしい!

筋肉もいいっ!腕とか、体にピタリとした服装のせいでよくわかる胸もいいっ!脱いだら腹筋も見事なんだろうな...。今世で、まだ一度も見たことのないシックスパックというものを妄想、じゃなくて想像する。わたしはマッチョは好みでなかったはずなのだが肩書が騎士とつくと、こうも違うのだろうか。さりげなくユーリを探すが、ユーリセンサーがついているはずのわたしなのに見つけられない...。仕方なくエドワルド団長に聞くことにする。

時間は有限だ。


「ユーリも練武会に参加するのですか?」

「はい、半年程前に入団テストをトップで通過して正式に月光騎士団の騎士となりました。練武会にも参加します。どの騎士にも負けない程の熱意で訓練に励んでいます」

「...トップ...、それは凄いですね...ところでユーリはどこに?」

「ユーリは、ここからはちょっと...奥で訓練しているはずですので」

会いたいんだけど、呼んでもらったら邪魔しちゃうかしらね。それは、わたしの本意ではないのだけど...。でも会いたいな。せめて見たいな。

「...」

ちらっと傍で立っているエドワルド団長を見上げる。

「後で、お呼びしましょうか?」

会いたいことが伝わったか?

「はい、そうしてください」

わたしは微笑んで答えた。うまく微笑むことができていただろうか。ユーリに会うのは花園、じゃなくて練武会開催が決まった月光騎士団の祝いの席が最後だ。

本当は、もっと会いに来たいのだけど勉強もあれば公務もある。それに何て言って会いにくればいいのだ。せいぜい訓練しているところを遠目で見るのが関の山...。


まだかまだか、と内心うずうずしていたら休憩に入って団長がユーリを呼んでくれる。

うわぁぁぁぁぁ。久しぶりのユーリ。

背が高くなってるー。少し子供っぽさが抜けてカッコよくなってるー。でも美少年は健在だ。ついでに汗が色っぽいのも健在だ。


ユーリは跪くと

「皇女様には御機嫌麗しく。また、このようにお目にかかることができ...」

などと硬い挨拶をしようとするので立つように言った。

ユーリは、わたしの言葉なので言われた通り立ったものの俯いている。

せっかくの御尊顔が見えません。

「顔をあげて」

ユーリがおずおずと顔をあげると後ろでガイがたじろぐのが雰囲気で伝わってくる。それ以上、何かしたら、またいつかの時のように10歩下がってもらうからな。

「こうして会うのは約2年ぶりですね。頑張っている様子は聞いています。先ほど、団長から入団テストをトップの成績で通ったとも聞きました。凄いですね、ユーリ」

「いえ、騎士団の中では、まだまだです。もっと強くならないと」

「練武会にも参加すると聞きましたが目標があるのですか?」

「それは...やっぱり十傑に入ることです」

「今回は、初の練武会ということもあるのか多くの騎士が参加するようです。十傑に入るのは誰にとっても難しいと思いますが、ユーリが勝ち進むのを楽しみに見ています。個人的にユーリを応援してしまうけれど少しくらいいいわよね。元保護者だし」

「はい!皇女様に恥ずかしくない試合をお見せできるように頑張ります!」

「頑張るのはいいけれど怪我も気を付けてね。随分打ち身も多いみたいよ?」

そうなのだ、見える部分、腕や脛なのだが傷跡が痛々しい。

騎士だし仕方のないことなのかもしれないが絶対美しいはずの体が傷だらけなのは切ない。

頬にも小さい傷がある。大変だ。


「エイダン、差し入れの傷薬を」

わたしが差し出した手に素早く傷薬を渡してくれる。

皇宮薬師製の骨折も直りが早くなる万能薬のようなものだ。


「塗ってあげるから出して」

「え!?いえ、恐れ多いことです。皇女様にそんなことは」

騒いでいるが想定内だ。

「いいから出しなさい。早く」

皇女の言葉は強い。そもそも、この世界では女性の言葉が強いのだが。

「...あの、はい。では...」

やはり、おずおずと右腕を出す。わたしは傷薬を右手にとり左手でユーリの手を引き寄せる。ユーリはたたらを踏んで距離が近くなる。

役得だ。なんてことは考えてない。

ユーリに触れちゃった。なんてことも考えてない。 ...ちょっとウソついた。


手も荒れていたので塗っておいた。剣だこが硬い。

塗り終えると反対の腕も同じように塗る。

少し屈んでもらって頬にも塗った。伏せた睫毛が長いこと!傷はあるけど肌は艶々だ。

「足も塗っていいかしら?」

途端に黙って見ていた団長とエイダンが止めに入る。ユーリも慌てている。

やっぱ皇女が一騎士の足を触るなんて難しいか...。ユーリの立場も考えてやらないとな。既に真っ赤になってるし。

「仕方ない。腕だけにしておきますが、この薬は差し入れですから、あとで塗ってくださいね」

「皇女様が塗ってくだったのだ。ユーリは自分の体をもっと大事にしなくてはいけなくなったな」

「はい、皇女様、ありがとうございました」


激励を終え、戻る道中、ガイがどこか呆然としたふうなのが気になって聞いたみた。いや、別にどーでもいいんだけど。


「月光騎士たちの技術の高さに驚きました。月光騎士団のエドワルド団長がお強いのは知っていましたが団員たちの動きも素晴らしいものがあり、これは近衛騎士もうかうかしていられないな、と感じました。自分は正直、練武会を開催しても十傑は近衛騎士が占めることになると思っていましたし、他の上位も、ほとんど近衛騎士ばかりになるのでは、と危惧していたのです。それでは皇女様の考えられた練武会が、盛り上がりに欠けるのではと思いまして...。ですが、今日は月光騎士の見学に帯同できて良かったです。月光の騎士と当たることがあれば油断できません。心してかからねばなりません」


見学じゃなくて激励なんだが、月光の騎士たちを正しく評価しているようだから、まぁヨシ。

それより鼻息荒いよ、ガイ...。




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