デート
ちょっと聞いてー! なんと! 今日はレスター兄様とデートです。
城下に行くなんて初めてで、超楽しみなんですけど!
ワンピースを着た、ちょっといいところのお嬢様風コーデのわたしと、同じく、ちょっといいところのお坊ちゃん風コーデなレスター兄様。
18歳になったレスター兄様、お坊ちゃんなんていう感じではないけど、まぁヨシ。
それにしても城での格好もいいけど今日みたいな格好も素敵です。短いジャケットも似合うね。
護衛を月光騎士団の騎士にお願いしたいところだったが、皇族の護衛は基本的に近衛の仕事だ。シカタナイ...。今日は、わたしのガードのガイ(もちろん、まだ仮ですよ)とレスター兄様のガードが一緒だ。他にも、どこにいるのかわからないが一般人に溶け込んでいるらしい近衛騎士が5人もいる。
更に城下の見回り当番である陽光騎士団にも告知されている。お忍びも大変だ。
練武会の件、病院の件、とお世話になったのでレスター兄様に何かお礼がしたい、何か欲しいものはないか、と聞いたら、わたしとお出かけしたい、と言ったのだ。少し頬を赤らめた兄様。可愛いか。
そんなことでいいのか、と思ったが、レスター兄様が嬉しそうなので、いいことにする。
ただ、何かプレゼントさせてほしい、とお願いはしてあるが。
自分が楽しみ過ぎて忘れないように注意しよう。
城下は、そりゃぁもう!とっても楽しかった。
見るもの全てが初めて見るものばかり、街並みも、城下に暮らす人々も、働く人々も、お手伝いや遊んでいる子供も。
お肉の串焼きやクッキーのようなもの、キャンディーなど食べ物に目がいってしまうのは仕方ない。お祭りみたいなんだもの。
「お行儀が良くないことだけど、今日は特別だよ」
と言って買ってくれたお肉の串焼きやクッキーのようなもの、キャンディー(つまり、さっき言った全部だ)そして、冷たいジュース。(これを売っていた人は水属性持ちだな)
せめて座って食べよう、と広場に設置されているベンチに座って食べた。
串焼きにかぶりつく。今世初めての食べ方だ。セレブになったもんだ...。
わたしの膝にガイがハンカチを広げてくれた。おおぅ、レディファーストか、そんな言葉、この世界にはないけど。前世の日本という国はレディファーストの概念の薄い国だったから、こうゆう気遣いは未だに気恥ずかしい感じが否めない。
うん、美味い。
「ふふ。アニス、口の周りにタレがついちゃってるよ」
串焼きなんて今世で初めて食べるんだもの。なんで兄様は綺麗に食べれるの?
レスター兄様がハンカチで拭いてくれるが、まだ食べ終わってないから、また拭くことになるだろう。それに手も汚れてしまっている。広場には水場があって良かった。
串焼きを食べ終えるとジュースを片手にクッキーを頬張る。行儀が悪いがいいのだ。
「美味しい?」
「はい、とっても!正直クッキーは城で食べるものの方が美味しいと思いますが、こんなふうに外でお兄様と一緒に食べると、とても美味しく感じます。お兄様も食べて?」
わたしはクッキーを兄様の口にもっていく。
兄様は一瞬、固まったが食べてくれた。頬を赤くして
「本当だ。アニスと一緒に食べると美味しいね」
と言う。おおぅ、兄様、可愛い反応ありがとう。
いや待て、おかしい。わたしがもてなしてもらっているみたいだ。串焼き他も買ってもらっちゃったしな。
「お兄様。次はお兄様のプレゼントを買いにいきましょう。手を洗ってくるから、ちょっと待っててくださいね」
わたしは水場に駆けだした。ガイがついてくる。
手を洗っていると一人の少年が近づいてきた。
水を使いたいのかな?と思って見ると、なかなかのブサイクがいた。
わたしと目が合うと頬を赤らめる。
いや、君に顔を赤くされてもな。
「失礼。あなたは、もう婚約者がいるのかな。もし、良ければ」
「お嬢様には既に婚約者がいらっしゃいます(ウソ)。離れてください。言うことを聞けないのなら子供でも容赦はしません」
「ちょっとガイ。言い過ぎです。ごめんね。わたし人を待たせてるから、もう行くね」
子供に睨みをきかせているガイの手をとってレスター兄様のところへ戻る。
目は小さいけど、お前の顔、濃ゆくて怖いんだよ。
兄様は、すぐそこまで来ていた。
「大丈夫だったか」
「はい、大丈夫です、追い払いました」
兄様もガイも真剣な表情で大袈裟な。ちょっと声をかけられただけだ。体にも触れられていない。
ブサイクだったけど、まだ少年なのに可哀そうに。
ちらっと振り返ると、少年は、まだこちらを見ていた。
「アニス、見ちゃダメ」
兄様がわたしの目を覆うようにするので兄様を見上げる。
「よし、行こう」
いや待て、よし行こうちゃうわ。なんで抱き上げられてるの。
歩きたいよ。それに、わたしも6歳。前世なら小学校入学の年齢だ。そろそろ抱っこは抵抗がある。
いや、イケメンの抱っこに限っては、やぶさかでないが...。
だがしかし、せっかくの城下なのだから自分の足で歩きたい。見たいところをちょろちょろしたいよー。
レスター兄様に訴えてみるが無駄だった。
そのまま貴金属を扱うお店の前まで行き、ようやく、わたしを下ろしてくれた。辺りは先ほどとは違い、貴族らしき人の姿が増え、街並みも高級感がある。
「ここに入るよ」
「はい」
兄様に続いて、お店に入る。眩しい...。物理的に。
「さぁ、アニス。好きなものを選んで?」
「え!?わたしは兄様にプレゼントを贈りたいのですが」
「うん、ありがとう。せっかくだから何か贈ってもらおうかな。でも、わたしからも贈らせて?」
「いえいえ。わたしがレスター兄様にたくさん手伝ってもらったし助けてもらったので感謝の印のプレゼントなんですよ?」
「アニスもいっぱい頑張っていたでしょう。兄様からの御褒美だよ」
「御褒美なんて...兄様とお出かけしているのが御褒美みたいなものなんですけど...」
だが、にこにこしている兄様。
何かおかしい気がするが、レスター兄様は引く気がないようだ。
ささやかなものに留めることにしよう。
「素敵な妹様ですね。お兄様とお出かけするのが御褒美だなんて」
フツメン店員に声をかけられる。
「そうなんだ。わたしの妹は天使なんだ」
なんですとーっ! 天使とか何、恥ずかしいこと言っちゃってるの、兄様! マジやめて、頼む。
「兄馬鹿ですみません...」
何やらフツメン店員と兄様が固まっている。なんなんだ、固まりたいのは、こっちだよ。
「なるほど。ものすごくクる。美少女の上目遣い。天使ですね...」
「そうだろう?だが、あまり見るな」
フツメンくんと兄様、頭上でぼそぼそ喋っても、低い位置にいるわたしには聞こえないよ。何、話してるのさ。
まぁ、いい。恥ずかしくて立ち去りたいくらいだから、物色する振りをして少し離れよう。
でもなー、兄様に贈るなら何がいいだろう。
カフスとか?きっといっぱいあるよな。ネクタイリング、もいっぱいあるよな、ラペルピン、もいっぱいあるよな...。ピアスとか?イヤーカフとか?
「ガイ...。男の人が贈られて嬉しいものって何?」
ガイは、わたし的にはゲジゲジの濃ゆいブ...顔だが、この世界ではモテるタイプだから参考にしよう。
「うーん、女性から贈られるのなら指輪とかピアス、カフスなんかが定番ですかねぇ。でも兄弟に贈るとなると、どうかな。あまり聞いたことがないのでわからないですね。レスター様なら何を贈られても喜んでくださると思いますよ?」
「そうかもしれないけど、どうせなら本当にもらって嬉しいものがいいじゃない。ところで兄弟への定番てないの?」
「うーん、兄弟にプレゼントを贈る女性なんているんですかねぇ」
「え!?」
「兄弟から姉妹へのプレゼントは定番がありますよ。でも兄弟にプレゼントする女性は少ないと思います。だから定番と言える程のものがないんでしょう」
そうなのか。世の女の子たちは兄弟にプレゼントしないのね。
そういえば、兄たちの誕生日には何故かお花が用意されていて、わたしは、それを兄たちに渡していただけだった。子供だから、と深く考えていなかったけど反省しよう。
これからは、ちゃんと自分で考えたものを用意しよう。
1人反省会をしているとレスター兄様が何かを持って近づいてきた。
「アニス、これなんてどうかな?」
それは銀色に青い石が嵌め込まれたバングルだった。
「綺麗。レスター兄様の色ですね」
「あ...、うん、たまたまだよ、たまたまね?気にいったのがそれだったんだ。たいした意味はないんだよ」
「なんだ、ないんですかぁ」
「え!?いやいやいやいや、まったくない、こともない...よ?えーと、そのー、やっぱり自分の色をつけてくれるっていうのは嬉しいよね、うん、そうそう。わたしも、そんなものを贈られたら、すごく嬉しいと思う。いや、待って、間違えた。いや、間違えてないんだけど違うんだ。催促してるわけではないんだ。アニスからのプレゼントなら何でも嬉しいと思える自信がある。だってアニスは、わたしのことを考えて良いと思うものを贈ってくれるだろうからね」
待て待て。最初は、わたわたしている兄様なんて、ちょっとレアで微笑ましかったのに最後はなんだ、それはいかん。嬉し恥ずかしい。もちろん、わたしがいいと思うもの、兄様に似合うものを贈るつもりでいるが、兄様は、そんなふうに思ってくれているんだね。
「じゃぁ兄様。バングルは大きくなってつけられなくなるかもしれないから、兄様の色をずーっとつけられるように髪飾りにしてください。わたしも、わたしの色のものをプレゼントします。」
「あー、ヤバい、あー、天使...、どうしよう、やっぱり天使だ。アニスが可愛すぎてツラい...」
兄様は上を向いて何か言っている。
いつの間にか傍まできていたフツメンくんと横にいる暑苦しい顔のオッサンは誰だ。
なぜか、その2人まで頬を赤くして、こっちをじっと見ている。振り向けばガイも、兄様のガードまで。
どーした、みんな。
その後、兄様と一緒に別室に連れていかれ(オッサンはオーナーで宮城にも出入りしている人だったので皇族とバレた)わたしには蝶をモチーフにした銀色に青い大きな石と小さな石が散りばめられた、なかなかなお値段の髪飾り(くっ、もっと小さいので良かったのに兄様に嫌かい?と哀しそうな顔をして言われると嫌とは言えなかった)兄様には、わたしの色、つまり銀色に緑色の石の嵌ったネクタイリングと剣をイメージしたラペルピンをセットにして贈りあった。
オーダーする勢いであったので、それは丁重にお断りした。すぐに欲しい、といえばチョロかった。
セットにしたのに、兄様からのプレゼントの方が高かった...。




